「未来」を予測するための「リベラル・アーツ」―青山ブックセンター本店で聞いた最新ビジネス書5選

こんにちは、ブクログ通信です。

もうすぐ3月、卒業シーズンも控え、新生活準備の季節ですね。
世間では昨年から年始にかけてビットコインなど暗号通貨やFintechなどの「新しいお金」の話題や、ドローンやAIなど社会産業構造自体が新しくアップデートを模索しているような話題にあふれています。

今回は、そんな新時代に備え、頭の筋肉をほぐすための本をお薦めします。ブクログのオフィスに隣接する、青山ブックセンター本店で「未来予測とリベラルアーツ」企画を担当されている益子陽介さんにご協力いただいて、もはやビジネス書という枠を超えた(?)最新ビジネス書5選を紹介いたします!

取材・文・撮影/ブクログ通信 編集部 持田泰 猿橋由佳

「未来」を知るための「リベラルアーツ」

東京・青山ブックセンター本店でスタッフの益子さんにお話をお伺いしました!

―今回の企画、「未来予測とリベラルアーツ」というテーマについてお伺いしたいのですが、この棚を作ろうとしたそもそもの契機はなんでしょうか?

ディスカヴァー21の「リベラルアーツカレッジ」というシリーズが刊行されることになり、その始めの2冊『未来予測の技法』と『リベラルアーツの学び方』にインスピレーションを受けました。タイトルはそのまま拝借していますが(笑)。未来を予測するためには、過去の経緯や原理を幅広く理解する必要がある、つまりリベラルアーツを学ぶ必要がある。不確実性が増す今の時流を捉えた読まれるべきシリーズだと思いましたし、それぞれのテーマを膨らませて関連書を置けばユニークな棚になると思いました。

佐藤航陽さん『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』

瀬木比呂志さん『リベラルアーツの学び方 エッセンシャル版』

―「未来予測」をする上で、単に最新のテクノロジー解説書からではなく、これまでの歴史を紐解きつつ、その中から将来の座標のようなものを見つけていこうということですね?

そうですね。例えば、「未来予測」という言葉で最初に浮かんだのは、ケヴィン・ケリーの『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』(NHK出版 2016年7月)でした。前著『テクニウム――テクノロジーはどこへ向かうのか?』(みずす書房2014年6月)と同様に多くの方に手に取られたのは、変化の根底にある思想や原理を含めて語られているからではないでしょうか。

ケヴィン・ケリーさん『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』

ケヴィン・ケリーさん『テクニウム――テクノロジーはどこへ向かうのか?』

―なるほど。ケヴィン・ケリーからですか。

それは相次いで刊行された『マッキンゼーが予測する未来―近未来のビジネスは、4つの力に支配されている』(ダイヤモンド社 2017年1月)、『2030年ジャック・アタリの未来予測 ―不確実な世の中をサバイブせよ!』(プレジデント社 2017年8月)などにも共通しているように思います。

リチャード・ドッブスさん、他『マッキンゼーが予測する未来―近未来のビジネスは、4つの力に支配されている』

ジャック・アタリさん『2030年ジャック・アタリの未来予測 ―不確実な世の中をサバイブせよ!』

―棚を見る限りIT関連やビジネス書、自己啓発書など、本屋によっては全然ちがう棚に置かれていそうな本がラインナップされているように感じたんですけど。そのケヴィン・ケリーをきっかけとして、こういったジャンルの本が増えているんですかね?

そうですね。特にテクノロジーの動向は雇用への影響も大きいと思われるので、関心の高まりからこういった分野の刊行は増えていくだろうと思っています。

―なるほど。それではこういう「未来予測」や「テクノロジー」の棚構成も増えているんですか?

