書店員、著者になる─!?執筆をめぐる対話 新井見枝香さん×「Title」辻山良雄さんトークショー

新井見枝香さん・辻山良雄さんトークショー

こんにちは、ブクログ通信です。

先日渋谷のど真ん中で自著『探してるものはそう遠くはないのかもしれない』を手売りし、珍騒動を巻き起こした新井見枝香さんと、「Title」店主・辻山良雄さんのトークショーが、1月16日渋谷大盛堂書店にて行われました。新井さんは業界内外から注目される書店員のひとり。今回、本を出したきっかけが明らかになると聞き、ブクログ通信は再度怖いもの見たさでトークショーに潜入してきました。

取材・文/ブクログ通信 編集部 大矢靖之

トークショー登壇者プロフィール

新井見枝香さん近影
新井見枝香さん近影

新井見枝香(あらい・みえか)さん

東京都出身、1980年生まれ。アルバイトで書店に入社し、契約社員数年を経て、現在は正社員として某書店文庫売場に勤める成り上がり書店員。文芸書担当が長く、作家を招いて自らが聞き手を務める「新井ナイト」など、開催したイベントは300回を超える。独自に設立した文学賞「新井賞」は、同時に発表される芥川賞・直木賞より売れることもある。出版業界の専門紙「新文化」にコラム連載「こじらせ系独身女子の新井ですが」を持ち、文庫解説や帯コメントなどの依頼も多い。テレビやラジオの出演も多数。

辻山良雄(つじやま・よしお)さん

辻山良雄さん近影
辻山良雄さん近影

Title店主。1972年、神戸市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。97年、リブロ入社。大泉店、久留米店、福岡西新店を経て、広島店と名古屋店で店長を歴任。名古屋時代は街ぐるみの本のイベント「BOOKMARKNAGOYA」初代実行委員の一員を務める。2009年より池袋本店マネージャー。15年7月の同店閉店後退社。16年1月、東京・荻窪にTitleを開業。近著に『365日のほん』(河出書房新社/2017年刊)。

365日のほん

著者 : 辻山良雄

河出書房新社

発売日 : 2017年11月22日

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『探してるものはそう遠くはないのかもしれない』が生まれた経緯

トークショーの司会は、大盛堂書店の山本さん。大盛堂書店2階の文芸書売場が常に充実し、作家さんのサイン本が定期的に並ぶのは山本さんの力あってこそ。

大盛堂書店 山本亮さん
大盛堂書店 山本亮さん

その山本さんが今回のイベントの仕掛け人。トークショーで早速口火を切って、辻山さんに切り込みました。


司会:今回のイベント対談をよく引き受けてくださったな、と思いまして。改めてその理由をお聞きできますか。

辻山さん:新井さんについて、その仕事ぶりは見ていたんですけども、ちゃんとこれまで話したことが無くて。本を真剣に売っているのがひしひしと伝わってきて、その人が実際に本を書いて、イベントの依頼があったものですから、断る理由はなかったですね。

新井さん:嬉しいです。

司会:新井さんから見た辻山さんの姿と印象はどうでしたか?

新井さん:憧れてて。憧れてるから、怖くて……あまり喋る機会がなかったので嬉しいです。

辻山さん:怖くないですよ(笑)

司会:新井さんが今回の本を出版するきっかけは何だったんでしょうか?

新井さん:きっかけはあんまり覚えてないんですけど……出版元の秀和システムさんが「何でもいい」って言ってくれたんですよ。これまで執筆のオファーも他からあったんですけど、書店員で本屋の話や、その売りかたを期待されていて。そうじゃないものを書きたかったんですけど、秀和システムさんがそれでいいと言ってくれた。

それと、秀和システム会長さんと美味しいご飯を食べたんで……

司会:ご飯に釣られたんですか……?

新井さん:ハモ食べたんで断れなくなっちゃった……

司会:……さて、辻山さんは編集者からどんなオファーを受けていたんでしょうか?

