【おくやみ】文化人類学者 渡辺公三さん逝去─主著『現代思想の冒険者たち レヴィ=ストロース 構造』

渡辺公三さん逝去 代表作『現代思想の冒険者たち レヴィ=ストロース』『闘うレヴィ=ストロース』

2017年12月16日、文化人類学者であり、立命館大学副総長を務めた渡辺公三(わたなべ・こうぞう)さんが亡くなったことが報じられました。享年、68歳。心からご冥福をお祈りいたします。

渡辺公三(わたなべ・こうぞう)さん(1949年5月15日 – 2017年12月16日)

東京都生まれ。1974年東京大学教養学部教養学科卒、1981年同大学院社会学研究科文化人類学博士課程満期退学。国立音楽大学講師・助教授、立命館大学文学部教授を経て、2003年に立命館大学大学院先端総合学術研究科教授に着任。

構造主義を広めたフランスの社会人類学者・民俗学者クロード・レヴィ=ストロースについての入門・概説書、翻訳書を中心に、人類学に関する多くの書籍を世に出しました。主な研究テーマはアフリカ王制社会の人類学的研究、および人類学の歴史。ご本人による自己紹介を引用します。

私は自己紹介する時には、「アフリカ民族学」と「人類学とりわけ人類学史」を専攻していると答えることにしている。アフリカ民族学としてはコンゴ民主共和国(旧ザイール)にある伝統王国の調査を中心に、人はなぜ社会を作るのに王様を必要としたのか、社会とは何か、といった問題を、何か直接実利的に役に立つのかということを一度棚に上げて探究したいと思い、また探究しているつもりでいる。今日の大多数の日本人にとって、アフリカの鄙びた一角の無名の王国など殆ど存在しないに等しいのではないだろうか。けれどもそれは言いかえれば、この無名の王国が、グローバルだと自負する私たちの視野の盲点のあり方を象徴的に表わしていると考えることもできる。人々の視点に組みこまれた盲点を見極め、見えていない世界の部分、視点からしめ出された部分を改めて組み込んだ展望を探求すること。少し抽象的に言えば、私にとっての人類学のおもしろさと存在価値はそこにある。こうした一般的視点から見れば、「天の邪鬼」ともいえそうな人類学が、とりわけ西洋のどのような歴史の流れの中で形成されてきたのか、という研究が、「人類学史」だ。

立命館大学先端総合学術研究科 渡辺公三さんプロフィール「研究者からのメッセージ」から引用

代表作

現代思想を総括し21世紀の展望を試みた『現代思想の冒険者たち』シリーズ(講談社)、レヴィ=ストロースについて1996年に記した書が広く読まれました(2003年に新装版発行)。このシリーズは90年代から幅広い読者層から読まれ、現代思想に関心のある多くの読者に概説的な知識を提供しています。

2009年に発売された『闘うレヴィ=ストロース』(平凡社新書)は入手しやすい概説的な新書ですが、発売のタイミングでレヴィ=ストロースが亡くなり(2009年10月30日逝去)、多くの読者に読まれることになりました。なお、レヴィ=ストロースへの入門としては、『レヴィ=ストロース-入門のために 神話の彼方へ』(河出書房新社)に寄稿された渡辺公三さんの小論、「レヴィ=ストロースは何を問うたのか」が読みやすい内容です。

専門的研究としては博士論文がもとになった『司法的同一性の誕生』が高い評価を受けていますが、現在は新刊での入手が難しくなっています。

渡辺公三さんのおすすめランキング

渡辺公三さんはその著作と翻訳によって、レヴィ=ストロースを私たちにも近づきやすい存在にしてくださいました。どうかこれからも著作と翻訳が読まれつづけますように。

参考リンク

立命館大学先端総合学術研究科 渡辺公三プロフィール
Story #15 渡辺公三 | Research Story | 研究・産学官連携 | 立命館大学
researchmap 渡辺公三
時事通信「渡辺公三氏死去(学校法人立命館副総長・文化人類学)」(2017年12月18日)