他の書店の棚でもケヴィン・ケリーやマッキンゼーの本は近い場所に置いてありますね。ただ「未来予測」と「リベラルアーツ」という組み合わせで並べている書店はあまり見かけません。

―棚には哲学の初学者向けの本も置いてあって、いい意味で不思議な棚だとも思います。それでそういった棚のジャンルというと、なかなか一言では言い表せないものだと思うんですが……。

そうですね。最近私も便宜上「ビジネス書」と呼んではいますが、人文書との境目も曖昧になってきているように感じます。私もそれを何と呼べばいいか困っています。

―「ビジネス書」と言いつつも「ビジネス」一色ではなくて、「現代社会」の色合いも強く、「政治経済」にも関連して、だからと言って政治経済の棚に置いてあるかと言われるとそうでもなく……。

おっしゃるとおりで、そういったジャンルに名前を付けられればおもしろいなと思っているのですが…。「クリエイティブ書」とか「アイデア書」とか…。いろいろ考えているんですけど呼びづらいし、定着はしませんよね(笑)

新しいジャンルが生まれつつある?

―それも含めて、まだ明確になっていないジャンルが生まれつつあると、益子さんは捉えているんですね?

今でいう「ビジネス」と「思想」の境目が将来どんどんなくなっていくと思います。それを今先陣切ってやっているのがNewsPicksBook(※経済ニュースプラットフォーム「NewsPicks」と幻冬舎が協業で2017年4月に創刊した書籍レーベル)ですね。NewsPicksも今は「ビジネス書」のくくりにはなるんですが、その中で例えば『リーダーの教養書』(2017年4月)や『ポスト平成のキャリア戦略』(2017年12月)といった本で薦められている書籍も人文書が中心なんです。実際それが「世界基準」だと言われています。

出口治明さん、猪瀬直樹さん、他『リーダーの教養書』

塩野誠さん、佐々木紀彦さん『ポスト平成のキャリア戦略』

―なるほど。

そういったジャンルやラベリングは関係なく、本というものは何か生きる上での糧になるものだと思います。それこそ文学や哲学がビジネスの現場で思わぬイノベーションを起こさないとも限りません。NewsPicksさんが実践しているような形で、どんどん境界が曖昧になっていけばいいと思いますし、書店員としてもジャンルレスな棚にチャレンジしていきたいです。

―今回の棚で、よく売れている本は佐藤航陽さん『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』(2017年11月)だと思うんですが、これもまたNewsPicks Booksさんですもんね。ブクログランキングでも、昨年のクリスマスあたりから急上昇で、それ以来長らくTOP10圏内にランクインしている作品ですね。周期的に1位に返り咲いたりしてとてもよく売れている本かと思います。

佐藤航陽さん『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』

そうですね。当店でも『お金2.0』は異例の売れ行きです。同じNewsPicksBookから出た堀江貴文さんの『多動力』に次ぐ売れ方をしています。『多動力』(2017年5月)は堀江さんのネームバリューも大きかったのですが、『お金2.0』の著者である佐藤さんはあまり知られていなかった。このシリーズを手掛ける幻冬舎の箕輪さんの発信力に交通広告が掛け合わさってベストセラーになったのではないでしょうか。

堀江貴文さん『多動力』

―メディアでもよく取り上げられた印象がありますね。あとはビットコイン「億りびと」やコインチェックの騒動であると12月から1月にかけてとかく話題でしたから、世間が「新しいお金」というものを、どう捉えればいいのかといろいろ疑問に思っているタイミングで、ちょうどよかったのかもしれませんね。

広告やマーケティング業界でも新しいキーワードやサービスがすごい早さで生まれていますからね。本質的な部分を理解したいというニーズに合致したのではないかと思います。『お金2.0』は私も強く推したい本です。

―やっぱり「推し」ですか。 僕も読んだんですけど、一気読みできながら内容は濃いですね。とくに二章から三章にかけて「将来どうなっていくのか?」というところが興味深かったです。

そうですね。この本では資本主義に代わる「価値主義」という考え方が提唱されているんですよね。「お金を稼ぐ」ことに対する価値だけでなく、より普遍的で社会的な価値が求められてきている。営利と非営利の境界がどんどん壊れてきているという指摘が印象的でした。
読んでいてふと思い出したのは、アウトドア用品を扱う「パタゴニア」です。彼らはビジネスの持続可能性を踏まえ、環境評価にかけるコストは厭わないというのです。短期的にはコストがかさみますが、その姿勢に深く共感している顧客はパタゴニアのファンとして、たとえ商品の値段が多少上がったとしても離れていかないんじゃないでしょうか。こういった普遍的なビジョンを掲げ徹底できる企業が生き残っていけるのだろうなと思います。

未来のビジネスにはアートは必要?