辻山さん:人によりけりで、電話を受けた場合もあるし、手紙を頂いた場合もあるし。この河出書房新社『365日のほん』は直接編集者の方が来て、その圧に押されて書きました(笑)

始めに出した一冊目『本屋、はじめました』を「Title」で買った方に、ネットで毎日連載している「毎日のほん」をまとめた冊子を渡していたんですけど、河出書房新社の担当編集さんはそれを読んでくれたんです。ネットで出してる内容にも関わらず、紙だと違う感じがすると言われました。それがあって「日めくり的なものを作りたい」という話が出てきました。

新井さん:『365日のほん』が出たとき「やられた!」って思ったんです。本の作りもそうだし、やりたいことをやられたと。

辻山さん:初めから文章を読んでいく流れや形式ってのが本の王道じゃないですか。新井さんの本も、私の『本屋、はじめました』もそういう形式です。『365日のほん』は2冊目の本であるし、1日1ページ紹介していくっていうコンセプトありきなので、本の「設計」が大事になってくるんですね。そこから季節により色を変えるなど、細部が生まれてきました。

司会:新井さんは『探してるものはそう遠くはないのかもしれない』で「設計」を意識しました?

新井さん:最初私は判型を「文庫」で出したいって言ったんです。秀和システムは文庫レーベルはなかったんですけど、レーベルが無くても文庫がいいって。でも文庫にしても値段は下がらないって言われて。

辻山さん:それでも本体価格1000円は、手に取りやすい値段ですよね。

新井さん:自分の本を買ってくれるとき、それくらいの価格かなって。500円くらいで「ワンコインだから買ってよー」って押し売りできる(笑)押し売りができる価格は500円くらいかなって思って。最低ラインで1000円にしました。

司会:辻山さんは本のサイズで迷うことがありましたか?

辻山さん:別にそんなに迷わなかったですね。一冊目では「ソフトカバーにしてくれ」と希望を言いましたけどね。ハードカバーは文芸、研究者のイメージじゃないですか。手に取りやすいほうがいい、と思いました。

新井さん:私もソフトカバーを希望したんですよ。

二人が本を読みあった感想

新井見枝香さん・辻山良雄さん『探してるものはそう遠くはないのかもしれない』トーク2
トークショーは終始和やかに進みました

辻山さん:『探してるものはそう遠くはないのかもしれない』は面白く読みました。

新井さん:ホント!?辻山さんがこの本を読んでるのが想像できなくて。「こんな本絶対普段読まないよ!!」って思ってました。

辻山さん:あんまり普段読みません(笑)

ざっくばらんとした感想ですが、自分とは違うな、という印象を受けました。何が違うかって言うと、新井さんは本の依頼が来て出したかもしれないけど、仮に依頼が来なくても文章を書いていた人なんじゃないかな、って思ったんです。私は依頼が来て仕事で書くっていう意識が強いんですよ。自分は依頼がなかったら何か書いたかというと、分からないところがあります。

新井さんも作品に書いていますけど、誰かのために書いてるんじゃなくて、自分のために書いてる、っていう印象が強くて。エッセイは自分をさらけ出すものでもあるから、すごく正しいあり方だなって思いましたね。ときどきすごくドッキリすることがある箇所もありましたし。

司会:どんな箇所ですか?

辻山さん:「『週刊文春』にネタは売らない」(笑)この章が好きでした。「狂おしいほど好きになるのはどういうわけか必ず女性作家だ。しかしすんなり仲良くなるのは男性作家のほうが多い。つまりそれほど好きではないのだ」。グサっと刺さるというか、すごいことを書くなあと思いました。

新井さん:色んな人から良かった点を聞くんですけど、みんなそれが違うんですよ。面白いし、嬉しいです。

司会:新井さん、辻山さんの本を読んだ感想はどうですか。

新井さん:私は『本屋、はじめました』が好きなんですよ。本屋さんが書いた本の中で一番面白くて、素直に読めました。

本屋さんの本って好きじゃなくて。仕事として買ってるんだけど、大体途中で読むのを諦めちゃう。なんかこう、いわゆる本屋さんらしい本屋のいい話っていうのは、自分と相容れないところがある。

恥ずかしいというか、「そんなに凄いことか?」って思ってしまう。鼻についちゃうんですね。辻山さんの本は淡々としていて、冷静に書いていて、実際に「Title」に行っていたこともあって面白さが増幅しました。

辻山さん:新井さんの場合は作品に自分を入れていく書き方をされるんですけど、自分の場合、それをやっても別に面白くならないんですよ。別に面白くないから、できるだけ引いて見ちゃって、なるべく自分を消して引き算的に書くことが多いですかね。

新井さん:でも無意識かもしれないけどたまに面白いこと言ってるじゃないですか!

