三浦しをん「暗黒に輝いているみなさんの姿を観てほしい」―映画『光』公開記念!三浦しをんさん・大森立嗣さんトークイベントレポート

こんにちは。ブクログ通信です。

今週2017年11月25日(土)から公開される、原作・三浦しをんさん、監督・大森立嗣さん、主演・井浦新さんによる映画『光』。三浦しをんさんの作品の中でも人気の高い異色作が、監督・大森立嗣さんの手によりついに映画化されることになりました。
去る10月27日(金)、秋葉原での特別試写会後に行われた三浦しをんさんと大森立嗣さんのトークイベント。お二人が原作・監督としてタッグを組むのは、『まほろ駅前シリーズ』から3度目なのだそう。今回、ブクログ編集部はそのトークイベントに潜入し、そこで交わされた貴重なお話を独占公開させていただきます!

2017年11月25日(土)公開『光』オフィシャルサイト


大森「映画化したいって気持ちが湧いてくるんですが、簡単にそんなこと言い出せないような、怖い小説だった」
三浦「監督に『光』を読んでくれ、そして撮ってくれって、ずっと念を送っていたんで、それを感知なさったのかもしれない」

大森立嗣さん(以下大森さん):今回一般のお客さんが初めてご覧になるとうかがいまして……まあびっくりしたことでしょう(笑)。いろいろ思うことがあると思いますが、ちょっと応援してください。よろしくお願いします。

三浦しをんさん(以下三浦さん):すごい演技をご覧になって、呆然なところだと思いますけど、これから監督にいろいろお話をうかがいたいと思います。よろしくお願いします。

―司会のほうから、最初質問させていただければと思います。まず、原作を書かれた三浦さんにおうかがいしたいんですけども、いわゆるこの『光』という作品は、かなり人間の闇というか、ダークサイドみたいなところを描かれていると思うんですけども、この原作が生まれたきっかけや、なぜこれを書こうと思われたのかというところを、おうかがいできればと思います。

三浦しをんさん大森立嗣さん対談1

三浦さん:そうですね。普段はわりと希望に満ちた小説を書きたいなという風には思っているんですけど、たまに「心の暗黒成分」がたまってきて、なんか「おためごかし」(※人のためにするように見せて実は自分の利益を図ること)が、許せなくなるんですよね(笑)。それがマックスにたまったときに書いたのが、『光』という小説です。

―これはもともと、連載をされていたかと思うんですけど、日常に潜む暴力みたいなものをテーマに書こうと思われた理由を教えてください。

三浦さん:直接的な、殴る蹴るじゃなくても、残酷さだったり、理不尽さって、日常の中や人間関係の中にけっこうあると思うんですよね。お互いについて全然理解しあえてないのに、理解できたふりで、夫婦生活をしているみたいなことって、よくあるじゃないですか。そういうのが、たまにほんとに、すごい嫌になるんですよ。まあ私、夫婦生活したことないんで、分かんないんですけど(笑)。脳内で想像するだけで「あーもう離婚だ」ってなるんですよ(笑)。そういう感じですかね。なんかその、暴力ってのは。

―大森監督は三浦しをんさんの『光』を読まれたきっかけと、読んだときのご感想をおうかがいできますか。

大森さん:三浦さんの小説ですし、『光』という意味深なタイトルだったんで(笑)、すぐに読んだんですけど、その前に『まほろ駅前』シリーズ(以下『まほろ』)を、撮らせていただいてたので、「なんてこった」と(笑)。「三浦さん、あるんじゃんこういうの」て(笑)。むしろちょっと嬉しくなった部分がありつつ、映画化したいって気持ちが湧いてくるんですが、簡単にそんなこと言い出せないような、怖い小説でしたね。

―『まほろ』を撮られたあとに、この作品を読まれたんですか?

