売り切れ店続出の『デザインのひきだし』の秘密に迫る!津田淳子×吉岡秀典×佐藤亜沙美

こんにちは、ブクログ編集部です。

デザインのひきだし』という雑誌をご存知でしょうか。その圧倒的な本のたたずまい(例:付録の紙サンプルの厚さが、雑誌本体の背厚をしのぐ4cm!?表紙が刺繍!?)が話題にのぼることも多く、書店やSNS上でこの本を目にされたことのある方もいらっしゃるかもしれません。
ブクログのTwitterでも、毎回大きな反響があるこの本、いったいどんなふうに作っているの?と、気になっている方も多いのではないでしょうか。

デザインのひきだし写真
圧倒的存在感!『デザインのひきだし』32号の付録は、背厚が4cm!

そもそも、『デザインのひきだし』とは?

プロなら知っておきたいデザイン・印刷・紙・加工の実践情報誌である『デザインのひきだし』は、2007年の創刊から、号を重ねるごとにその際立つ存在感を増し、今ではあっという間に完売してしまうほどの雑誌です。
(※2017年10月に発売された『デザインのひきだし』32号も、すでに完売しています)

見よ!『デザインのひきだし』32号のデザインはこれだ!

デザインのひきだし32書影

デザインの引き出し32書影
思わず触りたくなる、エンボス加工……!
デザインのひきだし32書影
表紙をめくると銀色!格子模様がすてきです

デザインのひきだし』32号は紙特集ということで、紙づかいにこだわった作り。
表紙は白と銀で、紙と紙の間に格子状に折った糸が挟まれています。とてもおしゃれな紙ですが、これはもともと、紙の強度を上げるために施された工夫なのです。内側の銀色の紙は、防湿性を高める効果があるそうなんです!
梱包などに使われている実用的な紙が、こうやって本の表紙として通常の用途とは別の使い方をすることで、紙の見え方がぐぐっと変わってくるのですね。

好奇心を刺激する読み物としても、とても魅力的な『デザインのひきだし』。その濃密な本の中には、いったいどんな思いが込められているのか?
そこで、青山ブックセンター本店で行われた、『デザインのひきだし』32号の発売記念イベントにお邪魔して、その秘密を探るとともに、編集長の津田淳子さんや、デザイナーの吉岡秀典さん・佐藤亜沙美さんへの独占インタビューをしてきました!

『デザインのひきだし32』刊行記念
「今いちばん攻めた紙づかいをしているデザイナーの、その紙づかい技に迫る!」イベント詳細

『デザインのひきだし』編集長の津田さんに聞いてみました!

津田淳子さん写真
『デザインのひきだし』編集長の津田淳子さん

―『デザインのひきだし』という雑誌を作られたきっかけを教えてください。

自分で本を作るときに、印刷会社の人と、「こんな紙を使いたい」とか「こんな印刷をしたい」という話をするんですが、その営業の人が意欲があったり知識があったりすれば自発的に動いてくださるのですが、実際そうやって動いてくださる方がはほとんどいないので、それだったら自分で探して自分で手配すればいいかなと思って。だから自分で必要だったから始めた、という感じです。

―たくさんの人にこの本が、受け入れられていることについてどう思われますか。

今、仕事以外でも、個人的に印刷物を作ったり、印刷物が好きという方が買ってくださっているのであればそれはうれしいし、そういう方がもっと紙に興味を持って造本がきっかけで本を買ったり、紙のものを手に取ったりしてくださることがあればうれしいことです。

―これから特集したいものはありますか。

印刷と紙ですね!(笑)
わたしがつねに興味があるもの、自分で「同人誌」だと言っているんですけれど、それを同じように好きな人が、「2000円出して応援してあげたい!」と買ってくださって……というふうに循環していけばいいな、と思っています。この本を作る中で市場調査をしたことは一度もなくて、自分自身が本を作る上で困ったりとかもっとこんなことを知りたい!と思ったことや、知ったことを伝えたいということが基本にあります。だからこれからも変わらず印刷と紙と加工のことをやろうと思っています。

