【おくやみ】高畑勲さん逝去 代表作『火垂るの墓』『かぐや姫の物語』

高畑勲さん逝去 フランスとの交流、代表作

4月5日、スタジオジブリ『火垂るの墓』『かぐや姫の物語』などで知られるアニメーション監督高畑勲さんが、肺がんで亡くなりました。82歳でした。ご冥福をお祈りします。

(2018年5月16日最終更新)

NHKニュース「アニメ作家 高畑勲さん死去 『火垂るの墓』などの作品」(2018年4月6日)
ハフィントンポスト「高畑勲さん死去、ジブリ鈴木敏夫氏が追悼コメント『さぞかし無念だと思います』」(2018年4月6日)
ハフィントンポスト「高畑勲さん『お別れ会』 宮崎駿監督は声を詰まらせながら、亡き盟友を偲んだ(追悼文全文)」(2018年5月16日)

経歴:高畑 勲(たかはた いさお、1935年10月29日 – 2018年4月5日)

三重県宇治山田市(現・伊勢市)生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。長編漫画映画『やぶにらみの暴君』(『王と鳥』の原型)の影響で、アニメ映画を作るために東映動画入社。テレビアニメ『狼少年ケン』で演出デビューし、劇場用長編アニメ映画『太陽の王子 ホルスの大冒険』の監督を務め、宮崎駿と共に作品制作にあたる。

その後Aプロダクションに移籍して『ルパン三世』 (TV第1シリーズ)後半パートの演出を宮崎と共に担当。映画『パンダ・コパンダ』の演出を務める。ズイヨー映像(のちに日本アニメーションに改組)に移籍したのち、『アルプスの少女ハイジ』『母をたずねて三千里』『赤毛のアン』『未来少年コナン』などの演出、『じゃりん子チエ』アニメ映画監督とTVアニメチーフディレクターなどを担当した。

その後、宮崎駿・鈴木敏夫らとスタジオジブリを1985年に創設。これに前後して『風の谷のナウシカ』(1984年)、『天空の城ラピュタ』(1986年)のプロデューサーを皮切りに、ジブリ作品に積極的に関わった。『火垂るの墓』(1988年)、『おもひでぽろぽろ』(1991年)、『平成狸合戦ぽんぽこ』(1994年)、『ホーホケキョ となりの山田くん』(1999年)、『かぐや姫の物語』(2013年)監督・脚本を務める。実写映画『柳川堀割物語』(1987年)脚本・監督も務めたが、作りこみすぎて製作期間を延ばしてしまい資金を使い果たしてしまったことが、『天空の城ラピュタ』とスタジオジブリ誕生の遠因にもなっている。

高畑勲さんの映画一覧

映像作品以外にも本の著作があり、『映画を作りながら考えたこと』『アニメーション、折りにふれて』といった映画に関わりが深いものから、『君が戦争を欲しないならば』といった講演を元にした著作など、幅広い切り口の評論を残している。

仏文学科出身ということもあってフランス語に堪能で、関わりが深い。2015年にフランス芸術文化勲章を受章しており、その演説のなかで高畑さんは「フランスは最も旅行してきた国で、最も近しいと感じている国家から表彰されるのはこの上なく幸せです」(Le Mondeから)と語っていた。在学中に影響を受けたフランスの詩人・作家、ジャック・プレヴェール『ことばたち』『鳥への挨拶』の翻訳を行っており、プレヴェール脚本のアニメ『王と鳥』、ミッシェル・オスロ監督の長編アニメーション映画『キリクと魔女』字幕翻訳にも関わっていた。

高畑勲さんの著作一覧

以下、書籍代表作や世界的評価を受けた作品をご紹介します。

高畑勲さんの書籍代表作その1 『映画を作りながら考えたこと』

『映画を作りながら考えたこと』は、けしてよく知られているとはいえないジブリ前史を、高畑監督自ら語るエッセイ・論考集です。手に入りやすい文庫作でもあり、資料を介して作品に近づくのに最も容易な代表作ともいえるでしょう。

高畑勲さんの書籍代表作その2『アニメーション、折りにふれて』

日本のコミックや映画を振り返りつつ、映画づくりにかける思い、考察を記したエッセイ集。また、学習院大学大学院人文科学研究科主任研究員を務めていた時期の研究業績、「脳裏のイメージと映像のちがいについて」もここに収録されています。評論家としての高畑さんに近づくための手引きとなるでしょう。

高畑勲さんの書籍代表作その3『君が戦争を欲しないならば』

2015年6月29日岡山市民会館で開催された、岡山市主催による岡山市戦没者追悼式における平和講演会での講演録を大幅に加筆したものです。高畑さんは9歳のとき、故郷の岡山市で焼夷弾による空襲体験がありました。それをこの時まで公私問わず、殆ど話さずにいたそうです(高畑さんは自らがフランス語や音楽に堪能であったことも殆ど公言することがなかったと言われています)。

戦争を語ってこなかった理由だけでなく、本人の戦争や民主主義に対するスタンスを自ら表明したものとして貴重な一冊です。プレヴェールの「君が戦争を欲しないならば、繕え、平和を」と挙げている箇所は必見。高畑さんの思想が語られていくなかで、今後最も言及される一冊になるでしょう。

高畑勲さんの翻訳代表作『ことばたち』について

フランスの作家や映画についての翻訳は多数ありますが、一つ選ぶなら高畑さんに影響を与えたジャック・プレヴェール『ことばたち』の全訳です。プレヴェールは映画『天井桟敷の人々』の脚本家としても知られ、多くの映画監督との仕事がありますが、その脚本と詩作は日本にも早い時期から紹介されており、高畑さんは東京大学在学中に読み、多くの影響を受けていました。先に紹介した『君が戦争を欲しないならば』でも、プレヴェールの引用を行っています。

現在新刊では入手が難しい状況になっているのが残念です。

高畑勲さんの著作一覧

高畑勲さんの映画代表作その1『火垂るの墓』について

高畑さんの映画作品についてもはや言及の必要がありませんが、海外でも広く有名な作品のひとつに『火垂るの墓』(1988年)が挙げられます。フランスで高畑さんの訃報が報じられたとき、Le Monde ではMort d’Isao Takahata, réalisateur du « Tombeau des lucioles »(高畑勲、逝去。『火垂るの墓』監督)として、見出しにも挙げられており、「彼の最も偉大な映画とみなされている作品」と記事でも言及されています。

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発売日 : 2015年3月18日

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高畑勲さんの映画代表作その2『かぐや姫の物語』について

企画開始から8年の歳月、50億円超の製作費が投じられ、高畑さん本人が、自らの総集編と見なした作品です。欧米からの評価もきわめて高く、第87回アカデミー賞の長編アニメ映画賞は惜しくもノミネートまででしたが、第35回ボストン映画批評家協会賞アニメーション映画賞、第40回ロサンゼルス映画批評家協会賞アニメーション映画賞、第8回アジア太平洋映画賞最優秀アニメーション映画賞、第16回リスボン国際アニメーション映画祭長編アニメ映画グランプリなどをそれぞれ受賞しました。

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発売日 : 2014年

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高畑勲さんの映画一覧

今後も高畑さんの作品が読まれ、観られ、広まっていくことを願ってやみません。

参考リンク

スタジオジブリ 公式ホームページ