美味しいって結局なんだ?―『アマゾンの料理人』刊行記念!太田哲雄さん×木村郁美さんトークイベントレポート!

こんにちはブクログ通信です。

前回は、料理人・太田哲雄さんへの独占インタビューをお届けしましたが、今回は3月4日(日)に青山ブックセンター本店で開催された「『美味しいって結局なんだ?』太田哲雄 × 木村郁美 トークイベント」の模様をお届けします。太田さんと木村さんはもともとお知り合いということもあって、和やかな空気のイベントとなりました。

太田さんのイタリア・スペイン時代の裏話から、アマゾンカカオに出会うまでの軌跡、そして、カカオを丸ごと味わえる「ホットアマゾンカカオ」のお味とは?

イベントでしか聞けない、太田さんの貴重なエピソードをお楽しみください!

取材・文/ブクログ通信 編集部 持田泰

著者:太田哲雄(おおた・てつお)さんについて

1980年、長野県白馬生まれ。19歳で伝手もなくイタリアに渡って以降、料理人として、イタリア、スペイン、ペルーと3ヵ国で通算10年以上の経験を積み、2015年に日本に帰国。イタリアでは星付きレストランからミラノマダムのプライベートシェフ、最先端のピッツァレストランで働き、スペインでは「エル・ブジ」、ペルーでは「アストリッド・イ・ガストン」などに勤務。現在は、料理をする傍ら、アマゾンカカオ普及のため幅広く活動している。

著者:木村郁美(きむら・いくみ)さんについて

1973年、東京都生まれ。学習院大学文学部英米文学科卒業。1996年、TBS入社。ワインエキスパート、チーズプロ フェッショナル、ジュニアベジタブル&フルーツマイスター・フランスチーズ鑑評騎士シュバリエなど数々の資格を持ち、「歩く食べログ」と言われるほどアナウンサー界きっての食通として知られる。

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海外では自分を表現していかないといけない

青山ブックセンター本店の会場は大盛況

木村さん:私と太田さんとの最初の出会いは、太田さんが出張料理人としていろいろなところでペルー料理やイタリア料理を披露されていたときでした。ある人から太田さんの噂を聞いて「もう絶対食べに行きたい」と思って、何度もお願いしてようやく実現したんですよね。

太田さん:カセットコンロ二つで料理をしていた頃ですね。当時はお客様とお話ししながら料理するというスタイルでした。いまだに出張料理をやってくれないかって依頼があります。

木村さん:太田さんは「引き出し」がたくさんあるので、お料理をしている最中に繰り出されるお話がものすごく面白くて。本にも書かれていますが、イタリアの料理修行時代には、本当にいろんなハプニングがありましたよね。

太田さん:そうですね。イタリア人のメンタルの弱さについては、働いた最初のお店で、びっくりしました。すごくいい料理を作るシェフで、すばらしいなと思っていたら、オーナーの一言でトイレから出てこなくなっちゃったり。

木村さん:料理長だからその人がいないと厨房が回らないわけじゃないですか。

太田さん:そうです。トイレに引きこもって、オーダーがあったらノックする(笑)。オーダーが終わったら、またトイレに帰っていく(笑)。それで回ってるレストランってすごいなと思いました。彼は今イタリアで、世界的に有名な若手料理組合の会長をやってます。

木村さん:でもその方だけじゃなくて、やっぱり繊細なんですかね。

太田さん:そうですね。二つ星で働いていたときも仕込み担当の相方がある日来なくて、シェフに「どうして来ないんだ。仕事が終わらないんだけど」って言ったら、「なんか彼女に振られたらしいから、今週は使いものにならないので1人で頑張ってくれ」って言われて。「彼女に振られたら仕事休めるのか!」って(笑)。

木村さん:びっくりしますよね。

太田さん:「しょうがない」ってオーナーも言ってて、「しょうがないんですか?」っていう感じでしたけどね。

木村さん:そういう意味では日本人って勤勉な上に精神力が強いですよね。

太田さん:日本人は精神力が強く、我慢強いです。海外の人は個性的な人が多いですね。クリスマスの時期、営業中もずっとイヤホンを付けたまま仕事してるデザート担当がいましたね。それが、二つ星のレストランでもまかりとおる。面白かったですね。

木村さん:個性を尊重してもらえるんですね。

太田さん:きちんとやることをやればとやかく言わないから、すばらしいものが出来上がったりします。堅苦しくないし、言いたいことをはっきり言う。たとえば下っ端の子がシェフの肩をたたいて、「これあんまりよくないんじゃない」「こうしたほうがいいんじゃない」みたいなことを、物怖じせずにはっきりと言いますね。最終的には実力がないんで一蹴されることがほとんどですが(笑)。

