『コンビニ人間』で芥川賞を受賞した村田沙耶香が描く、10人産めば1人殺せる世界『殺人出産』

編集部が厳選したおすすめ本を、ブクログのみなさんのレビューを交えて紹介する「ピックアップレビュー」。今回は『コンビニ人間』で芥川賞を受賞された、村田沙耶香さんの短編集『殺人出産』を紹介します。

2014年7月に発売され(文庫版は2016年8月発売)、オードリーの若林さんがMCを務める「ご本、出しときますね?」でも絶賛された、村田沙耶香さんの短編集『殺人出産』。芥川賞を受賞した直後に文庫版が発売されたこともあり、気になっていた方も多いのではないでしょうか?
表題作は、10人産めば、1人殺してもいいという「殺人出産制度」が導入された世界を舞台に、「生」と「性」と「死」の価値観を揺さぶる衝撃的な内容です。

村田沙耶香『殺人出産』(講談社文庫)
村田沙耶香『殺人出産』(講談社文庫)

「産み人」となり、10人産めば、1人殺してもいい──。そんな「殺人出産制度」が認められた世界では、「産み人」は命を作る尊い存在として崇められていた。会社員の育子には十代で「産み人」となった姉がいた。蝉の声が響く夏、姉の10人目の出産が迫る。未来に命を繋ぐのは彼女の殺意。昨日の常識は、ある日突然変化する。表題作、他三篇。

価値観が揺さぶられる問題作

はじめは「10人産めば、1人殺してもいい」という設定に衝撃を受け、いくらなんでもこんな世界はありえないだろうと思いましたが、読み進めていくと、いつかこんな世界になるかもしれない…と思えてきます。

いつか世の中が変わって、
生と性の概念が変わってしまったらどうだろう。
という、作者の創造世界が炸裂していて面白かった。
今とは180度変わってしまった概念や道徳観でも、
読んでいるうちに、まあそれも有りかもなと思ってしまったり。

paper toyさんのレビュー

姉が「産み人」になったことで、「殺人出産制度」について気持ちが定まっていない育子。
その不安定な気持ちは「殺人出産」に興味を持つ小学生の従妹の登場、姉の10人目の出産が近づくことで揺れ動いていきます。読み進めていくと、育子の気持ちの変化に呼応するように、気持ちや価値観が揺さぶられていくのを感じます。

ずっと気にはなっていた本。だって殺人出産だよ…! 殺人出産。すごい言葉。
舞台は、産み人になって10人子どもを産むと、1人、誰でも殺すことができる制度がある、未来。産み人は、男の人でもなれる。人工子宮なるものを埋め込んで産む。
産み人を崇める人、崇めるほどじゃないけど、すごいよねと肯定する人、自然じゃないと批判する人、昔の正しい倫理に戻るべきだと嫌悪する人。立場はそれぞれで、一体「普通」とか「正義」ってなんだろう、と考えさせられた。それから、出産てなんだろう、とも。

まなみさんのレビュー

こういう、少子化のなれの果てでトチ狂った社会という設定の物語はかなり好みだが、本書を読んでいると果たして本当にそれが「トチ狂った」ことなのかがわからなくなる。とりわけ、この「殺人出産」のことを自由研究の課題にしている従妹の様子などを読むにつけ。彼女が、潰されたダリアの花を見て「お花がかわいそう。どうしてこんなに酷いことを」と言う場面など、上手いなぁ、と思う。

ニャ~さんのレビュー

なんか久しぶりに、ぶん殴られたくらいのガツンとした余韻のある本でした。

こんな世界がきてしまったら???
この本の中の世界が正常で常識なのかもしれないとしたら??

なんだか色々考えつつ、クライマックスを何度も読んでしまった。

(中略)

読了してから正義ってなんだろうってずっと考えてる。正しさとは…とか。
何が正しさっていう感覚なんだろうか。
とにかくすごい揺さぶられたな…

ako.さんのレビュー

読んでいるうちに、なにが正しくって何が間違っているのか、境い目が曖昧すぎて自分が立っている地面がぐらぐらと揺れているような衝撃を感じた。やっぱり考えていることが違う。善と悪。合理的、理不尽さがごちゃごちゃになり、麻痺して何が何なのかわからなくなるこの感覚がこわい。ホラーよりもこわい。

(中略)

うまく表現できないけど、恋愛と結婚、繁殖が一緒になっているのは当たり前のことなんだけど、結婚して25年くらい経つけど恋愛と結婚は別物だし、それに出産も同じ土俵に置いていいのか…愛ってなんだろう…と時々考えてしまうんだよね…。この本を読んでいると今普通にある倫理や常識がぼやけて見えなくなってしまう。すごいなぁ…と圧倒された。

まっき~♪さんのレビュー

常識とは、時代や育った環境が色濃く反映されるものです。
時代や環境が違えば、いまの自分の当たり前が当たり前ではなくなる。頭ではわかっていても、それが目の前で起こると戸惑ってしまいますよね。

ブクログのみなさんもレビューに書かれていましたが、短い話なのに後になってもずっと心に残る物語です。読後感でいうと星新一さんの作品藤子・F・不二雄のSF短編集に似ているかもしれません。

併録されている三作品も、それぞれ今の常識や価値観とは違う世界の物語で、短編集ではありますが、一貫したテーマがあり読み応えのある一冊になっています。

自分の価値観が揺さぶられる読書を、秋の夜長にじっくり楽しんでみてはいかがでしょうか。

「突然殺人が起きるという意味では、世界は昔から変わっていませんよ。より合理的になっただけです。世界はいつも残酷です。残酷の形が変わったというだけです。私にとっては優しい世界になった、誰かにとっては残酷な世界になった。それだけです」

ー 『殺人出産』(講談社文庫)より

講談社
発売日 : 2014-07-16

※ご紹介したレビューは一部抜粋です。ご了承ください。