大胆な仮説を提唱し続けた独創的思想家、梅原猛さん逝去─代表作を振り返る

梅原猛逝去、そのおすすめ・代表作をさぐる

さる1月12日、哲学者・思想家の梅原猛さんが肺炎のため逝去。93歳でした。ご冥福をお祈りします。

NHKニュース「哲学者 梅原猛さん死去 93歳」(2019年1月14日)

経歴:梅原猛(1925年3月20日 – 2019年1月12日)

仙台市生まれの哲学者。京都大学哲学科卒業後、龍谷大学、立命館大学を経て京都市立芸術大学美術学部教授、そして学長に。国際日本文化研究センター創設に尽力し、設立後に所長を務めたことでも知られる。
『隠された十字架』『水底の歌』で、それぞれ毎日出版文化賞、大佛次郎賞を受賞。縄文時代から近代までを視野に収め、文学・歴史・宗教等を包括して日本文化の深層を解明する「梅原日本学」を確立。
ものつくり大学総長(初代)、京都市立芸術大学名誉教授、国際日本文化研究センター名誉教授、そして東日本大震災復興構想会議特別顧問を歴任。「スーパー歌舞伎」「スーパー能」の創作でも著名。

梅原猛さんの作品一覧

梅原猛さん代表作その1 毎日出版文化賞受賞作、『隠された十字架 法隆寺論』

1972年に刊行され、同年に第26回毎日出版文化賞を受賞しました。法隆寺は怨霊鎮魂の寺とする大胆な仮説を提起しています。

梅原猛さん『隠された十字架―法隆寺論 (新潮文庫)
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思想史、文献学、仏像美術史、建築学といったジャンルを横断し、諸説を突き合わせて検討したうえで古代国家の謎、法隆寺再建の契機に迫ります。法隆寺は聖徳太子の怨霊鎮魂のために建てられた寺、とする仮説は多くの読者を驚かせ、さまざまな批判を受けることもありました。そのうえで、「梅原古代学」「梅原日本学」の柱とみなされている一冊です。

梅原猛さん代表作その2 大佛次郎賞受賞作『水底の歌 柿本人麿論』

1973年に刊行され、翌年には記念すべき第1回大佛次郎賞を受賞しています。同書には、柿本人麿(人麻呂とも表記される)は身分が低く若くして死去したとされているが、実は高い身分で、高齢になってから刑死した人物ではないか、という説が提唱されています。

梅原猛さん『水底の歌―柿本人麿論 (上) (新潮文庫)
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梅原猛さん『水底の歌―柿本人麿論 (下) (新潮文庫)
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柿本人麿は経歴が明らかになっていない人物で、『万葉集』とその題詞・左注などにしか資料が残されていません。本書は、その謎を明らかにしようと試みています。人麿晩年の歌に「水底」「死」に関するイメージが多いことから、状況証拠をもとに海上の小島に流罪のうえ、亡くなったのではないか。そして人麿は柿本猨(猿丸大夫)と同一人物ではないか、という説も提唱。

読者を魅了し、さまざまな評判を呼んだ一冊です。影響を受けた井沢元彦さんが、歴史ミステリー小説『猿丸幻視行』を刊行したことでも話題を集めました。「梅原古代学」「梅原日本学」を知るために不可欠な一冊です。

梅原猛さん代表作その3 60年代のベストセラー『地獄の思想』

生の力を肯定する思想だけでなく、生の暗さを凝視する思想を愛した日本人の思想的系譜を表した一冊。刊行された60年代、ベストセラーになりました。1967年『地獄の思想』は中公新書で刊行され、2007年には中公文庫でも刊行されています。

梅原猛さん『―日本精神の一系譜 (中公文庫)
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人間の苦悩への深い洞察と、生命への真摯な態度を教え、日本人の魂の深みを形成してきた「地獄の思想」。古代から宮澤賢治、太宰治に至る文人たちは「現世に地獄を見た」人々と考えたうえで「地獄の思想」を浮き彫りにすることを試み、暗い生の事実から生の強さを導き出そうとする一冊。


なお梅原さんについては日本経済新聞「私の履歴書」連載を収録した『知の越境者―私の履歴書』、そして第三者からの評伝となる『評伝 梅原猛』も刊行されており、梅原さんの足跡を辿るのに有用な書籍も刊行されています。

梅原猛さんの作品が、様々なかたちで読まれることを願ってやみません。

参考リンク

ものつくり大学 名誉総長ごあいさつ