司会:プロの技ですね。

辻山さん:別にプロではありません(笑)

新井さん:「Title」って最初敷居が高いような気がしていたんですよ。意識高い感じで、入ったら何か買わなきゃいけないような感じで。流行ってる本とか買ったら「プッ」って思われるんじゃないかなって。

そう思ってたんだけど実際に行ったら全然違う。辻山さんって置物みたいになってるんですよ。存在を忘れちゃって。知ってる人の店に行ってる気もしなくて、買っちゃう。私は割とお客さんにレジで「何でこれ買うんですか?」って聞いちゃうんですよ。でもそういうところも無いから。

辻山さん:私はレジからあまり動かないですからね。でもお客さんに店員から聞くっていうのは珍しいですね。大型書店とかに行って「何でこれ買うんですか?」って聞かれた人は、「エッ!!」って思うんじゃないですか?

新井さん:割とノッてくれる人が多くて、「テレビ見たんですよ」とか「~に聞いて」って声をかけられることもあるんですよ。こちらから人を見て聞いてるんですけど、ハズレはないですね。

辻山さん:……大型チェーン店で店員からそう聞くのは相当のことですよね。

司会:新井さん、褒められましたね。

新井さん:へへ。よくレジが並んでる忙しい時に話しかけて、怒られるんですけど。

司会:ダメじゃないですか。

書く姿勢について

渋谷 スクランブル交差点前 大盛堂書店
渋谷 スクランブル交差点前 大盛堂書店

司会:今回の新井さんの本って、読者に何か語りかけてる感じがするんですよね。

新井さん:「オレを知ってるか」みたいな感じ?

司会:全然違います(笑)でも対面販売をしている感じですね。

新井さん:書いてるとき、読んでる人のことをあまり考えない本だなって思いました。どういう風に読んで、笑っておくれよ、って思っていない。しかも私が狙って書いてるところは結構スベってるっぽくて。読む人の思いをコントロールできないから、考えても無駄だな、って。

辻山さん:だからどういう読まれ方するか分からない。書いてる時は楽しいんですか?

新井さん:めっちゃ楽しい!

辻山さん:……楽しそうですよね。僕は書いてる時、そんなに楽しくない(笑)でも書くのは好きなんですよね。自分の文章をこねくり返し、結局最初に戻ったりするんですが、何が正解か分からないじゃないですか。だから苦しいんですけど、読んでくれた反応があると嬉しい。そういうところがありますね。

推敲とか書き直しは小まめにするほうですか?

新井さん:何もしないですね。ただ時折自分が大変なことを書いちゃうことが分かったんで、一晩寝かすことはあるんです。「これはまずいなさすがに」って思った時は消しますけど、出したあとは「ポイ」って感じで。再校が戻ってきて「直してくださいね」って言われても、見ないでそのまま返してたんですよ……。

辻山さん:原稿に赤字が入らなくて不安だったという話を本に書かれてましたが、赤字があまり入れられない文章だと思うんですよね。リズムがあって。モタモタ書かせるより、推敲しないで出てくる言葉のほうが面白いんじゃないかな。

新井さん:そうなのかも。うん。

司会:辻山さんは文章のリズムについて考えるんですか?

辻山さん:リズムとかを重視するような文章ではなく、書かれる内容が極力分かりやすくなるような文章を心がけていますね。書店用語についても、人文・哲学の本を紹介する内容でも、用語を使って難しく言うと、言った気になるじゃないですか。でもそれは読み返すと何も言ってないことに気付く。何も言えなくなるようなところを、もうちょっと泥くさく表現化したり、ってことはありますね。

『本屋、はじめました』を書いた時の出版社、苦楽堂の編集者は、そういうことを口に出す人なんです。そう言われて「確かに分からないな」と気付くこともある。この本が一冊目ですごくよかった、と思っています。自分が編集者のような視点を持って書くことができるようになりました。

新井さん:本を紹介するのってすごく難しいじゃないですか。考えすぎるとドツボにはまって。辻山さんが言うと何かすごくいい本であるように思うんです。何なんだろうな、って。

辻山さん:『365日のほん』って、紹介に使うのって長くて200字くらいなんですよ。そこで言えるポイントってせいぜい3つ、4つくらいなんですよ。だから本のいいところを探して、指摘して、それで終わってしまう。

司会:新井さんが理想にしている本の紹介ってありますか?

