本屋大賞・翻訳小説部門1位を獲得した『ハリネズミの願い』の、もうひとつの物語

編集部が厳選したおすすめ本を、ブクログのみなさんのレビューを交えて紹介する「ピックアップレビュー」。今回は、本屋大賞・翻訳小説部門1位を獲得した、トーン・テレヘンさん著、長山さきさん訳『ハリネズミの願い』をご紹介します。

「きみたちみんなをぼくの家に招待します。…でも、誰も来なくてもだいじょうぶです。」

親愛なるどうぶつたちへ。きみたちみんなをぼくの家に招待します。…でも、誰も来なくてもだいじょうぶです。
ある日、自分のハリが大嫌いで、つきあいの苦手なハリネズミが、誰かを招待しようと思いたちます。さっそく招待状を書き始めるけれど、手紙を送る勇気が出ません。もしクマがきたら?カエルがきたら?フクロウがきたら?―臆病で気難しいハリネズミに友達はできるのでしょうか。オランダで最も敬愛される作家による、大人のための物語です。

日本から海外へ広がっていった、臆病なハリネズミの物語

本屋大賞授賞式でスピーチする、翻訳者の長山さん

今回、本屋大賞の翻訳小説部門で1位になり、たくさんの人に愛読されている『ハリネズミの願い』。実は、最初に出版されたオランダではベストセラーにはなっておらず、英語に翻訳もされていませんでした。

翻訳者の長山さんが、トーン・テレヘンさんの著作の中から、「この本が日本人には共感されるのでは」と『ハリネズミの願い』を翻訳しようとした時、トーン・テレヘンさんはとても驚いたそうです。「どうしてこの本を選ぶんだろう?」と。けれど、その後『ハリネズミの願い』は日本でベストセラーになり、そこから台湾や韓国でも出版されることに。そしてオランダの新聞でも小さく取り上げられ、オランダ国内でも注目を浴びるようになりました。

長山さんは授賞式のスピーチで、「日本から世界に広がっていく海外文学というのも、すてきなことじゃないかなと思います」「(トーン・テレヘンさんは)人間のすごく繊細な心をかんたんな動物や言葉たとえて、多くの人に伝えることができる世界的に特別な作家だと思います。この本屋大賞をもらったことをきっかけに、いろんな人に読まれてほしいです」とお話しされていました。

臆病なハリネズミの願いは、トーン・テレヘンさんから長山さんに託され、世界へ。国境や言葉の壁を乗り越えて、人の手から人の手へと手渡され、広がっていったというエピソードは、それもまた、ひとつの素敵な物語のようですね。

このハリネズミは「自分」なのかもしれない

たくさんの方が、この作品にレビューを書いてくださっています。

変わりたい、でも変われない。だから続く、孤独と不安。臆病で繊細で、人一倍周囲のことを考える心優しいハリネズミに舞い込む思わぬラストに心が温かくなります。
等身大のあなたで良いんだよ、という温かな視点。

放浪金魚さんのレビュー

ハリネズミがネガティヴすぎて可笑しい。あまりにネガティヴで呆れてしまうんだけど、わかるなぁって、全面的に共感。ハリネズミは私だ!私はハリネズミだ!
途中途中に登場するカメとカタツムリも忘れてはいけない。彼らのエンドレスな言争い(?というかカタツムリが一方的に怒って言いがかりをつけてるんだけど)は、もはや出口のない共依存関係。まるでベケット演劇のよう。完全にブラックユーモアなんだけど、いやになるくらいリアルで笑っちゃう。

miwaさんのレビュー

冬の寒い日に、暖かい部屋でブランケットにくるまり、暖かい飲み物とおやつを片手に読みたい1冊。

Yuko115さんのレビュー

ハリネズミのかわいい表紙に惹かれて手に取った。内容もかわいい本。ハリネズミの想像が描かれていて、出てくる動物たちの個性というか、面白い。カメとカタツムリのコンビ(?)が絶妙(笑)

にしむらさんのレビュー

児童書かと思ってたら
これは哲学書ですね
静かで思索的な孤独

kariy0nさんのレビュー

淡々とした物語だった。
冒険へ出たりしないし、派手なやりとりもない、
いや、スケールの大きないろいろは確かに起こる(想像される)のだけど、とても静かで、まるで雨音みたいな本だと思った。

歌猫さんのレビュー

考えすぎだよー!と言われても、相手の気持ちを想像して悶々としてしまう。徒労かもしれないけれど、もしそう思われるならやめておこうかな、と考えること、ありますよね。考えすぎて疲れて、「もういいや!しーらない!」なんてつぶやきながらベッドにもぐりこんだり。そういう経験のある人は、理想と自意識のはざまで苦しむハリネズミの姿に、少なからず共感してしまうのかもしれません。
4月になって環境が変わり、気遣いばかりで疲れたな、とため息をつくあなたにおすすめの本です。

※ご紹介したレビューは一部抜粋です。ご了承ください。