大森さん:これはね、『まほろ駅前多田便利軒』のあとなのかな。三浦さんに『光』をやりたいですって話を、『まほろ駅前多田便利軒』の宣伝のときか『まほろ駅前狂想曲』(以下『狂想曲』)のときにした記憶がありますね。

―三浦さん、そのときのこと覚えてらっしゃいますか?

三浦さん:はいそうですね。『狂騒曲』を撮っていただいて、お会いしてるときに、おっしゃっていた気がしますね。私はずっと大森監督の映画が好きで。デビュー初監督作品の、『ゲルマニウムの夜』から好きだったので、『まほろ』シリーズを撮っていただいたときも、すごく嬉しかったんですよ。今回『光』を、もし映画化していただけるとしたら、絶対に大森監督に撮っていただきたいと、ずっと思ってきたので、『光』映画化のお話をいただけたときに、ほんとに「よし、やった!」って(笑)。「監督、『光』の存在気付いてくれてたんだ、読んでくれてたんだ!」みたいな感じで(笑)。

三浦しをんさん1

大森さん:もちろんですよ(笑)。

三浦さん:すごい嬉しかったですね。それは、すごい覚えてますね。

―すごく偶然だったんですね。

三浦さん:私はでも監督に『光』を読んでくれ、そして撮ってくれって、ずっと念を送っていたんで、それを感知なさったのかもしれない。

大森さん:うーん、分かんない(笑)。

三浦「監督が小説とは違う風にしてくださって、小説の欠点を解消してくださったんですよ。『そうか、小説もこういう風にすればよかったんだな』って(笑)」

―本格的に、この作品が映画になりますよと聞いた時の三浦さんの印象は「とうとう来たか」みたいな感じですか?

三浦さん:そうですね。監督から『狂騒曲』のときに、ちらっとその話はあったんだけど、そのあと「もうプロデューサーさんもいるんだよ」みたいな感じで。監督からじきじきにお話をいただきました(笑)。普通、こういう映画化のときとかって、プロデューサーの方から出版社に依頼されるケースが多いんですけど、今回は、そうではなかった。

大森さん:必ず俺に撮らせてくれると、思ってたんですね(笑)。

―監督自身がシナリオを書く際には、三浦さんとどのようなやりとりをされていたんでしょうか?

大森さん:まあ『まほろ』で、映画2本を一緒にやっているので、信頼感みたいなものがすでにありました。僕がシナリオを書かせてもらって、それを三浦さんに読んでいただくんですけど、大きな齟齬もなくて。僕自身は、それは、『光』に限らず、『まほろ』でもそうなんですけど、小説を最初に読んだときに自分が感じたものを一番大事にしていますから。最初に読んだ時の印象っていうのは、すごく大事なんですね、それを大事にして書いたシナリオを三浦さんに読んでいただく。まあもちろん緊張することなんですけど、信頼感があるので。どっかまた甘えていたかもしれないですけどね(笑)

大森立嗣さん1
三浦さん:いや、そんなことないです(笑)。

大森さん:甘えんぼキャラなんです(笑)。

三浦さん:甘えんぼキャラ(笑)って、普段はこんな監督ではないです(笑)。私、映像化していただくときは、必ずシナリオは事前に読ませてくださいって言う風に、どなたにも申し上げるんですけど、監督はシナリオも、すっごくうまくて、すごくかっこいいんですよ。なので、拝読して、とくに「ここがどう」とかってことは、もちろん全然ないって感じでしたねもう。ひたすら「すごーい、どんな風になるんだろう」って、楽しみにしてました。

―シナリオを受け取られたときに、なにか原作とは違ったところで、印象に残ったとことか、そういうことはありますか?