新井さん:うーん、私、人が書いたPOPとかって見ないんですよ。書店員のコメントとかも全然見ない。自分のコメントも、「面白おかしいか」どうかで見るけど、内容についてはあまり見ないんです。

書店員のコメントって、今すごくいっぱいあるじゃないですか。帯裏とかにも。あれは本当に意味があるのかな?って。もっと本って感覚的に選ばない?とも思っていて。本当はPOPもいらないと思ってる。

辻山さん:うちもつけてなくて。結局、本が語ってくれますからね。

新井さん:そうそう。ある人にとっては伝わるかもしれないけど、他の人にとっては阻害になってるかもしれなくて。めっちゃ熱い「泣いた!」「感激!」とかあって、引くお客さんもいません?本当は帯もいらないと思ってるんです。でもそれは計れないものですからね。

エッセイスト新井、小説家デビュー未遂事件

新井見枝香さん近影2
新井見枝香さん近影2

辻山さん:ちなみに文章を昔から書く機会はあったんですか?

新井さん:この前まで忘れてたんですけど、小説とかも書いていたことがあって、応募したんですよ。その時の応募先からの返信ハガキが家から見つかって、すっごい褒めてあるんですよ。「今からでもデビューできます」って。

……でもそれ、今になってみて分かったんですけど、自費出版の会社だったんです……(笑)。コメントがコピペっぽかったんですよね。でもお金の条件も簡単だったし、お金があったら出版してましたね。危なかった。初めて書いたこれがー??みたいな感じだったんですが。

辻山さん:ずいぶん簡単だなあ、って話ですよね。それはいつ頃の話ですか?

新井さん:まだ10代の終わりか、20代はじめくらいかな?小説をすごく書きたくて、書いても書いても書けなくて。改めて、小説家ってすごいな、って思います。

辻山さん:書いた作品はどういうタイプの小説だったんですか?

新井さん:……それは「本格ミステリー」です(笑)

司会:えーーー!?

新井さん:上野のハンバーガー屋にある一つのトイレ、そのドアの下の隙間から血がドビャーって流れてくる……ってところから始まるんですよ。その血が流れてる階段が急なんです。だからババーって血が階段に流れててみんな踏みたくないから密室ができあがるという設定です。

辻山さん:……はあ。(会場笑)

新井さん:鍵が閉まってて、中に誰かいるんです。それは殺人者なのか、死体なのか?って。でも何でそういう現場が出来たかってことが、書いても書いても思いつかなくて。それはプロットを立ててないからなんですね(笑)

すごい長大な文章になって、結局サイコパスっぽいのが出たり違う事件が起きたりするんですけど……そこにどうしても自分が登場人物として出てきちゃうんですよ。最後に自分が現れて、すべては自分の妄想だった、って滅茶苦茶な終わり方でした。

辻山さん:……なんか、赤塚不二夫みたいな……

新井さん:本格ミステリーのはずが……でもまだ夢は捨ててないんですけど。いつか書きたいんですよ。

辻山さん:やはりミステリーが書きたいんですか?

新井さん:はい。読む人と自分をびっくりさせたいし、大どんでん返しを二個も三個も入れて読む人が「あーーっ!!」ってびっくりするような文章を書けたら死んでもいいなって思ってて。やっぱり今もプロットを立てないで書いちゃうんですよ。それから自己顕示欲が強いのか結局自分が出てきちゃうんですよね。男でも犯人でも何でも自分になっちゃって、それって小説じゃないですよね、ダメなんですよ。

辻山さん:でもエッセイは向いてますね。

新井さん:そうなんですよ(笑)

書店員が自分の名前を宣伝に用いること

辻山良雄さん近影2
辻山良雄さん近影2

司会:お二人はカリスマ書店員って言われることが多いと思いますがどう思われますか?

