ブクログ大賞海外小説部門ノミネート作品をご紹介! ピーター・トライアス『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』

ブクログ大賞が始まりました!
みなさんの投票で決まるブクログ大賞ですが、「ノミネートされている作品、読んだことないし投票しづらいなあ」と思われている方がいらっしゃるかもしれません。
前回はアンソニー・ドーアさんの『すべての見えない光』をレビューしました。今回は「第二次大戦で日独の枢軸側が勝利し、アメリカ西海岸は日本の統治下にある世界」が舞台の驚異的改変歴史SF、ピーター・トライアスさんの『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』をご紹介します!ぜひ内容紹介とユーザーレビューなどを見て参考にしてください。

そもそも、ブクログ大賞のノミネート作品って、どうやって選んでいるの?

2016年5月1日から2017年4月30日の期間に発売された日本語刊行書籍の中から、ブクログでの登録数・評価数をもとに各部門のノミネート作品を選出しています。

ブクログ大賞海外小説部門ノミネート作品 ピーター・トライアスさん『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』


ブクログの登録者数:271人 ★3.18評価

内容紹介

第二次大戦で日独の枢軸側が勝利し、アメリカ西海岸は日本の統治下にある世界。日本合衆国では、巨大ロボット兵器「メカ」が闊歩している-。21世紀版『高い城の男』の呼び声が高い、改変歴史SF。

\ おすすめのレビュー!/

 アメリカは東側がドイツに支配され、西側が大日本帝国の領地となっている。それは『高い城の男』と同様だが、本書ではこれがユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパンと呼ばれている。略してUSJ、ええと大阪にそのようなものがなかったっけか。
 日本がアメリカに勝つためには戦前の天皇制にかこつけた無責任体制がどうにか変わっていなければ無理じゃないかと思うのだが、この世界の日本はむやみと戦端を拡大せず、まずはドイツとともにソ連を攻略し、それから開戦。原子魚雷を3発お見舞いしてアメリカを降伏させるのが1948年。大日本帝国軍による日系人収容所開放から話が始まる。
 主人公の石村紅功は日本軍の検閲官。ベニコという名は女の子の名をそのまま付けられてしまった。愛称ベン。物語の主たる時代は1988年。戦後、40年である。
 大日本帝国が残ったわけだから、当然軍事国家であり、ベトナムで戦争したり、アフガニスタンでナチスと衝突したりしている。アメリカが戦争で勝ったなら、きっともっと平和な世界となっていたことだろう、あれ? という皮肉が効いている。テクノロジーは相当に進んでおり、スマホならぬ多機能の「電卓」が情報端末で、「機界」に接続して使用する。さらには軍の巨大ロボット兵器である「メカ」が登場するあたりが、帯に書いてある『高い城の男』+『パシフィック・リム』の謂いである。怪獣は出てこないようだが。
 ベンはこちらの言葉でいえば優秀なハッカーだが、軍人としては勤務態度が悪く、昇進も遅れている。かつての上司である六浦賀将軍が姿を消し、大戦でアメリカが勝ったという設定の非合法ゲーム『USA』を作ったらしいということで、特高の槻野昭子が捜査に現れる。昭子は天皇に忠誠を誓ったファナティックな捜査官でその捜査といったらダーティハリーか、昨今のすぐに黒人を撃ち殺す警官の如し。これも皮肉が効いているとみるべきか。
 現人神を頂点とした日本の支配を賛美しているわけではないが、さりとて、アメリカの支配する別の現実も賞賛できない書きっぷりがディックとの時代の違いを感じさせる。USJは悪夢的な世界だが、それはこちらの現実と同じくらいに悪夢的なのだ。

消息子さんのレビュー

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次回は海外小説部門ラストです。アントニオ・G・イトゥルベさんの『アウシュヴィッツの図書係』をご紹介いたします。どうかお楽しみに!