書店POPの完成形はあるのだろうか?
BOOKSルーエで5位!
みつを風のPOPは、ルーエ花本さんによるもの。このPOPのおかげかと。ありがとうございます。 pic.twitter.com/gwUIV4GxGr— 武田砂鉄 (@takedasatetsu) 2018年5月1日
司会:ええと、暗い話を切り替えますが、お二人とも書店のPOP作成に業界内で定評がありますよね。
花本さん:新井さんはPOPを「研究」してましたよね。いかにPOPをシンプルにするかってことを考えてた時期もありましたよね。
新井さん:あったあった。でも「一周」した感じがする。「研究期」から「なくていいかもしれない期」に入りました。POPつけるの、好きじゃないんですよね。でも花本さんは一時期雑誌にPOPをつけてたじゃないですか。それが面白いな、って思った。
花本さん:ぼくも「一周」してやめちゃった。一生懸命やってて「これだ!」って思ったけど、今は「違うな」って思って。「一周」って言い方いいですね。ちなみに先ほどフリーペーパーの話もありましたが、大盛堂さんは最近フリーペーパー作成が「一周」してないですか?
司会:飽きたので一度止めました。いや、もうちょっと続けますけどね。でもみなさんが作ってきたなかで、「POPの完成形」ってありましたか?
新井さん:完成形か。それはお店によって違うんですよね。有楽町で響くもの、神保町で響くもの、それぞれ違うじゃないですか。何が神保町で響くのかな?って思って試してるうちに気付いたキーワードは、「東大生も読んでる」でした。すごい効く。それこそどんな本も「東大生協で○位」って書くと売上が違うんですよ。
花本さん:その文言は個人的に嫌なんです。僕は教養主義とか学歴偏重社会に警鐘を鳴らし続けてる側なんですよね。僕は高卒。学歴とか大学生とかが嫌いで。大学生というといつもチャラチャラしてて合コンしてて人生を謳歌してて悪いことしてるイメージなんですよ。そういうこと言っちゃうんですけど、人から怒られるんですよ。大学生ってそういうもんじゃないって。
新井さん:まあ大学生も色々いますからね。
花本さん:でも憎たらしくてしょうがなくて……だから大学生協で○位とか売れていくとか、そういうの覆したい……打ちこわしたいんですよ(笑)。
司会:でも吉祥寺は大学生多くないですか?
花本さん:多いですね、結構いますね。……やっぱり大学生協で○位ってネタやってみようかな?(笑)潔く、ね。それいいかもね。
司会:では逆に、POPを作る時にやめたほうがいい、書かないほうがいいことはありますか?
花本さん:うーん。これは新井さんが以前言及してたこともあるけれど、書き込みすぎるとよくないですよね。お客さんは見ないですよね。「情熱がこもったPOPが……」って精神論的によく言われますけれど、あれは嘘ですね、絶対。ひとことポン、って書いてあるもののほうが売れるんだろうね。
司会:以前新井さんは「これで泣いた」的なPOPは止めたほうがいい、って話していましたよね。
新井さん:そうですね。自分が買う立場だったら萎える。けれども、逆にそういうのがないと買えない人もいるじゃないですか。それはお店によると思うけど……いま自分が本を買うときは帯すら見ないようにして買ってますね。帯文の要約も、Facebookとかで友だちが書いてる感想とかも、あんまり見たくない……。
何も情報がないのに買う本ってめっちゃ楽しいじゃないですか。それがミステリーなのかどうかも分からず。そういう買い方をしたいのに、うるさい情報が多すぎるな、って。
花本さん:確かに。そういう何も情報を出さない手法で成功している本も増えてますよね。情報を削ぎ落とす。それは売り方、見せ方という点でも一筋の突破口かもしれないですよね。
売れる本、信頼する人を見抜く目線
司会:新井さんは本を買うときにどこで判断するんですか?表紙?名前?
新井さん:インスピレーション? でも自分の選ぶものは意外とマイノリティじゃなくて、何となく買ったのに売れてたりするから、何かが本から出てるんだろうなって思いますね。
花本さん:なんかひっかかるところがあるんだろうね。
新井さん:それを言語化するのは難しいんですけどね。でも何となく売れる本って分かりませんか?
花本さん:これ売れそう!って本は荷物到着して、荷開けした時に分かることがあるよね。
新井さん:こじつければ色々理由が出てくる。けど、じゃあそれをトレースして売れるかといえば、売れない。
花本さん:不思議だよねえ……タイミングとかにもよりますよね。出た時期。並び方にしても、この本とこの本の間にあることで売れる!ってケースもある。購買のきっかけって不思議だよね。それだからこそやり様があるけどね。
司会:書店にいると本以外にも対人関係が大事ですよね。出版社の方々と接点も多いと思うんですけど、付き合い方ってあります?
