第71回毎日出版文化賞贈呈式潜入!東浩紀さん、前野ウルド浩太郎さんら受賞挨拶を公開!

こんにちは、ブクログ通信です。

11月30日、第71回毎日出版文化賞贈呈式が行われました!

「毎日出版文化賞」は毎日新聞社が主催し、毎年11月に受賞作が発表されています。終戦後の1947年に創設され、優れた出版物の著編者、出版社などを顕彰する賞となります。選考は、「文学・芸術」「人文・社会」「自然科学」「企画」(全集、講座、辞典、事典、書評など)「特別賞」の5部門で行われ、2016年9月1日~2017年8月31日までのに初版が刊行された出版物や、その期間中に完結した全集が受賞対象です。

今回ブクログ通信では第71回毎日出版文化賞贈呈式に潜入。受賞者のみなさんの挨拶の様子をお送りします。

受賞作紹介と挨拶

古処誠二さん

受賞者挨拶:古処誠二(こどころ・せいじ)さん

デビューから17年にして、編集者さんのアドバイスに耳を傾けながら書いた作品が『いくさの底』だったとのこと。「いまさらながらに、担当さんのおっしゃることは、正しいと感じまして」と話し、会場の笑いを誘っていました。賞を与えても恥ずかしくなかった、良かった、と言ってもらえるような作品を次に書きます。そう、短いながらも決意に満ちた抱負を述べていらっしゃいました。

文学・芸術部門 古処誠二さん『いくさの底』(KADOKAWA)

ビルマ北部山岳地帯の小村に駐屯することになった日本軍。そこで、日本人将校賀川少尉が首を切られ殺される。しかし、その二日後には村長も同じ手口で殺された。殺した理由は何なのか。犯人は、日本兵か、村人か、それとも?兵士も住民も疑心暗鬼にかられるなか、そこで渦巻く内紛や私怨があらわになっていくサスペンス。

著者:古処誠二(こどころ・せいじ)さん(KADOKAWA)

1970年、福岡県生まれ。元航空自衛官。2000年、自衛隊レーダー基地での盗聴事件を描いた『アンノウン』で第14回メフィスト賞を受賞し作家デビュー。以後は戦争を舞台にした作品を多数執筆。『七月七日』、『遮断』、『敵影』が直木三十五賞候補。『線』をはじめとする一連の執筆活動に対し、第3回池田晶子記念わたくし、つまりNobody賞を受賞。

古処誠二さんのおすすめランキング

参考リンク

カドブン「古処誠二『いくさの底』インタビュー」

人文・社会部門 東浩紀さん『ゲンロン0 観光客の哲学』(ゲンロン)

東浩紀さん

受賞者挨拶:東浩紀(あずま・ひろき)さん

『ゲンロン0』は東さん自らの会社で出版をし、社長が書いているということ。それは同人誌みたいなものだけれど、選考対象となり、受賞したことに驚いたそうです。

そして『ゲンロン0』の執筆動機について、哲学や思想は「敵か味方か」ということとは別の道をとらなければいけないし、これまで扱われてこなかった観光という言葉から、政治思想や哲学の欠点や、現実を抜け出す道を探っていきたかったのだと語りました。政治と文学の接続によって、「まともなもの」と「そうでないもの」と思われがちな両者を分けて考えることなしに、トータルな政治思想を考えたい、と思って書いた本なのだ、とも。

これからも著者としてだけでなく出版社としても、気前のいい、リベラルで知的な空間を作っていきたいと語って挨拶を締めています。

ゲンロン0 観光客の哲学

著者 : 東浩紀

株式会社ゲンロン

発売日 : 2017年4月8日

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グローバリズムが世界を覆い、ナショナリズムの波が押し寄せる時代、私たちはいかにして新たな政治思想の足がかりを探し、他者と共に生きる道を見つけることができるのか。東思想の新展開を告げる渾身の書き下ろし。ブクログ大賞人文書部門大賞受賞作。

著者:東浩紀(あずま・ひろき)さん

1971年東京生まれ。批評家・作家。ゲンロン代表。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。専門は哲学、表象文化論、情報社会論。著書に『存在論的、郵便的』(サントリー学芸賞思想・歴史部門)、『動物化するポストモダン』、『クォンタム・ファミリーズ』(第23回三島由紀夫賞受賞作)、『一般意志2.0』、『弱いつながり』(紀伊國屋じんぶん大賞2015受賞作)ほか多数。『ゲンロン0 観光客の哲学』は第5回ブクログ大賞人文書部門受賞作。