三浦さん:監督がまだその、シナリオ作成にもう取り掛かってらっしゃったときなんですが、小説の『光』は、私の書き方が悪くて、ちょっと読者の方に、伝えたいことがうまく伝わらなかったなっていうところがいくつかあったんです。そのうちの一つで、「津波があったからこの登場人物たちはこういう風になっちゃったんだ」と捉える読者の方がいらっしゃって、私はそう書いたつもりがなく、もちろん「解釈」なので様々な捉え方はあってもいいんですけれど、ただ、もし映画を見て、そう感じられる余地を残しているとなると、それはたぶん、よくない。というか、原作者としても「違う」。そこは小説が持ってしまった「欠点」だと監督に懸念点としてお伝えしたんですね。そうしたら、監督がシナリオで小説とは違う風にしてくださって、小説の欠点を解消してくださったんですよ。「そうか小説もこういう風にすればよかったんだな」って(笑)とても印象に残ったとこですね。

大森さん:でもあれですよ。三浦さんの原作の津波の後の描写がすごくて、ぼくは東日本震災後にこちらを映画化にしようと思ったこともあるから、三浦さんもおそらくそうだと思うんですけど、それを撮ることはやっぱり、そういうものをもう1回見せるってことは、全然自分でいいとは思わなくて。ある種、もう皆さんあの映像が焼き付いてて津波の想像はいくらでもできるようなことになっているので、小説の描写で僕もびっくりした部分もあったんで、映画ではもうやっぱりそこは映すのはやめようという気持ちも最初からぼくにもあったから。三浦さんがおっしゃってくれたことが、うまくリンクしたんだと思いますよ。

三浦さん:そうですね。

大森「僕の最初の結論だとそれは想像がつきすぎて、三浦さんの結論だと自分は想像ついてなかったんですけど、想像ついてないっていうことが、僕にとって、この映画にとっては大事だったんですね」

―三浦さんが、連載をまとめて本にされるときに、ラストを変えていましたよね?

三浦しをんさん2

三浦さん:『小説すばる』という雑誌に連載していたものと単行本でラストは違いますね。ラストを変えたのは、そのほうが「怖い」っていうか。私たちの日常の中で、実際的な暴力とか、殺人はしてなかったとしても、心の中で、ものすごい黒いことを考えて、でも何食わぬ顔で良識ある社会人であり、愛情あふれる家庭人として、ふるまうってことあるじゃないですか。心の中はそうじゃないのに、なんにもなかったかのように、日常を継続するっていう、それを、信之にもやってほしかったので、ああいう展開にしたんですね。

―監督はどうですか?

大森さん:僕もシナリオの最初の段階で、実は三浦さんの結論とは逆にしていたんですが、三浦さんと話をして「なるほど」と思って変えたんです。僕は、自分が映画を何本か撮って、どこか自分でもある程度「映画を撮れる」という気分になっているときに、自分自身とか映画とかを一度壊したいって衝動に駆られるんですよ。なので、三浦さんの指摘に「なるほど」と思った。僕の最初の結論だとそれは想像がつきすぎて、三浦さんの結論だと自分は想像ついてなかったんですけど、想像ついてないっていうことが、ぼくにとって、またこの映画にとっては、すごい大事だったんですね。

それは、今日見たお客さんがもしかして、戸惑っている部分もあると思いますけど、「普通だったらこうなるよね」とか「普通だったら、音楽がこう入ってくるよね」とかみたいなことを。全部壊しにかかっているので、だから久しぶりにこの映画見たら、もう自分でもびっくりしちゃっているぐらいなので(笑)。心がざわざわしちゃって。「こんな映画だったんだ」みたいな。それはでも、この『光』という小説を読んだときにこれを撮りたいと、思った一番の理由なんですね。

―やっぱり、監督が小説を読まれたときに感じたのは、違和感みたいなものなのでしょうか?