新井さん:花本さん、出版社さんと仲いいよね。
花本さん:うん。僕のメソッドって、割と目上の人に割りとフランクに話しかけるんですよ。人として良くない、ズルい手だなと常々思ってるんですけど。割と最初から不躾なんですよね。それが気持ちいいと思ってくれる人もいるけど、「なんだコイツいきなり」って人もいますよね。だからたまに失敗するんですよね。入り込みすぎちゃったみたいな?
新井さん:そういう失敗は、あるね。まあ私の場合は大体許されてるかな?
花本さん:それじゃダメじゃん!大人として全然ダメだよ!!(笑)
新井さん:でも「私がフランクに話しかけるってことで『人との距離を測っている』っていうところがあるんじゃないか」って私に関する長いレポートを書いてくれた書店店長さんがいて。
花本さん:すごい。それ読みたいね。
新井さん:大体ナナメ読みしたけどすげえなって。
花本さん:読もうよ!全部読もうよ!!
司会:全部読まなきゃダメじゃないですか……。
新井さん:そっか。でも指摘された、人との距離を測るところって確かにそうかもしれなくて。逆説的かもしれないけど、「『自分を敬わない人』を怒るような人」を、敬えなくないですか?
花本さん:ああ。それはそうかもしれない……そういう視点ですか。なるほどね。
書店員としての低い志
花本さん:勝手ながら新井さんと僕に共通点があるんじゃないかと思っていて。割と……といいますか、業界的に名前が知られてるじゃないですか。でも書店員としての志はそんなに高くないところが似てるんじゃないかって。
新井さん:志とは??
花本さん:志が高い人っているじゃないですか。ネットの発言を見てても、すごい考えて意欲的に取り組んで、社会全体を良くする、って発想の書店員さんっているじゃないですか。でも僕たちは顰蹙を自分から買いに行くようなところがあるじゃない?
新井さん:……そんなことしてる?(笑)
花本さん:僕が新井さんの活動の一つで驚いたのは、やっぱり新井賞です。あれかなり凄くないですか?どういうきっかけではじめたんですか?
新井さん:あれは最初オオゴトじゃなくって、単純に『男ともだち』って本を返品したくなかったから始めたんですけど。でもあれをやった時に「新井賞なんて偉そうに」って人から怒られたんですけど、(偉そうか?)って思ったし……
花本さん:まあそう考える人もいるんじゃないかなって思います。芥川賞直木賞にぶつけて、ってノリじゃないですか。
新井さん:結果的にそうなっちゃったんだよね。
花本さん:それが凄いなって。続けて欲しいんですよね。またやるんでしょう?
まず三省堂書店神保町本店から
第7回新井賞帯の 桜木紫乃さん
『砂上』展開しました! #新井賞 pic.twitter.com/BcZlZj3QhY— 新井見枝香「探してるものはそう遠くはないのかもしれない」 (@honya_arai) 2018年1月18日
新井さん:やるやる。次の芥川賞直木賞が7月ですから……でも「一周」しかけたんですよ。飽きちゃって止めたくなっちゃったことがある。でもやっぱり半年に一作くらいはあるんですよね。やりたいな、売りたいな、って作品が。なきゃやらないですね。
花本さん:なるほど。僕も同じようにやるかな……たまに言われるんですよ。「花本賞くださいよ」って。
新井さん:「くださいよ」って(笑)
花本さん:この前も誰かに言われたんですよ。じゃあやるか。って思いかけたんですけど、やっぱやめたんです。だって今やったら芥川賞直木賞への対抗じゃなくて、「新井賞の対抗」ってことになっちゃうじゃないですか。それ……志さらに低いなって言われちゃうでしょう!?
新井さん:志、すんごい低いですよね。
司会:新井賞とは別のジャンルでやってみてはどうですか?
新井さん:そっか。私が知識として弱いジャンルをやってもらいましょうか。
花本さん:でも僕が得意なのは詩だけど、詩、弱くないですよね?