―紙や印刷、本という媒体を通じて伝えたいことはありますか。

「紙、楽しい!」「本、楽しい!」ということですね。「おもしろい」という言い方が近いかなと思うんですけど。もともと自分が本を読むことが好きだったということがこの仕事に就くきっかけだったんですね。だから本の装丁でこんなことをしているということがきっかけになって、その本を手にしたりするとか。本を読むときは造本なんて気にして読まないとは思うんですけど、無意識に入ってくる情報って、紙媒体においてはすごく大きいなって思っていて。その、無意識に入ってくる情報が多いということがすごくおもしろいなと思うんです。だからそういうことが伝わったり、その魅力に気づくきっかけになればいいなと思いますね。

―読者に伝えたいことがあればぜひお願いします。

この本を眺めて楽しむのもいいですし、実際の仕事で使われるのもいいと思うんです。『デザインのひきだし』には、印刷所の連絡先が載っているので、こんなことがやりたい!と思うときに、そこに連絡してみるとか、そんな行動のきっかけにもなればいいなと思います。

『デザインのひきだし』最新刊に登場するお二人、デザイナーの吉岡さん・佐藤さんに聞いてみました!

―「今、この人の紙使いがすごい!」と言われるお二人ですが、紙や印刷、本という媒体を通じて伝えたいことはありますか。

デザイナーの吉岡秀典さん写真
右がデザイナーの吉岡さん

吉岡さん:デザイナーという立場は、まず作品があってその仕事にかかわるので、その作品をどう見せられるかというところなんですよね。いかにデザインでその作品に入り込ませられるか。その作品をよりよく表せるか、ということを考えています。作品と、読者の接点を、一番よい状態に作ることができるかどうかがとても大事だなと思います。

デザイナーの佐藤亜沙美さん写真
左がデザイナーの佐藤さん

佐藤さん:私が本を手に取るときに、その本から作り手の思いが伝わってくると、テンションが上がるのと同じように、自分が関わるからには、その作品をいろいろな要素から身体的に味わってもらいたいな、という気持ちがあります。自分の中のエンターテイメント性というか、その作品はどうすれば一番エンターテイメント性が高くなるかなっていうのを考えていつも作っています。めくるとか、ざらざらしている手触りとか、物質としての面白みを感じてもらえたらと思います。

―みなさん、貴重なお話をありがとうございました!

そしてついに、イベントへ潜入……!(どきどき)/

『デザインのひきだし』イベントレポート

『デザインのひきだし』イベント写真
『デザインのひきだし』イベント始まります!

デザインのひきだし』32号は、紙特集にちなんで「今、この人の紙使いがすごい!」と言われている、デザイナー吉岡さんと佐藤さんが、紙面に登場されています。お二人は、本が好きな方の間で絶大な支持を集めている装丁家・祖父江慎さんのデザイン事務所・コズフィッシュで働く、先輩後輩というご関係だったそう。今ではともに独立され、たくさんの魅力的なお仕事をされています。イベントでは、お二人が今まで作られた本を実際に見せながら、デザインにおいてどんな工夫をしたのかについて語られました。

今回ブクログ通信では、イベント内で言及された本について、一部抜粋ではありますがご紹介します!

本自体を「きのこ化」する!『きのこ文学名作選』

きのこ文学名作選
『きのこ文学名作選』と『胞子文学名作選』
『きのこ文学名作選』写真
表紙をめくると、めくるめくきのこの世界へ…

こちらは吉岡さんがデザインされた『きのこ文学名作選』です。
紙を特徴的に使用し、紙の世界にどっぷりとはまりこんだ仕事なのだそう。
この本に収録されている作品は、いぶし銀的な魅力を持ったものが多いことから、最初にデザインを考えるとき、ただ品良くまとめるだけでは読者にこの作品の魅力が届かないなと思われた吉岡さん。いっそ、本自体を「きのこ化」するぐらいでないと、この本を見つけてもらえないのでは!と思ったところがデザインの出発点となったそうです。作品からにじみ出る世界観を伝えるデザインにするため、紙質にもこだわって作られたのがこの本。
表紙のタイトルだけでなく、紙に穴が空いていたり、箔押しされているなど、いろいろなところに仕掛けがたくさん!本文も何種類もの紙を使用しているので、めくるたびに新しい作品世界が広がります。