大森さん:もう、僕は徹底的に、「生命力みたいなもの」を肯定していきたいと思っていまるわけですが、一方で「理性みたいなもの」もあって、社会生活を行っていく部分は、もちろんそっちにあるんですけど、それとは別に、人間は生物として生きてるわけで、そのときの「生命力みたいなもの」は完全に否定することはできないと思っているんですよね。この作品はそこに「光」が当たっている。ぼくらを普段、生活している中で、見ていない部分に「光」が当てられる。そういう部分があるんじゃないのかなっていう風に思いますけど。

三浦さん:そうですね。ほんと見たあとに、すぐ「面白かったね」「感動したね、泣いたね」とかって言える映画、それはそれで楽しいし、いいと思うんですけど、この映画を観終わった後、私、「すごい映画だな」と思って。なんて言うのかな。うまくすぐに「このシーンがすごかった」とか「この役者さんのこの演技、この場面の表情がすごかった」ってことは、もちろん言えるんだけど、じゃあこの映画をどうやって、自分が感じたものを言語化したらいいのかっていうのが、ただ「すごい」っていうことは分かるんだけど、どういう風に伝えればいいのかなっていうのは、すごく今もいろいろ考えてて、でも、その考えたり、なんかほんとに言葉にできなくて「ざわざわする感じ」、それがほんとに刺激的な映画体験だなという風に、私はこの作品で思ったんですけど。なんかその「ざわざわする感じ」が、監督が描こうとした、この作品で描こうとなさった「生命力」っていうか、「暴力的なまでのエネルギー」みたいなところなのかなっていう風に思いますね。

―その「ざわざわする感じ」、今観ていただいたみなさんもそういう状況になってると思うんですけども。この映画の中で、三浦さんの好きなシーンや、お気に入りのシーンはありますか?

三浦さん:あーもういっぱいあるんですけど、平田満さんのあのシーンとか。

(会場 笑)

三浦しをんさん大森立嗣さん対談2

三浦さん:あれけっこう、衝撃的じゃないですか?むっちゃ綺麗じゃないですか(笑)。しかも、ギューってアップになって、さらにバッて寄ってからカットが違うシーンに変わって。監督の変態性が、なんだろこれすごく(笑)

大森さん:僕も自分で、なんでおしひろげたくなってんだろう、よく分かんなかったんですけど(笑)。

三浦さん:監督の中の本能っていうか、衝動がね。あのシーンすごい好きで、普通はここでカットにはならないっていうか、さらに寄らないだろうと思って、とどめの寄りがむちゃくちゃ面白くて、変ですよね(笑)。いい意味で。

大森さん:平田さんも、あの部分に寄っていくてことは、分かっていたと思うんですけど、まったくなんの反応もなく、どうぞみたいな感じでした(笑)。

三浦さん:なされるがままに(笑)。

三浦「あのセリフをシナリオで読んだとき、もう私は『どうしてこれ思いつかなかったのかな』と思って、ほんとに悔しかったですね。」

三浦さん:他にもいっぱいあって、瑛太さんとか、ほんと見たことないような表情で、なんかときどき「悪女」みたいに見えるっていうんですかね、すごい「純粋」にも見えるし、性別超越しちゃって、なんかすごい綺麗な「悪女」みたいにも見えるときとかもあって、見たことない表情がいっぱいありましたね。あと、瑛太さんと井浦新さんが草むらで追いかけあってじゃれあうシーンでごろごろって二人で話すシーン。あれ原作には全然無いセリフで、それをシナリオで監督が書いてきたんだけど、あのセリフをシナリオで読んだとき、もう私は「どうしてこれ思いつかなかったのかな」と思って、ほんとに悔しかったですね。あの二人だったら「そりゃあの話するよな」と思って、こんな悪いセリフを思いつくなんて、監督はなんて悪い男なんだろう。最高のセリフだなって、思いましたね(笑)。それ思うとなんか、この二人が、ごろごろしながらおっしゃってるから、どうしたものかなって思いましたね。すごいよかったですね、あのシーン。

三浦しをんさん大森立嗣さん対談2

―監督はそのセリフはわりと意識的に?