辻山さん:僕はそう言われることないですよ。

新井さん:カリスマっていうか神様ですよ(笑)

私はいまさら「そうじゃない」とか言うのも面倒くさいので「あ、そうですね」とか言ってますけど。

辻山さん:僕は自分で店もやっているし、自分を売らないとご飯を食べられないってこともあるので、本を買ってくれることに繋がるなら腹を括るしかない。僕も「あ、そうですか」と返しています。

司会:自分の名前を売って名刺代わりになることについてどう思いますか?

新井さん:「Title」にとっては必要なことですよね。

辻山さん:そうですね。『本屋、はじめました』を買ってくれる方は、だいたい店に来てくれますね。

新井さんは本を出したばかりだから、これから来るんじゃないですか。

新井さん:ただ店に来て買ってくれた人から「サイン書いて」って言われたこともあるんですけど「嫌です」って断って。微妙な空気が流れたこともあるんですよね……でも嫌です(笑)この本を自分の店で売りたいかというと全然そんなことはなくて。あんまり大々的に展開もしていないんですよね。売れ残っちゃったらイヤじゃないですか。

辻山さん:自分が書いたものの在庫が残っちゃうと、我々は本屋なので、想像するだけでいたたまれなくなってきますよね。

ちなみに弁当売り的手法は、本を出す前からやろうと思ってたんですか?

新井さん:いや、苦肉の策で。自分で「押し売り」しかないかな、って思って。やる前には「なんでやるって言ったんだろう・・・・・・」ってめっちゃ後悔したんですけど、2、3分に1冊は売れて。本って、「買ったよ」っていうことを著者に対して応援するものなんだなって感じがします。だってそこで買わなくていいものじゃないですか。

辻山さん:いわばその人にお金を払う、っていう行為ですよね。本を買う理由って、案外色々あるかもしれないですよね。弁当売りしていないと絶対に買おうと思わなかった人もいますよね。そこで弁当売りしてたから買っちゃう、という。こういうトークイベントとかでも最初興味なかったけど本を買った、ということもありますね。

新井さん:ちなみに『探してるものはそう遠くはないのかもしれない』の表紙はまんしゅうきつこさんが書いてくれたんですけど、こないだ「あの、言い忘れたんだけどさ、あの表紙に書いた絵、あれスベるから絶対やめたほうがいいよ」ってアドバイスされて……もう遅いわ!やってるわ!って思いました(笑)この表紙はまんしゅうさんによる「スベるイメージ」なんです。

その他にも色んな売り方を考えてます。いま一番やりたいのは、小さいスナックに新人さんとして入って、お客さんにお酒を作りながら「私、本出してるんですけど、家賃も払えなくて……」って言うのはどうかって。

辻山さん:すごい遠回りな売り方ですね。

新井さん:ちょっとずつちょっとずつ売れないかなと思って……時給いらないから手伝えるところないかなって探してるんですよ。

司会:あの、時給貰って自分で買うほうが早いんじゃないですか……?

新井さん:後々のことを考えて……ファンとかできるかもしれないじゃないですか!

辻山さん:距離の近さで買ってくれそうな方もいますよね。

新井さん:酔ってる人は買ってくれますよね!

ブクログに急な無茶振り─質疑応答

新井見枝香さん・辻山良雄さん
新井さん・辻山さんのやりとりに会場から笑いが絶えることはありませんでした

(……こうして、突っ込みどころだらけのトークショーも佳境を迎え、質疑応答の時間に入りました。多くの質問がよせられ、登壇者の二人が答えていきましたが、いきなり司会の山本さんが唐突にこちらを見ながら……)

司会:今日は取材の方もいらっしゃいますが、目の前にいらっしゃるので、質問したい方など……ブクログさん、質問ありませんか。

(……無茶振りです。いまのトークショーの流れを受けて、「新井さんの人生や書店員生活にプロットはあるんですか?」と聞こうかと思いましたが、良心が痛んだので止めました)

─お二方も沢山の取材を受けてきて、カメラを向けられることも多いかと思いますが、そういうことに昔から緊張する性質でしたか?それとも慣れてきましたか?

辻山さん:仕事として考えると、これも仕事だ、ということで向き合ってる感じで慣れてきました。初めは緊張したと思いますし、今も人前でほどよく緊張はしています。それがないとやっぱりダレてきてしまいますからね。

新井さん:私はダレてますね、いつも(笑)緊張しないんですよ。テレビとか映るの大好きです。今までで一番すごかったのは○の○○くんと○○○○○ちゃんが登壇する映画の試写会舞台に、なぜかドーンと出されて「映画どうでしたか?」って聞かれて……

名前を公に出せない某芸能人の話は記事にできないからやめてください!