イベントで紹介された、吉岡さんデザインの本たち(一部抜粋):『きのこ文学名作選』『胞子文学名作選』『後美術論』など。

表紙のワッフルコーンをおいしそうに仕上げるために、印刷所のみなさんを巻き込んで格闘!『ファッションフード』

『ファッションフード』写真
『ファッションフード』のコーンがおいしそう!

『ファッションフード』写真
帯が広がる…!

こちらは佐藤さんがデザインされた『ファッションフード』です。
手描きでプレゼンシートを作り、限られた予算の中で、いかにわくわくするものが作れるかが相手に伝えられるよう心掛けて準備をし、印刷所と密に連携をとりながら制作を進行。コーンのふくらみを、エンボス加工を使って「おいしそう!」に表現するために、何度も試作を繰り返していきます。最初はエンボスがうすく、「おいしそう!」感が出ずに困っていた佐藤さんに、印刷所の方のアドバイスをくださり、最終的に本物のコーンのように「おいしそう!」で、わくわくする表紙デザインが完成したそうです。
そしてこの特徴的な帯!はじめはクレープのように巻こうと思っていたが、流通させるためには強度の問題でシュリンクする必要が出てきたとのこと(たしかに、シュリンクされた本は気軽に読むことができませんよね……)。それはできれば避けたいと、紙を二重にすることで強度を上げ、しかも「かわいい!」デザインへと進化!現場の方のアドバイスがあって完成させられたデザインなのだそうです。

イベントで紹介された、佐藤さんデザインの本(一部抜粋):『ファッションフード』『ギャートルズ』『Aさんの場合』など。

『デザインのひきだし』イベントに参加して

今回のイベントでは、デザイナーの吉岡さんや佐藤さんが、今まで作られたとっておきの本を実際に見せながら、本を作る上での工夫から、そして版元さんや著者の方々に、デザインの意図を理解してもらうために行っている工夫まで語る、貴重な90分でした。紙・印刷にまつわる、かなりマニアックな内容のイベントでしたが、場内のみなさんがメモを取りながら熱心に耳を傾けていた姿がとても印象的でした。

デザイナーのみなさんが、本の内容をたくさんの人に伝えるために、紙や印刷加工などに工夫を凝らし、印刷所の方々とともにひとつの本を作っているのだということ。そして『デザインのひきだし』をいう本を通じて、デザイナーさんだけでなくものづくりをする人や興味のある人に、紙の楽しさを伝えようと、わくわくしながら編集されている津田さんの姿を見ていると、書店で本を手に取り、開くのが、ますます楽しみになりました。
「一冊の本には、たくさんの物語が詰まっている!」そんなことが実感できる、すてきな時間でした。

出演者プロフィール紹介

津田淳子(つだ・じゅんこ)

津田淳子さん写真

編集者。1974年神奈川県生まれ。編集プロダクション、出版社を経て、2005年にグラフィック社入社。2007年『デザインのひきだし』を創刊する。デザイン、印刷、紙、加工に傾倒し、それらに関する書籍を日々編集中。

吉岡秀典(よしおか・ひでのり)

吉岡秀典さん写真

グラフィックデザイナー。1976年生まれ。コズフィッシュなどを経て2011年に独立。セプテンバーカウボーイ主催。書籍や広告デザインなどを手がける。
セプテンバーカウボーイ Twitter

佐藤亜沙美(さとう・あさみ)

佐藤亜沙美さん写真

ブックデザイナー。1982年生まれ。2006~20 14年まで、祖父江慎さん率いるコズフィッシュに在籍。 2014年独立、サトウサンカイ設立。文学からビジネス書までさまざまなジャンルのブックデザインを手がける。

『デザインのひきだし』オフィシャルサイト

デザインのひきだし(グラフィック社)
デザインのひきだし・制作日記