大森さん:意識的……どうなんでしょうね。三浦さんから「悔しい!私思いつかなかった!」みたいなこと言われた時に「すごいな三浦さん!」って俺も思ってたんだけど(笑)。

三浦さん:なんで?書いたのは監督なのに(笑)。

大森さん:いやいや、その三浦さんの反応がすごいなって。なんていうんでしょうか?そういうやりとりって、すごい楽しいんですよ。モノを作るときのこのやり取りが。

三浦さん:そうですよね。ほんとね。

大森さん:そうなんです。生の反応をやりとりできる感じは、すごく楽しくて、それをまたこの瑛太と井浦新が演じるときに、ごろごろ転がってる。「顔が近いな」みたいな感じで(笑)そんな編集してないんですけど、こいつら顔近いなみたいな感じで(笑)。

三浦さん:むっちゃ顔近かったですよね。

大森さん:キスしちゃうんじゃないかなって思って、びっくりしちゃうぐらいに、近くやるっていう、この二人はやっぱそれがまた面白かった。すごいね。

三浦さん:監督の演出じゃないんですね?

大森さん:そうですよ。こういう風にやるっていうのは、言ってあるんですけど、そこまで近づけるとは、ちょっと思ってなかった。

三浦さん:そうですね。顔を近づける二人みたいなの、シナリオにも書いてなかったですもんね。

大森さん:そういう場所がね、まあ俳優をすごい自由にやってもらってるところがあるんで、いくつかあると思うんですけど。

―全体的に近いですよね。映画の中でお二人。

大森さん:近い時は、近いね。首絞めるときとかね。

―だいぶ、そういう風に近づいてると思ってなかったって、瑛太さんと新さんもおっしゃってました。

大森さん:あっほんと!

三浦さん:あーやってるときはね!演じてらっしゃるときは。

―映画見たらかなり近いです。

大森「『瑛太とはもう一本やんなきゃいけないな』ていう気持ちがぼくがあって、それがちょっと僕の頭に残っていたのと、新くんから『瑛太くんと二人で、芝居できるような映画を撮ってほしい』と言われたことがあって、それがうまくリンクして、この二人ぴったりだなっていう風になったんですね」

三浦しをんさん大森立嗣さん対談4

三浦さん:でもずっと幼馴染で、いろんな事情だったり、思いだったりがあれだけ拘束してる二人だから、そりゃ感情がぶつかり合うときはああなると思うんですよね。

大森さん:これはすごい面白いっすよね。でも、『まほろ』を撮らせてもらってるときには、瑛太=「多田啓介」と松田龍平=「行天春彦」は、微妙な距離感のまんま進んでいったからね(笑)。

三浦さん:なんかぎこちない距離感でしたよね(笑)。

大森さん:微妙にあれがたまんないんですけど、これは近いですね。なんかがね。

三浦さん:そうですね。それが、映像になって、それで、その役者さんの思いがすごく乗った表現を見ると、肉体を持った役者さんの感情の迸りを見ると、「なるほど確かにこの二人はこうだよな」っていう風に、すごく納得しましたね。あと私あそこも好きです。河原で、橋本マナミ=「南海子(なみこ)」に、瑛太=「輔(たすく)」の。

大森さん:うんうん

三浦さん:「輔」が最初背中にビョーンってのしかかって、「南海子」にちょっとじゃれついていくとこあるじゃないですか。そこからの、あの一連のシーンすごく好きで、なんか「輔」って最初は思惑を持って、あの一家に近づいて来てるんだけど、ただ「南海子」を利用してるだけじゃなくて、なんかお互いの中に、寂しくて、ずっと満たされない何かを「持ってる」そういう二人なんだなってことが、あのシーンの二人のやりとりとか、それこそ、「南海子」を抱きしめる感じとかから、すごく伝わってくるっていうんですかね。

―役者さんの話が出たのでお聞きしたいんですが、この作品ではかなり狂気じみてる瑛太さんと、得体の知れない不気味さを持っている新さんが、ご共演されているんですけど、監督はこのお二人のキャスティングはどのような経緯で決まっていったんでしょう?

