美味しいって結局なんだ?―『アマゾンの料理人』刊行記念!太田哲雄さん×木村郁美さんトークイベントレポート!

カカオのドリンク「ホットアマゾンカカオ」

木村さん:ここでちょっと太田さんから贈り物です。「ホットアマゾンカカオ(ドリンク)」を皆さんにお召し上がりいただきながら、この後のトークを進めます。太田さんは料理人でありながら、アマゾンのカカオを全世界に広げるべく、ご自身で普及活動をなさっています。

ホットアマゾンカカオ
会場で配られた太田さん特製「ホットアマゾンカカオ」!

太田さん:私の活動の一つが、カカオはチョコレートにしなければ食べれないのではなく、カカオのまま食べることができると知ってもらうことなんです。カカオってそもそもフルーツですからね。

木村さん:そうなんですね。

太田さん:カカオポット(カカオの実)を割ると、中に白い「果肉」がたっぷり詰まっているんです。アマゾンの原地住民たちは、元々はその「果肉」を食べて「種」を捨ててたんです。ところが山火事になっていぶされたときに、その「種」からコーヒーみたいな香りがした。彼らは「これって食べれるんじゃないか」って思って、すりつぶし、水で溶いて飲んだ。それが始まりだといわれています。

普段私たちが食べてるチョコレートは、「種」の部分からできるものなんですが、私はカカオの「果肉の部分」を、ぜひ皆さんに食べてもらいたいなって思っています。今お出ししたのは、その「果肉」の部分を原地住民のおばちゃんたちに鍋で煮詰めてもらって、ジャム状にしたものです。それと、カカオの「種」は発酵食品なんです。「種」を発酵させ、その後梅干しみたいに天日干しして、コーヒーみたいに焙煎にかけるんです。その焙煎にかけた後の種を、1週間ぐらいじっくりと、少しの熱を加えてすりつぶしていくと、ドロドロなペーストになるんです。そのペーストにしたものをお湯で溶き、先ほどの「果肉」を煮詰めたものと一緒に入れて混ぜたのがこのドリンクです。

木村さん:「種」と「果肉」の両方ですね。

太田さん:そうですね。乳脂肪分が一切入ってないのですごく酸味がフレッシュに感じられて、舌に残りにくいと思うんです。カカオ本来の味わいはこんな感じです。今皆さんに、飲んでいただいている、チョコレートになる前のカカオを丸ごと味わってもらうために、ドリンクにしてみました。普段味わったことがない「果肉」を食べてもらうと、「カカオってフルーツなんだ」と納得していただけると思います。

木村さん:私は実はあまりチョコレートが得意ではないのでこのドリンクにはびっくりしました。「果肉」は酸味もあってさらりとしていてまさにフルーツですね!

太田さん:カカオっていうのは、スーパーフード中のスーパーフードで、現地の人たちは薬として飲んでいるんです。もともと薬として飲まれていたものなので体にとてもよく、整腸作用、胃がんを抑制する作用もあり、脳にもいいといわれていますね。

木村さん:太田さんは、カカオ村で働く原地の人たちを、応援したいという意味もあって、普及活動をしているんですか?

太田さん:そうですね。「カカオ村」と呼んでいるのは、その村の方たちが、みんなカカオの農園に携わる仕事をしているからです。縁あって知り合うことができた村の人たちが作るすばらしいカカオを、より多くの人に知ってもらいたいなという思いがあって、活動しています。

「今まで自分が食べていたものって何だったんだろう?」とまで思ったアマゾン体験

木村さん:太田さんがアマゾンへ行くようになったきっかけはなんだったんですか?

太田さん:きっかけになったのは、ペルーでの修行中のことです。ペルーで働いていたガストン・アクリオ(※世界的有名なシェフであるだけでなく、貧しい子供たちが学ぶことができる料理学校を設立するなど、「料理で国を変えた」といわれるペルーの国民的英雄)のレストランでも、アマゾン食材をすごくたくさん使っていたんです。「それってアマゾンのどういう所で穫れるのかな?」と書店に行って探してみたんですけど、その情報が載ってる本が全然ない。同僚に聞いてもらちがあかないし。「もう自分で行ってみるしかないな」と。

アマゾンの市場に行って並んでいる食材を初めて食べたときに、ガツンと衝撃を受けましたね。「今まで自分が食べていたものは何だったんだろう?」って。すごくピュアでナチュラルな味わいの食材なんですね。アマゾン川って濁ってるから川魚は臭いのかなと思っていたのに全然臭みがない。淡水魚と海水魚の間のような深い味わいなんです。ペルーの国土面積って日本の3倍あるんですが、その60パーセントがアマゾン流域です。その広大な自然の中でとれる川魚やフルーツは、こういう味わいがするんだ!って本当にびっくりしましたね。