―なるほど。他にもお薦めはあったりしますか?

山口周さんの『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社 2017年7月)も推したいですね。こちらは光文社新書から出ている本で、当店でもよく売れています。ブクログさんではどうですか?

山口周さん『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』

―ブクログでも登録数もなかなか多く評価も高いですね。登録属性では30代、男性が中心となってます。

good design companyの水野学さんがイベントで取り上げられたのをきっかけに読んでみました。多くの方に手に取られる裾野の広い本で、大変おもしろかったです。また『お金2.0』に通じるところがあるなとも思いました。

―どういったポイントですか?

「美意識」が社会的な価値や理念と同様のものを指すのではないかと思ったんです。
日本は高度経済成長期、需要の増大にあわせて生産性を高めてきました。コストを下げ、スピードを上げる。定量的でロジカルな視点が求められてきました。しかし人口はピークを迎え、物は飽和し、効率一辺倒では成長できなくなりました。そんな中で、「美意識」に基づく経営を実践し一人勝ちしたのが「アップル」です。感性やデザインといった定性的でアートな視点を経営トップに取り入れる。この本ではアートの下にロジカルとクラフトを置くべきだと主張されています。あくまで意思決定は「美意識」に基づくべきだということですね。

―なるほど。

著者である山口周さんは経営コンサルタントの方で、『知的戦闘力を高める 独学の技法』(ダイヤモンド社 2017年11月)という本も出されています。

山口周さん『知的戦闘力を高める 独学の技法』

―その本も今回の「未来予測とリベラルアーツ」の棚に並んでいましたよね?

並んでいます。その本でも自然科学や宗教など幅広い教養が必要だとされています。印象的なのは、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』で強調されていた「哲学」です。それは哲学が既存の枠組みや常識を打ち破る学問であるからだそうです。ビジネスの文脈でいえば「イノベーション」ですね。先ほど言った通り、効率化と企業の成長が比例しなくなっていく今後を見据えると、イノベーティブな視点が必要とされることは腑に落ちますし、書店員としても必要な素養だなと…。

―書店員としてもですか、おもしろいですね。たしかに物量で売っていける時代ではないと。

本当にこれは身につまされます。

これからは「百姓」モデル?

―益子さん自身がどういう傾向の本がお好きなんですかね?

どうでしょう。私自身はけっこう好きな本が移り変わるので(笑)。でも「ビジネス書」を読むようになったのは最近ですね。元々は文芸と人文書が好きなので。

―そう違った畑から見る「ビジネス書」だからこそおもしろい見方ができるんですかね。

そうですね。でも人文的な学問や背景は、ビジネス書の世界でも必要だなと最近本当に痛感していますね。

―そうなんですね。

例えば、ライフネット生命創業者の出口治明さんはライフワークのように人類史や世界史の著書を数多く執筆されています。以前「歴史や背景を知った上での次の一手が大事」だとおっしゃられていて。ふだん意識にも上らず当たり前のように接しているものの中にも、遡れば実は日本独自の伝統や文化があるかもしれません。それは最近落合陽一さんの『日本再興戦略(NewsPicks Book)』(幻冬舎 2018年1月)を読んだときにも思いました。彼は堀江さんの「多動力」に触れ、そのあり方を「百姓」になぞらえていました。