新井さん:そうですね。俳句の勉強も最近始めました。前にとある俳句の先生とテレビで共演したんですけど、その先生のことを全く知らなくて、俳句を作って持っていったら「添削するに値しない」って言われて。改めてその先生の本を読んでみたら、「確かに!添削されるに値しない!」って思った(笑)
だから何が俳句・詩でいいとされているかが分かるようにはなってきて、だからそこの花本展で並んでる花本さんの詩の作品もいいなって思って。
花本さん:私のですか!?よかったー。
新井さん:それを見るまでは花本展、集めたビ○クリマンシール台帳が一番良かったんですけど。意外と憶えてるもんですよね「あーこれ持ってたー!」みたいな。
花本さん:ビッ○リマンシールには凄い思い入れがあって……これは話すとかなり長くなるんですけども。
新井さん:じゃあいいや。
作品を書く二人の態度と姿勢
司会:このトークの時間が余ったらやりましょう。ちょっと話を変えますけれど、お二人とも色々な媒体で執筆されてるじゃないですか。新井さんは著書もあるし、書評も書いている。花本さんは書評も書いてるし、詩を書いている。
花本さん:でも僕は書くってことが本当にしんどい。嫌なんですよ。
新井さん:えっ。そうなんだ?
花本さん:……ツラい。だからあんまり書きたくないんですよ。依頼が来るじゃないですか。大体引き受けるんですよ。で、引き受けちゃうと、それから〆切があるわけじゃないですか。その〆切までの間が、ずっとモヤモヤモヤモヤし続けるんですよ。だから早めに終わらせたくなる。
新井さん:うん。
花本さん:夏休みの宿題もそうなんです。早く終わらせたい。でもモヤモヤを断ち切るために、とにかく書こうとするんだけど、書けない。すぐに書けないじゃないですか。書けない、書けない、書けない……。って思い続けて苦悶するんですよ。本当に、苦悶の果てに、絞って絞って血反吐を吐きながら書いてる。
新井さん:……へー……。それは責任感から?
花本さん:うーん。なんだろう。でね?書き上げると「うわあ、いいのが書けたな」って自分で読み返して、本当にいいなと思って、達成感や嬉しさがくるわけです。そういうものがあるわけ。でもまた書いちゃう。書くまではこんなお題、テーマ、文字数で書けるわけがないと思って苦しむのですよ。文章書くのは辛い。大変。泣けてきちゃう。
新井さん:でもまた受けちゃうんでしょ?
花本さん:受けちゃうね。
花本さん:……新井さんはどうなんですか!?
新井さん:あたしは別に苦しくないし……。
花本さん:凄いですねえ。新井さんが書くものはスピード感が凄いから、悩んで悩んで、ってよりも勢いで書いちゃうんだと思いますけど。
新井さん:そうですね。勢いです。書いてから、何を書いてるか後から知る、みたいな。考えないで書いてますね。だから終わらない時もあるね。たまたま終わったのが載ってる、みたいな話。
花本さん:すげー……。常にそういうモードで書いてるんですか?執筆依頼に応じて、違う書き方をすることは?
新井さん:特にないですね。依頼がなくてもnoteに書いちゃうし。
花本さん:最近noteにあげてた「腐る程された質問に今さら答える」って文章ものすごく良かったです。
新井さん:こないだ受けた取材の中で「一ヶ月に何冊読んでるか」って聞かれた時のことがずっと頭に残ってたんです。その時クリープハイプの「今更正直に答えて」ることを思い出しながら「腐る程された質問です」って答えたら、すごいビミョーな空気が流れて、あ、素直に答えたらいけないんだ、って考えた結果というか、考えてる途中のことがあのnoteの文章なんですよね。
花本さん:短い文章だけど、すごい勢いがあって、「読んだな」って感じにさせる文章でした。もっと色んな文章が書けるんじゃないですか?やっぱりまだまだ新井さんの直球を投げてないというか、まだ本気で書いてないんだろうな、って思わせる何かがある。ポテンシャルがあるなって思う。
あと新井さんの書くものの中で、やっぱり「食」ってデカいですよね。色んな例えの中で使われるものがほとんど食のことじゃないですか。次に書く作品、あるんですよね?きっと。食エッセイを書いたら凄い傑作になると思うんですけど。
新井さん:食エッセイは本当にいい名作がいっぱいありますからね。だからまあ書かなくてもいいかな、って思ってるんですけどね。
花本さん:やっぱり次回作、用意しているんですよね?楽しみにしておきます。
一時はどうなることかと思ったトークショーでしたが、無事終了しました!
過去300回くらい経験した中で最もお客様満足度がわからないトークイベント #花本武 #山本亮 #大盛堂 pic.twitter.com/UHV63sZovY
— 新井見枝香「探してるものはそう遠くはないのかもしれない」 (@honya_arai) 2018年6月13日
みなさんの満足度はいかがでしたでしょうか?新井さん、花本さん、ありがとうございました!
参考リンク
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