木村さん:日本の料理界ではあり得ないですか。

太田さん:縦社会ですからあり得ないですね。「海外ではやっぱり自分を表現していかないといけないんだな」と思いました。

木村さん:そういった経験から太田さんが培った「表現」っていうのは、どういう感じなんですか。

太田さん:自分がいいと思ったらそれを貫き通し、「オリジナルとは何か?」を模索するっていうことですね。

世界一予約が取れないレストラン「エル・ブジ」へ

木村さん:イタリアでの料理修行の後、皆さんもよくご存じのスペインの「エル・ブジ」(※科学的な知識や技術をもとにした料理法「分子ガストロノミー」を編み出し、「世界一予約がとれない」と言われたレストラン。2011年惜しまれつつ閉店)に行かれますね。

太田さん:イタリアはやっぱり保守的で現状維持な考え方が強いです。でもその当時、世界の料理界はスペインを中心としてめまぐるしく動いていた。私はその頂点を見たいという気持ちがあって、スペインまで旅行に行ったんです。現地で料理を食べた瞬間に、もう「スペインから呼ばれてる!」と思って、帰ってからシェフに「スペインから呼ばれてるから辞めたい」ってお話をしたんです。けれど、その時点ではまだスペインで雇い先のレストランは決まっていなくて(笑)。

木村さん:実際はまだ呼ばれてなかったわけですからね(笑)。

太田さん:だいたい、スペイン語もしゃべれないし、なにもわかっていない。シェフの友人たちに「スペインで働きたいんだけど、どっかあるかな。すごく働いてみたいレストランもあるんだけど、そこへのアタックの仕方が分からなくて」って聞いてみたら、「エル・ブジ」だったら入れるかもしれないよって教えてくれたんです。「よく分かんないだけど、入れるって言うなら『エル・ブジ』でいいやって」(笑)。

木村さん:当初、最先端を走っているレストランが「エル・ブジ」だとは分かってなかったんですか!

太田さん:クリエイティブな料理をやっていて、料理の世界を引っ張っているっていうのはもちろん分かっていたんです。ただ「自分がもう心底好きな料理ではないな」と思っていました。私が「スペインに呼ばれている」って感じたその店は、実は「エル・ブジ」の料理長フェラン・アドリアさんとものすごく仲が悪い、カタルーニャのもう一つの三つ星レストラン「カン・ファベス」ってお店だったんです。そこのシェフのサンティ・サンタマリアの料理を食べて「もう絶対にスペインに行きたい」となったんですね。

木村さん:「カン・ファバス」のどんなところにひかれたんですか。

太田さん:何を食べてるかが、きちんと理解できるようなすごくクラシックな料理を作っているところです。フランスのエッセンスを入れたスペイン料理といいますか。例えばハトだったら、絶妙な焼き加減で、暖炉の香り、薪の香りを付けて焼き上げるのが一番おいしい。液体窒素を掛けるとか、スポイトで何かするっていうことはしない。というのもサンティ・サンタマリアが言っていたことは「料理で遊んではいけない」。「料理は神聖なものだから、季節を生かして、春ならアスパラが出たら、アスパラのオムレツをつくればいい。それだってすばらしい料理なんだ。三つ星レストランの料理人が、最高の調理をして、すばらしいオムレツを作れば、それが逸品になるんじゃないか」っていうことを言うシェフでしたね。彼はもう亡くなってしまったんですけど、いまだにすごく好きなシェフの一人で、今も影響を受けています。
でも「カン・ファベス」でのアタックの仕方が分からない上に、スペイン語が話せない。知り合いが繋いでくれたのは、その対極の「エル・ブジ」だった(笑)。まあでも最終的に「カン・ファベス」に行ければいいから、とりあえず「『エル・ブジ』でいいや」って。

木村さん:「でいいや」って(笑)

太田さん:その「エル・ブジ」が門を開けてくれたので、じゃあ行ってみようと、入ることになりました。

木村さん:「エル・ブジ」では、無給で住み込みで働くんですよね。

太田さん:そうですね。もう世界中から、修行したいっていう子たちが来る。50人ぐらいスタッフがいるんですけど、給料をもらえるのはせいぜい5人ぐらいで、あとは無賃。その期間一生懸命勉強する中から、優秀な人だけ翌年5人ほどが残り、セクションシェフになっていくシステムです。

木村さん:お仕事があるときは賄いがあるけども、お休みのときはお給料も出ないし食費がない。そこで太田さんが取った行動は、本当に「さすがだなあ」と思って。

太田さん:賄いも1日1食しか出ないんですよ。だから、おなかも減る。「エル・ブジ」って、さまざまな国の人たちが一つ屋根の下で一緒に住むんですが、誰かが料理してると、「一緒に僕の分も作ってくれない」と言ってきたりするんです。僕は結構頼られることが多くて。それである日、スーパーから帰ってきて、ふと、目の前に海があるんだからと思って、モリとシュノーケルと足ひれを買って、海に潜ってタコを突き始めたっていう(笑)。