大森さん:これはぼくはいつも、シナリオ書くときとか、小説を初めて読んだときとかもそうなんですけど、別に誰々に演じてもらいたいとか、そういうイメージを持ってるわけではないんですよ。ちょっとこのとき思い出したのは、ぼくは『まほろ』を撮っているときに、瑛太が「多田」って役をやってて、松田龍平が「行天」ってのをやってたんですけど、やっぱ「多田」って役がどっかで瑛太にストレスを与えているらしくて、「瑛太とはもう一本やんなきゃいけないな」ていう気持ちが僕にあって、それがちょっと頭に残っていたのと、新くんから「瑛太くんと二人で、芝居できるような映画を撮ってほしい」と言われたことがあって、それがうまくリンクして、この二人ぴったりだなっていう風になったんですね。

そういう偶然みたいなのが、今思えばわりと働いていたのかな。井浦新っていう人は、ぼくはWOWOWのドラマの、『かなたの子』ってドラマで一緒にやってるんですけど、まあ奇妙なんですよね、新くんっていうのはね。ぱっと見すごい綺麗な顔をしてるんですけどね、どっかものすごい熱い男で、それをうまく外に出すことが上手ではないと思うんですね。演技の時に、それがどっか表出してくるっていう感じがあって。日常生活での出し方があまり上手じゃない気がしてて、そういう人ほどね、俳優に向いてるって思うので、面白いです。まじめなふりしてやってますけどね(笑)。

大森立嗣さん2

―三浦さん、このキャスティングお聞きになられて、もちろんご覧になっていかがですか?

三浦さん:素晴らしいなと。ほんと女優さんもそうですし、みなさん素晴らしいなと思いましたね。さっき監督がおっしゃった『まほろ駅前多田便利軒』で瑛太さんが演じてくださった「多田」っていうのは、すごくまじめで受け身な役だったんですよね。今回『光』の「輔」は、わりとこう、なんて言うのかな、無邪気で、わりと奔放な言動をするんですけど、でもそこにいろいろ辛い思いとかを抱えている役なのでなんか瑛太さんに、撮影現場でお目にかかった時に「なんかひどい役ですみません」って言ったんですよ(笑)。そういう役って、演じる役者さんにとって非常にストレスフルなんじゃないのかなと思ったんで。そしたら、瑛太さんが、「いやあ多田とかより全然楽しいっすね!」って言って(笑)、超ノリノリだったんで、「多田のことももうちょっと愛してやってくれよ」ってちょっと思ったんですけど(笑)。なんか役者さんって、ほんと不思議な存在っていうか、傍から見ていると、すごく辛いんじゃないかなって思うんだけど、むしろ生き生きされているんだなと思いましたね。

大森さん:そうなんですよね。

三浦さん:あと、新さんはほんと目が「無」なんですよね(笑)。いい意味でね、これは。いい意味で、すごく「無」で(笑)。その目の奥に、監督がおっしゃった、情熱がとぐろを巻いている。何かがきっと。それが今回の映画ですごく出ていたので、「おお怖いな」って。

大森さん:新をキャスティングしたとき、マネージャーに「ほんとに新にぴったりな役を」って言われて。「新、そんなに怖いのかな」って思って(笑)。怖くなっちゃった(笑)。

三浦さん:(笑)人格が疑われる発言になっちゃっていますけどね。

大森さん:「いやあほんと新にぴったりな役をありがとうございます」って言われて「え!そうなの!?」って(笑)。

三浦さん:そうなのー!あんなラストシーンをやってのけてしまえる人なんですか新さんは!?ってね(笑)。なりますよね。

大森さん:そこまで知らなかったなー(笑)。

三浦さん:想像以上だこれ(笑)。

三浦しをんさん大森立嗣さん対談5

大森立嗣監督・三浦しをんさんからメッセージ

―それでは最後に、みなさんに、そしてこれからご覧になる方に一言メッセージをいただければと思います。

三浦さん:とにかく、役者さんたちの魅力が炸裂している映画だと思います。あとやっぱり観た後は誰かとしゃべりながら、「あそこどう思った?」と話すのも、すごく楽しい映画だと思ったんです。一人で抱えて、言語化していくのはなかなか難しいかもしれませんけど、「じゃあ、どういう風に感じた?」みたいに、対話してくのがすごく楽しいだろうなと私は思ったので、ぜひ周りの方に勧めていただいて、この輝いているみなさんの姿を、いや、「暗黒に輝いている」みなさんの姿を、広めていただければなと思います。よろしくお願いします。