木村さん:ここまで聞くと、皆さん、アマゾンに行ってみたいと思いますよね。でもご本を読むと、ちょっとやめようかなってなりますよ(笑)。

(会場笑)

だって本当に過酷なんです(笑)。話を聞いていると、「へー楽しそう」って思ってしまいますが、太田さんだから平気なんですよ。青山の有名レストラン「フロリレージュ」の川手寛康シェフが実際アマゾンに同行したんですけれども、もう大変な思いをする(笑)。その川手シェフとの対談が本の最後に載っています。あんなに過酷だったのに、川手さんはもう一度行きたいっておっしゃってるんですよね。

太田さん:そうですね。川手さん「ドM」なのかな(笑)。

木村さん:太田さんが「ドS」だと思うんですけど(笑)。

太田さん:今まではアマゾンに1人で入って、自分だけが学んで満足していたんです。でも川手さんと2人でアマゾンの市場を回っていたら「感動を共有するってこんなに楽しいんだ」と思いました。朝4時ぐらいから夜中まで連れ回してたんですが、アマゾンの奥へと入っていくとき「太田さんどれぐらい歩きますか」と聞かれ、「30分ぐらいですかね」って答えたのに、トータル3時間半ぐらい歩かせてしまったり。川手さんが「インプットが間に合わないから、太田さん、ちょっと休ませてください」って嘆くくらいでした(笑)。

木村さん:太田さんがそんな情況をまるで「普通」のことのように話すと、アマゾンって楽園みたいに聞こえるんですけど(笑)。実際はもっと厳しい所ですよね。

太田さん:そうですね。「生きるか死ぬか、勝つか負けるか」です。生態系の中で自分がどこに位置しているかを、しっかりと認識できる、すごく貴重な場所だなと思います。

木村さん:そういう場所なんです!皆さん!

(会場笑)

アマゾンの食材は「食材本来の味わい」であり、私たちにとって「未知の味」である。

木村さん:そういうことも含めて、この本って、料理人を目指している以外の方でも、すごく刺激を受けると思います。「生きるって、どういうことなんだ?」っていう。

太田さん:それはあるかもしれません。

木村さん:「原点を見つめられる」というか。私は、今まで「美食」を求めてしまっていたんですけど、そうじゃないのではないかと。「まずは食べる。生きるために食べる」ことの本質を知らなくてはいけないんだ、と気づかされました。

太田さん:「食べる」とひとことで言っても、「勝つ側」に回らないと食べられないですからね。やるか、やられるか。狩りの成果次第でその日に食べられるものが決まっちゃうんです。木の上のフルーツしか採れなかったら、フルーツしか食べ続けられない。魚を捕る技術であったりとか、野生の動物を捕る技術がないと、食事にありつけない。それがアマゾンですね。

木村さん:「新しい食材に出会える」という魅力はすごい分かるんですけど、アマゾンはレストランと違って、調理の仕方とかを学べるわけじゃないじゃないですか。にもかかわらずすごい魅力を料理人として感じるっていうのはどうしてなんですか?

太田さん:アマゾンには食材の「原種」が多くて、その食材本来がもつ味わいを留めているんです。私たちにとっては「未知の食材」過ぎるんです。それだけで、もう興奮しっぱなしですよ(笑)。アマゾンで蜂の巣の中のハチミツを直接舐めたときの衝撃って、雷が落ちたような感じです。「僕たちが普段なめていたハチミツって何だったんだ?!」っていう味がするんです。郁美さんにも以前食べていただきましたが、「雑味」が一切ないんです。

木村さん:全然ない。

太田さん:舌の上できれいに溶けてスーッと体に染み込んでいく。毎日このハチミツをなめていたら、どんなに健康な体になるんだろうなって思うような味わいですね。

木村さん:アマゾンの食材と聞くと、「強い」とか「濃い」っていうイメージがあると思うんですけど、皆さんドリンクを今召し上がっていただいて、すごく優しくスーッと入っていくのを感じませんでしたか?