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参考リンク

[2017年9月20日]「観光客」と「家族」を繋ぐはずだった「書かれざる章」とは―東浩紀さん『ゲンロン0 観光客の哲学』ブクログ大賞受賞インタビュー前編

[2017年9月21日]『ゲンロン0』とは「大きな間違い」?―東浩紀さん『ゲンロン0 観光客の哲学』ブクログ大賞受賞インタビュー中編

[2017年9月22日]潰れかけた時に奮起できた「郵便的コミュニケーション」―東浩紀さん『ゲンロン0 観光客の哲学』ブクログ大賞受賞インタビュー後編

自然科学部門 千葉聡さん『歌うカタツムリ』(岩波書店)

千葉聡さん

受賞者挨拶:千葉聡(ちば・さとし)さん

もともと、昔子どもだった大人のためのファンタジーを書こうとしていたのですが、気が変わってしまった。本書執筆のモチベーションは、私たちの身の回りを覆っている科学への危機だったそうです。だからカタツムリという題材から進化を語ると同時に、科学とは何なのか、それはどう展開するのかを語ろうと考えた。というのも、科学は真実を追究する試みだけれど、今は真実を明らかにするよりもビジネスに重きを置く時代になってしまったからだと。

童話の裏にはゾッとするような暗喩や教訓が込もっているように、『歌うカタツムリ』というタイトルにも意味を込めたそうです。タイトルはカタツムリのかつての豊かな営みを意味すると同時に、科学の営みとは何か、そして科学の黄金時代とありうる時代の一つについて、暗喩を込めた。この思いが多くの読者に伝われば、と真摯に挨拶を締めました。

ちなみに挨拶の中、今年の「私に近い分野の中での一押し」として前野さんの著書についてふれながら、「バッタ博士にこんな苦労をさせないでほしい」とも。「でも、本人は楽しそうだから、まあいいか」と付け足して、会場の大きな笑いを誘っていらしゃいました。

生物進化の研究において重要な争点となった、カタツムリ。さまざまな学者たちが論争を重ねてきた。研究の進展を紹介しながらカタツムリの進化を重ねて描き、あたかもカタツムリの姿のような、螺旋状の歴史絵巻が織り上げられる一冊。受賞作のタイトルは、ハワイの住民たちが「カタツムリが歌う」と信じていたことに由来。

著者:千葉聡(ちば・さとし)さん

東北大学東北アジア研究センター教授、東北大学大学院生命科学研究科教授(兼任)。1960年生まれ。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。静岡大学助手、東北大学准教授などを経て現職。専門は進化生物学と生態学。大学院修士課程でカタマイマイに出会い、小笠原諸島を出発点に、北はシベリア、南はニュージーランドまで、世界中のカタツムリを相手に研究を進める。

同姓同名の歌人がいらっしゃいますので注意が必要です。進化論研究者千葉聡さんの代表的な著作は、こちらです。

参考リンク

東北大学 研究者紹介「千葉聡」

企画部門 田川建三さん訳著『新約聖書 訳と註 全7巻(全8冊)』(作品社)

田川建三さん

受賞者挨拶:田川建三(たがわ・けんぞう)さん

これまでの研究を一般にわかりやすく公開するというのは学者として当然の義務を行ったまでのことだから、たったそれだけのことで晴れがましい賞を頂いたのは照れくさく気恥ずかしい。会場は一瞬謹厳な雰囲気に包まれました。

しかし70年もの間続いた賞のご努力の一端に参加させていただきます、という気持ちから賞を頂いた。出版に関わった全てのかたの尽力によって一冊の本が生まれたのだし、出版社の苦労と大きな負担もあって、「下手をすれば、ちょっとした赤字にもなりかねない」。照れくさいとか言ってる場合じゃなくて、毎日新聞社と一緒になって作品社への感謝を表現するため、遠くから授賞式に出てきたのだ……。噺家のような名調子に、会場は大きな笑い声で一杯になりました。