やっぱり「人生にプロット欠けてませんか」と責め立てればよかったと思う取材者でした)


司会:最後に、会場のみなさんにメッセージをお願いします。

辻山さん:新井さんの本はすごく面白かったです。言う事も最早ないので、皆さん、色々なかたにぜひ薦めてください。

さっき本を書くことについての話がありましたけど、今、実は次の本を書いています。『365日のほん』に比べて、もうすこし一冊一冊を掘り下げて作品・著者ごとに原稿用紙4~5枚の分量で書いていこうとしています。Titleのロゴを作ってくれた、画家のnakabanさんとの共作をしています。新井さんとアプローチは違いますけど、自分なりの書くことを見つけていきたいと思っています。

新井さん:私は……みんなすごく作品を褒めてくれてるんですけど、悪い感想を言っても大丈夫なので。全然傷つかないんで。意外と出てこないので、本当はそれを聞きたいんです。あと皆さん……お仕事ください!(笑)

司会:ありがとうございました!

新井賞発表!

なお、この日は新井賞の発表がありました!

新井さん:今回の新井賞、迷いはなかったです!第七回、新井賞は……

新井賞 桜木紫乃さん『砂上』
新井賞 桜木紫乃さん『砂上』
©Kobayashi Yasuhiro, 2018

砂上

著者 : 桜木紫乃

KADOKAWA

発売日 : 2017年9月29日

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新井さん:桜木紫乃さんの『砂上』です!桜木さんは直木賞を取っているのでそれを二度取ることはないんですけど、一人の作家をずっと見ていると「節目」みたいなものは必ずあって、それがずっと読んでいる中でこれだと思ってます。

小説家が書く小説家の話って、なかなか難しいと思うし、出てくる編集者や実際にあった話も書かれてるんですけど、私がいま考えているのは「人はなぜ小説を書くのか」ってことと、「なんで私たちはこんなに小説を読むのか」ってことです。ふたつの答えの兆しがこの小説にあって、今まで読んできた小説の全ての価値が変わるぐらいの衝撃でした。

私の本はいいからこの本読んで!(笑)絶対読んでください!


そんなこんなで無茶苦茶なトークショーでしたが、会場は超満員。トークショー後は新井さんと記念撮影のため、ファンの長蛇の列が。その列が終わるまで、とても長い長い時間が経ちました。

型破りな書店員、新井さん。その行き先不明な活躍が期待されますね。新井さん、辻山さん、山本さん、ありがとうございました!


なお新井さんは1月30日(火)、フジテレビ系列の「セブンルール」でテレビ出演!「1人の書店員が選ぶ 話題の『新井賞』」で特集されました!本谷有希子さんや、オードリーの若林正恭さんもコメントしていました。

新井さんが三省堂書店で活躍するところが取材されましたね。彼女の7ルールズは、以下の通り。

1.ポップに感想は書かない
2.芥川賞、直木賞と同時に新井賞を発表
3.毎日本を買って帰る
4.残高は気にしない
5.本は雪崩が起きたら捨てる
6.会社に縛られない
7.売り場仕事をやり続ける

また、番組内で紹介した本が軒並み話題になっています。新井賞の『砂上』だけでなく、千早茜さんの『男ともだち』、相場英雄さんの『震える牛』が注目を浴びています。ネット書店ではすぐに品切れ。全国の書店でも品切になりそう。お早めにどうぞ!

相場英雄

参考リンク

著者みずから渋谷駅前交差点で本を手売り─!?某有名書店員:新井見枝香さんの挑戦
久禮亮太さん×辻山良雄さん×石橋毅史さん「本屋のしごとの伝え方」トークイベントレポート
本屋の新井 Twitter
新井見枝香 note
Title

大盛堂書店公式ホームページ
大盛堂書店 Twitter

川上徹也さんcakes 「本屋はもっと『浪費』できる! 「本屋の新井さん」対談【前編】」
川上徹也さんcakes 「『売る』書店員さんの『売る技術』 本屋の新井さん対談【後編】」