太田さん:ナチュラルですよね。アマゾンの原住民の方たちから、「君たちが食べてる料理っていうのは、香辛料とか味わいで、本来の味わいを消してしまう。だから本当のおいしさじゃない。私たちの料理っていうのは、最小限の調理で、その食材の味わいを際立たせる。これが本当の料理なんだよ」って。私が「料理人」だと知ると、いろいろ料理してくれって頼まれるんですけど、ことごとく「これ駄目だ。まずい」って怒られます。

木村さん:いろんな調味料を足したりするからですか。

太田さん:そうです。「食材の味わいを消しちゃってる」って。たとえば、アマゾンで捕れるカピバラって、いわゆる「ジビエ」(※狩猟によって、食材として捕獲された野生の鳥獣のこと)だと思うんです。でも日本でも西洋でもそうですけど、ワインや香辛料、香草を使わないと、ニオイがあってクサいっていうイメージがあると思うんです。けれど、アマゾンで捕れる「ジビエ」って、クサみが一切ないから水で煮出しただけで食べられるんです。

川手さんと一緒にアマゾン入って、一番始めに川手さんに食べさせたのもカピバラです。川手さん、もう興奮しちゃって食べた瞬間、調理場に走って行って、「料理の仕方見せてください」って。ただ鍋に入れて塩入れて煮てるだけだと知ると、衝撃受けたみたいでしたけどね(笑)。

木村さん:カピバラ、私もいただきました。やっぱり食べてる餌が全く違うんですよね。

太田さん:そうです。環境って大切だなと思いましたね。環境がカピバラにストレスを与えて、こういう味になっているのかなと気づかせてもくれます。

アマゾンの原住民の人たちといっしょに作るアマゾンアンテナショップ計画

木村さん:先ほどのアマゾンの調理法ですが、この本に所々レシピが載っていますよね。

太田さん:そうです。再現可能なレシピとして国内でどうにか手に入るものもありますが、、食材によっては、本気で手に入れるなら200万円するものもありますね(笑)。

木村さん:私がおいしそうと思ったレシピを見たら、材料、「アマゾンの水」って(笑)。

(会場笑)

太田さん:ぜひ現地に来ていただいて私と料理してもらえるといいんですが(笑)。

木村さん:現地といえば、今、料理人の皆さんがこぞってアマゾンに行きたいとおっしゃるそうですね。

太田さん:そうですね。今、川手さんがSNSで発信してくださってから「アマゾンにどうしても行きたいから太田さんと一緒に行かせてもらえないか」という熱いメールが連日届きます。今年連れて行く料理人の方たちは合計20人ぐらいです。川手さんの「ドSツアー」は、その後に私とマンツーマンで(笑)。さらに奥に入るので、通常の料理人の方たちは無理じゃないかなと思いますね。

木村さん:ぜひその20人の料理人の皆さんには、出発前の絶対必要な情報としてこの本の後半を集中して読んでいただかないと(笑)。

太田さん:そうですね。さもなくば現地でなにかあったら、私の料理人界の立ち位置が危うくなるかもしれないです(笑)。

(会場笑)

木村さん:本の最後のほうで、アマゾンで革新的なことをやりたいとおっしゃってましたが、それはどういうイメージなんですか?

太田さん:私はやっぱりガストロノミーの人間なんです。この世界でずっと生きてきましたし、これからも生きていこうと思ってます。その自分が今、一番クリエイティブだと感じるのがアマゾンです。現地でガストロノミーのレストランをやったら世界を取れるんじゃないかと思って、川手さんを2時間口説きましたけど、5分考えて断られました(笑)。

木村さん:5分は、それでも精いっぱい考えてくださった時間ですね(笑)。

太田さん:他にも、アマゾンの原住民たちとアンテナショップを作ろうかなと思っています。ぜひ皆さん、アマゾンに来ていただいて(笑)。私の店のショーケースで商品購入していただくこともできますし、商談にも応じます(笑)。

今アマゾンのカカオを紹介させてもらってますが、始めそのカカオを使ってくださっていたのは川手さんだけだったんです。それが今や日本中のシェフたちから「使いたい」っていう問い合わせをいただいて、卸しています。この流れを見て、現地から、「ぜひうちの村もお願いしたい」と声が上がっているんです。やっぱり彼らの思いをきちんと汲んであげなきゃいけないなと思って。以来、その人たちのことをずっと考え続けているんです。

木村さん:なるほど。

太田さん:どうすることが彼らのためになるのか?だからといって巨大な工場を作ることは、やっぱりアマゾンの自然に対してよくない。まず彼らが作っているフルーツがおいしいのであれば、そのフルーツを彼らに加工する技術を教えて、加工してもらって、それを日本に持って来て、日本の人たちに食べてもらう、というシンプルな流れが一番いいのではないか。例えばアマゾンのイチゴってすごくおいしいんですよ。じゃあそれを、おばちゃんたちと一緒に鍋で煮詰めて、瓶詰めして、日本に持って来て食べてもらったら、すごく喜んでくださるんじゃないかなと。だからジャム工場をぜひ作りたいな、と思って試算してます。