落合陽一さん『日本再興戦略』

―そんなことが書いてあるんですか。

はい。「百姓」が出てくるんですよ。とても驚きました。一つの組織に属さず様々な仕事を請け負っていくという働き方は、日本に元々あった「百姓」のあり方に通じると。言われてみれば、終身雇用・年功序列という制度の下、ひとつの組織に勤め上げ、リタイア後は年金で…というモデルはこの数十年の常識でしかありません。すでにそういったモデルが立ち行かなくなるのはリンダ・グラットン、アンドリュー・スコットの『LIFE SHIFT』(東洋経済新報社 2016年)でも指摘されている通りです。堀江貴文さんのような働き方は、現実的には真似できないのではないか、突飛なのではないかと思った方も多いはずです。でも落合さんにとってそれは日本人と親和性の高い働き方なんです。ここで掘り下げることはできませんが、彼が提唱する「デジタルネイチャー」にしても、東洋的な価値観である「自然」がその根底にはあります。いずれも、日本の歴史や文化、東洋思想に精通する彼だからこそ言えることですよね。

―その、落合陽一さん『日本再興戦略』、堀江さん『多動力』は今回の企画棚には入ってないですが、今のお話だと全部通ずるものがありそうですね。

はい。「ビジネス書」としてアウトプットしている人だけでなく、人文書含めあらゆるジャンルの根底で考え方が繋がることが多々あります。そういった発見や気づきで認識が更新される瞬間が読書の醍醐味ではないでしょうか。今回の棚には入っていなくてもぜひ書店で手に取っていただければ(笑)

青山ブックセンター本店益子さんお薦め5タイトル!

佐藤航陽さん『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』

佐藤航陽さん『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』
ブクログでレビューを見る

益子さんコメント
「仮想通貨」「ビットコイン」「ブロックチェーン」といったワードが急速に浸透する中、そもそも「経済」とは何か、「お金」とは何かを問う一冊。資本主義に代わる「価値主義」という概念はこれからの生き方・働き方を考える上で大きなヒントになります。

山口周さん『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』

山口周さん『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』
ブクログでレビューを見る

益子さんコメント
不確実性が増し、消費のあり方も「自己実現的消費」へと変化する中で、組織レベルでも個人レベルでも、なぜ「美意識」が求められるのかをわかりやすく解説した一冊。「美意識」のより具体的な鍛え方は同じ著者の『独学の技法』がおすすめです。

瀬木比呂志さん『リベラルアーツの学び方リベラルアーツの学び方』

瀬木比呂志さん『リベラルアーツの学び方 エッセンシャル版』
ブクログでレビューを見る

益子さんコメント
実践に活かすための幅広い教養を体系的に学ぶための一冊。いかに情報に向き合うかという概略的なところから始まり、後半自然科学、人文科学、芸術と具体的なジャンルごとに学び方と参考文献や作品を紹介しています。類書も少なく、取っ掛かりの一冊としておすすめです。

佐藤航陽さん『時代を先読みし、チャンスを生み出す 未来予測の技法』

佐藤航陽さん『時代を先読みし、チャンスを生み出す 未来予測の技法』
ブクログでレビューを見る

益子さんコメント
変化が著しいテクノロジーの未来を 9つの「パターン」に着目して予測する方法論を解説。あふれる「点」の情報に惑わされないための「思考の軸」を提示する一冊です。

ティム・ハーフォード さん『ひらめきを生み出すカオスの法則』

ティム・ハーフォードさん『ひらめきを生み出すカオスの法則』
ブクログでレビューを見る

益子さんコメント
変化球になるのですが、「予測することが難しい未来」を逆にポジティブに捉えようという趣向の一冊。適度な偶然やアドリブ、多様性をあえて取り入れることで高いパフォーマンスにつながるということが数々のエピソードを交えて明らかにされます。読み物としてもおもしろい一冊です。

おわりに

いかがでしたか。
青山ブックセンター本店には、ここに挙げた以外にも、「未来を知るためのリベラルアーツ」がそろっています。お近くにいらっしゃった際は立ち寄ってみてはいかがでしょうか!