受賞者他の4人は「平均年齢で言うと私よりも30歳若い」し、これからも優れた作品を出して貢献が期待される方々。もう自分は82歳で大作を仕上げてヘトヘトに疲れきって、毎日居眠りをして残りの余生を過ごしたい。けれど、受賞通知が舞い込んできたことは「お前ももっと、がんばって次の作品はもっと良いものを書け、というメッセージ。「年寄りにとって過酷な話。しかし受け取ってしまった以上、もうしょうがないですから、私も少なくともこのあとの数年間はもう一つ大きな著作を仕上げるために必要な努力をし続けなければいけない……のかな?」と挨拶を締め、会場の爆笑を生み出し大きな拍手で迎えられました。

これまで『新約聖書』はさまざまな翻訳が発行されており、近づきやすい書でもあります。スタンダードな「新共同訳」はカトリック・プロテスタントの共同作業による訳出です。ただし田川建三さんによれば、新共同訳はキリスト者たちによる翻訳であることから翻訳に護教的な解釈が入り込んでしまうこと、そして訳註がついていないことが欠点とされています。その欠点を補うために田川さんは翻訳に取り組み、本書が生まれました。

訳著者:田川建三(たがわ・けんぞう)さん

1935年東京生まれ。新約聖書学者。ゲッティンゲン大学、ザイール国立大学、ストラスブール大学、大阪女子大学などを経て、大阪女子大学名誉教授。主な著作に、『書物としての新約聖書』『イエスという男 逆説的反抗者の生と死』など。

田川建三さんのおすすめランキング

参考リンク

個人ページ「田川建三からのお知らせ」

特別賞 前野ウルド浩太郎さん『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社)

前野ウルド浩太郎さん

受賞者挨拶:前野ウルド浩太郎(まえの・うるど・こうたろう)さん

モーリタニアの民族衣装をまとって登場。授賞式ということでアイロンをしてきたのだけど、一人暮らしの男性にとっては範囲が広く、途中で挫折しそうになったとのこと。元々、受賞式は欠席の予定でビデオレターも送っていたのだそうです。文字通りアフリカの奥地にバッタを倒しに行っていたのだけど、諸事情により今年はバッタがまったくおらず、商売上がったりのため一時帰国で帰ってきたために賞に参加できたのだそう。

受賞作『バッタを倒しにアフリカへ』の担当編集者のかたとは、「誰かに薦めたくなる本を作りましょう」を合言葉に推敲を重ねてきたそう。出版後にはTwitterで多くのコメントが出たし、書店員も悪ふざけに近いPOPで紹介しているし、無関係だった人たちが本を薦めている様子に「この本を出せれてよかったな、と思っております」。3ヶ月で10万部を達成し、「広く読者に支持された著作物」として毎日出版文化賞特別賞を受賞したことで、最初の合言葉が実現した、と喜んでらっしゃいました。まだ中途半端なシーンにいる自分だからこそ若い人たちに親しみをもってもらえてるのかもしれないし、今後プレッシャーに負けず、この賞を励みに頑張っていきます、と挨拶を締めました。

バッタ研究者だった前野さんは、研究のため単身、モーリタニアへと旅立った。それが、修羅への道とも知らずに……。バッタだけでなく、研究、そして人生との格闘が始まった。モーリタニアで経験した一部始終が記されています。

著者:前野ウルド浩太郎(まえの・うるど・こうたろう)さん

1980年秋田県生まれ。弘前大学卒、神戸大学大学院自然科学研究科博士課程修了、京都大学白眉センター特定助教を経て、国立研究開発法人国際農林水産業研究センター研究員。モーリタニアでの研究活動と意欲が認められ、現地では最高の敬意が込められているミドルネーム「ウルド」(~の子孫の意)を授かり、通名・研究者名にする。「研究のことを世に知ってもらう宣伝活動と研究活動の2軸を柱にバランスを考え」活動中。主な著書に『孤独なバッタが群れるとき――サバクトビバッタの相変異と大発生』。

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参考リンク

前野ウルド浩太郎さんTwitter

前野ウルド浩太郎さん公式ブログ「砂漠のリアルムシキング」

PRESIDENT Online「前野ウルド浩太郎」記事一覧


最後に、記念撮影の時間です。受賞者・出版社・選考委員のみなさまがたの記念撮影が行われました。全員勢ぞろいのカットがこちらです。
第71回毎日出版文化賞 記念撮影

受賞者、担当編集者、出版社のみなさまがた、本当におめでとうございました!