木村さん:すごいですね。

太田さん:うまくいけば今年中に「アンテナショップアマゾン」が出来上がりそうです。ぜひアマゾンに来てください(笑)。

(会場笑)

料理を通じて人と人、人と社会が関係をちゃんと築き上げていける料理を作りたい

木村さん:そんな太田さんにとって「食」ってなんでしょうか。

太田さん:「何事にも代えることのできない大切なもの」ですかね。いい車に乗れなくても、いい洋服が着れなくても、「食」だけが満たされていれば幸せ。

木村さん:この本を今回出すにあたってどんな思いがあったんですか。

太田さん:私は「料理人」なので、「料理本」を出すのが本道だとは思うんです。ただ海外に行って、やっぱり料理だけだと伝えきれないことってあるんだなと分かったんですね。自分がどういう気持ちで「料理の世界」に入って、今までどういうレストランで、どういうふうに修行をしてきたか。それを、より多くの人に知ってほしいなっていう思いがありました。それに「料理の世界」って、どんどん若手がいなくなっているんです。「料理の世界」に行きたいと思う子たちが減っているんですよね。だから、「料理の楽しさ」「食の楽しさ」を伝えたいなっていう気持ちがあります。「料理の世界」って「料理人」になるだけじゃなくて、食べることでも繋がるし、書くことでも伝わるし、さまざまな可能性があるんだよと伝えたくて。

木村さん:太田さんの哲学や、もっと言えば太田さんの人生が詰まった本ですね。読むと、あらためて太田さんのお料理もいただきたいなと思いました。

太田さん:私の料理を食べる前にこの本を読んでいただけると、私が作り出す料理の背景であったりとか、ストーリーが見えてくるのではないかと思います。

木村さん:「食べ手」としてこうありたいなという太田さんの思いについても書かれていたのが印象的でした。

太田さん:ただおいしさを追求し続けるだけで、その背景にも思いを馳せる愛情を持って接するのが大切だなと思います。それは「作り手」もそうですし、「食べ手」もそうです。ただ「技術」に走るのではなくう背景を大切にして、食に接していきたいなと思っています。

木村さん:「料理人が主役になる料理じゃなくて、料理を通じて人と人、人と社会が関係をちゃんと築き上げていける、そういうお料理を作りたい」とご本の中に書かれていて、とても印象的でしたね。皆さまに一言、メッセージがあれば。

太田さん:タイトルが『アマゾンの料理人』という、ちょっとインパクトある感じになっていますが、私という「料理人」がどういうきっかけで、食の世界に進んでいったかが書かれています。私は自分一人じゃ生きてこれていません。人間って一人じゃ絶対生きれないんですよ。それは日本でもそうですし、海外でもそうです。多くの方に助けられて今の私があるので、その時々で私を支えてくれた方たちのエピソードが書かれてます。出会ったみなさんにはすごく感謝してますし、これからは私がそういう支えになりたいと常々思っています。

ペルーという国は国民の60パーセントが貧困層なんです。でも、「料理人」の社会的地位はすごく高い。なりたい職業の上位に「料理人」が入ってくる。フジモリ大統領の存在もあって日本の文化もかなり浸透していて、日本に修行に来たいっていう志の高い子も多いんです。最終的にはそういう子たちの橋渡し役や、受け皿にもなってあげたいなと思うし、スペインやイタリアの人たちにも同じようにできたらと思っています。

木村さん:いろんな経験をなさった太田さんから発せられる一言、一言から、「素敵な生活ってなんだろう、本当の幸せな生活って何だろう」と考えさせてくれる本でもあります。

太田さん:これからの若者は、どんどん世界に出て、たたきのめされて、己の小ささを知って、そこから這い上がってくる経験も大切なのではないかなと思います。世界は日本を中心に回っているわけじゃないんです。外から日本を見てみると、また日本の良さが分かるのではないかなと思いますね。

木村さん:そして、いつかみんなでアマゾンに集合(笑)

太田さん:そうですね。いつでも連絡いただけましたら、私はアマゾンの奥地まで案内できます(笑)。


いかがでしたでしょうか。躊躇せずどんどん新しい世界へ飛び込んでいく太田さんのお話は、こちらまで勇気がわいてくるようですね。
今回、特別に振る舞われた「ホットアマゾンカカオ」は、太田さんのお店でしか味わえないそうです。びっくりするようなおいしさの「ホットアマゾンカカオ」、機会があればぜひ太田さんのお店で味わってみてくださいね。

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