大森さん:この映画は自分で作っておいてなんですけどね、なかなか消化しにくい食べ物みたいなもので、ごつごつ胃が痛いなみたいな(笑)。でもまあ食べやすい食べ物ばっかりあるこの時代に、少しごつごつした物とか、歯ごたえがある物っていうのも、ときどきあるのもいかがですかね?まあこのあとは、甘いスイーツかなんか食べに行って(笑)。ちょっと、『光』の話にちょっとだけ触れつつ違う話でもしていただいて(笑)。なにはともあれ、みなさんの応援があれば、嬉しいです。ありがとうございました。


『光』内容紹介

25年前の殺人事件が、4人の狂気を呼び覚ます。
僕たちは、人間のふりをして生きているー。

東京の離島、美浜島。中学生の信之は記録的な暑さが続く中、閉塞感のある日々を過ごしている。美しい恋人の美花がいることで、毎日は彼女を中心に回っていた。信之を慕う年下の輔は、父親から激しい虐待を受けている。ある夜、美花と待ち合わせをした場所で信之は美花が男に犯されている姿を見る。そして信之は美花を救うために男を殺す。その夜、理不尽で容赦ない圧倒的な力、津波が島に襲いかかり、すべてを消滅させた。生き残ったのは、信之のほかには美花と輔とろくでもない大人たちだけだった。

それから25年後、島を出てバラバラになった彼らのもとに過去の罪が迫ってくる―。妻子とともによき父として暮らしている信之と、一切の過去を捨ててきらびやかな芸能界で貪欲に生き続ける美花。誰からも愛されずに育った輔が過去の秘密を携え、ふたりの前にやってくるのだった。

2017年11月25日(土)公開『光』オフィシャルサイト

著者:三浦しをん(みうら・しをん)さんについて

1976年東京生まれ。2000年『格闘する者に○』でデビュー。以後『月魚』『秘密の花園』『私が語りはじめた彼は』『むかしのはなし』など、小説を次々に発表。2006年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞受賞。他に小説に『風が強く吹いている』『仏果を得ず』『光』『神去なあなあ日常』など、エッセイに『あやつられ文楽鑑賞』『悶絶スパイラル』『ビロウな話で恐縮です日記』などがある。

三浦しをんさんの作品一覧

監督:大森立嗣(おおもり・たつし)さんについて

1970年生まれ、東京都出身。前衛舞踏家で俳優でもある大駱駝艦の麿赤兒の長男。次男は俳優の大森南朋。大学入学後、8mm映画を制作。俳優として舞台、映画などに出演。自らプロデュースし、出演した『波』(01/奥原浩志監督)で第31回ロッテルダム映画祭最優秀アジア映画賞を受賞。その後『赤目四十八瀧心中未遂』(03/荒戸源次郎監督)への参加を経て、2005年に花村萬月原作の『ゲルマニウムの夜』で監督デビュー。第59回ロカルノ国際映画祭コンペティション部門、第18回東京国際映画祭コンペティション部門出品など多くの映画祭に正式出品され、国内外で高い評価を受ける。『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』(10)で日本映画監督協会新人賞を受賞。第60回ベルリン国際映画祭フォーラム部門、第34回香港国際映画祭に正式出品された。『さよなら渓谷』(13)では第35回モスクワ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、審査員特別賞を受賞。その他に、『ぼっちゃん』(13)、『セトウツミ』(16)など。三浦しをん原作作品は『まほろ駅前多田便利軒』(11)、『まほろ駅前狂騒曲』(14)に続いての映画化。

大森立嗣さんの作品一覧