木村さん:それであだ名が…「プルポマン」って(笑)。スペイン語で「タコ男」ですよね(笑)。すごいですよね。本当にたくましい。

太田さん:食欲に突き動かされての行動です(笑)。

イタリア貴族の専属料理人として、レストランシェフでないからこそ得られたもの

木村さん:「エル・ブジ」の後、またイタリアに戻るんですね。

太田さん:そうです。「エル・ブジ」の頃に、中南米の子たちから「絶対に南米を見るべきだ」と言われていて、すごく刺激を受けてたんです。その準備をしていたんですが、イタリアの友人から電話で「ちょっとミラノに来てくれないか」と言われて。それで時間を作って飛行機でミラノに行って面接を受けたのが、「悪夢の始まり」と言っていいのか分からないですけど……(笑)。

木村さん:言っていいかもしれないですよ(笑)。ここからのストーリー、本当に、こんな経験をした人っていないと思います。

太田さん:友人からの誘いはミラノの貴族の邸宅で、彼らの専属プライベートシェフになってくれないかという話でした。80歳近くの旦那さんは生まれてから一度も働いたことがないそうで、対して奥さんはファッション系の仕事をしている。面接時はすごくすてきな夫婦だなと思って、いい経験になるからやってみたいなと素直に思ったんですけど、働いてみたら、「あら?」って(笑)。びっくりエピソードがたくさんあります。

木村さん:本を読んだ方は分かると思うんですが、本当にこのマダムがすごい方、もうすごいとしかいいようがない。本当にめちゃくちゃですよね。

太田さん:働いて数日たったぐらいの時に言われたことが、「気を患うぐらい私のことを考え続けなさい」って。

(会場笑)

木村さん:すごいですね(笑)。

太田さん:「エル・ブジ」でもそこまで言われたことはないですね。「料理のことを考え続けなさい」とは、もしかしたら言われたかもしれないですけど。「マダムのことを24時間考え続けろ」って(笑)。「私は家の中ではストレスを一切感じたくない。あなたたちは、もう気を患うほど考え続けて私に接し、私を癒やしなさいって言われましたね。

木村さん:すごいですよねえ。これはどのレストランで働いても、なかなか得がたい経験だったと思うんですが(笑)。

太田さん:料理人は私一人だったんで、相談する相手もいないですし(笑)。マダムのわがままを毎日聞いてました。旦那さんのことも彼女のことも名前で呼んじゃいけないんで、「マダム」って呼び続けなきゃなんです。こんな経験はレストランでの日々ではあまり考えられなかったですね。

木村さん:そこは結局何年勤められたんですか。

太田さん:1年半やりました。多分、一番白髪が増えた時期じゃないですかね(笑)。

木村さん:その1年半で他のレストランでは学べない、何か最高のお土産もらえたなっていうものはありますか。

太田さん:私は今までイタリアの名だたるレストランで料理を作っていたんですが、「自分が作っている料理って、本当にイタリア料理なのか?」って疑問があったんです。今まではレストランが看板になってくれていたからレストラン名で評価してもらえてるのかな?」という思いがあったんですが、手ごたえを感じられない部分もあって。

個人家庭の専属シェフになるなんてことは、すごく特殊なことだと思うんです。例えば、日本で私がアメリカ人を雇って、毎日毎日、自宅で日本料理を作らせるのと同じで、自分たちの生活に引き入れて、食べ物を作らせる。食べ物って、自分たちの身体を作るものじゃないですか。それを異国の人に作らせるのかって考えると、すごいことだなと思えて。

だから毎日、本当に「気が患う」ほど、彼らの顔色とか食生活とかを見て、足りてないものを補えないかなと一生懸命考えました。その家の娘さんが最近肉料理を食べることが多いと聞いたら、野菜を食べさせるようにしたりとか。マダムは嫌いなものがすごく多かったんですけど、嫌いなものを使わないんじゃなくて、分からないように使った。

木村さん:お母さんがお子さんのために、ニンジンを刻んで入れるみたいな。

太田さん:そうです。マダムや家族には「絶対使ってません」って言うんですけど(笑)。ばれずに済みました。やっぱり、食で彼らの健康を維持しなきゃいけないので、彼らの「お母さん」の気持ちですよね(笑)。プライベートシェフっていうと聞こえはいいですけど、毎日、毎日が家族がどうやったら健康に生きていけるかだけを考えて、食で支えるという。

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