第71回毎日出版文化賞決定!古処誠二さん、東浩紀さんら受賞作紹介

こんにちは、ブクログ通信です。

11月3日、第71回毎日出版文化賞の受賞図書が決まりました!

「毎日出版文化賞」とは毎日新聞社が主催し、毎年11月に受賞作が発表されています。終戦後の1947年に創設され、優れた出版物の著編者、出版社などを顕彰する賞となります。選考は、「文学・芸術」「人文・社会」「自然科学」「企画」(全集、講座、辞典、事典、書評など)「特別賞」の5部門で行われ、2016年9月1日~2017年8月31日までのに初版が刊行された出版物や、その期間中に完結した全集が受賞対象です。

受賞作紹介

文学・芸術部門 古処誠二さん『いくさの底』(KADOKAWA)

ビルマ北部山岳地帯の小村に駐屯することになった日本軍。そこで、日本人将校賀川少尉が首を切られ殺される。しかし、その二日後には村長も同じ手口で殺された。殺した理由は何なのか。犯人は、日本兵か、村人か、それとも?兵士も住民も疑心暗鬼にかられるなか、そこで渦巻く内紛や私怨があらわになっていくサスペンス。

全編を通じてピンと張りつめた緊張感。第二次大戦のビルマ戦線、過剰な説明を排し、読者の基礎知識と読解力を要求しながら、ミステリという読み物としても良く出来ており、人物の葛藤や余韻は文学的でもある。

dannerさんのレビュー

著者:古処誠二(こどころ・せいじ)さん(KADOKAWA)

1970年、福岡県生まれ。元航空自衛官。2000年、自衛隊レーダー基地での盗聴事件を描いた『アンノウン』で第14回メフィスト賞を受賞し作家デビュー。以後は戦争を舞台にした作品を多数執筆。『七月七日』、『遮断』、『敵影』が直木三十五賞候補。『線』をはじめとする一連の執筆活動に対し、第3回池田晶子記念わたくし、つまりNobody賞を受賞。

古処誠二さんのおすすめランキング

参考リンク

カドブン「古処誠二『いくさの底』インタビュー」

人文・社会部門 東浩紀さん『ゲンロン0 観光客の哲学』(ゲンロン)

グローバリズムが世界を覆い、ナショナリズムの波が押し寄せる時代、私たちはいかにして新たな政治思想の足がかりを探し、他者と共に生きる道を見つけることができるのか。東思想の新展開を告げる渾身の書き下ろし。ブクログ大賞人文書部門大賞受賞作。

ゲンロン0 観光客の哲学

著者 : 東浩紀

株式会社ゲンロン

発売日 : 2017年4月8日

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本書は「東浩紀による東浩紀入門」としても読むことができる。前述した「多様なテーマ」とは、つまりは東が過去に取り組んできた仕事の集積であり、それを「観光客」というパースペクティブから再構成し、そこに新しいアイデアを加えてできたのが本書ということになるだろう。これまで東浩紀の最初の一冊は『動物化するポストモダン』か『弱いつながり』あたりだったのかもしれないが、これからは間違いなく本書となるはずだ。入門したところから一気に最前線まで連れていってくれるのだから贅沢なものである。

juckenさんのレビュー

著者:東浩紀(あずま・ひろき)さん

1971年東京生まれ。批評家・作家。ゲンロン代表。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。専門は哲学、表象文化論、情報社会論。著書に『存在論的、郵便的』(サントリー学芸賞思想・歴史部門)、『動物化するポストモダン』、『クォンタム・ファミリーズ』(第23回三島由紀夫賞受賞作)、『一般意志2.0』、『弱いつながり』(紀伊國屋じんぶん大賞2015受賞作)ほか多数。『ゲンロン0 観光客の哲学』は第5回ブクログ大賞人文書部門受賞作。

東浩紀さんのおすすめランキング

参考リンク

[2017年9月20日]「観光客」と「家族」を繋ぐはずだった「書かれざる章」とは―東浩紀さん『ゲンロン0 観光客の哲学』ブクログ大賞受賞インタビュー前編

[2017年9月21日]『ゲンロン0』とは「大きな間違い」?―東浩紀さん『ゲンロン0 観光客の哲学』ブクログ大賞受賞インタビュー中編

[2017年9月22日]潰れかけた時に奮起できた「郵便的コミュニケーション」―東浩紀さん『ゲンロン0 観光客の哲学』ブクログ大賞受賞インタビュー後編

[2017年8月28日]第5回ブクログ大賞発表!恩田陸『蜜蜂と遠雷』、星野源『いのちの車窓から』ほか全7作品!

第5回ブクログ大賞発表はこちら

自然科学部門 千葉聡さん『歌うカタツムリ』(岩波書店)

生物進化の研究において重要な争点となった、カタツムリ。さまざまな学者たちが論争を重ねてきた。研究の進展を紹介しながらカタツムリの進化を重ねて描き、あたかもカタツムリの姿のような、螺旋状の歴史絵巻が織り上げられる一冊。受賞作のタイトルは、ハワイの住民たちが「カタツムリが歌う」と信じていたことに由来。

素人目にはカタツムリの研究なんて、なんと地味なことかと思うが、本書はカタツムリを通して生物進化の仕組みや生物進化論の歴史を語る。
進化とは、偶然と環境適応(自然選択)が綾なすもの。適者生存などとは言うが、偶然や自らが背負ってきたものからは逃れることはできない。進化論自体も、この両論をグルグルと回ってきたのだという。
カタツムリの螺旋とうまく掛け合わせて、読み物としても面白い。

masaさんのレビュー

著者:千葉聡(ちば・さとし)さん

東北大学東北アジア研究センター教授、東北大学大学院生命科学研究科教授(兼任)。1960年生まれ。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。静岡大学助手、東北大学准教授などを経て現職。専門は進化生物学と生態学。大学院修士課程でカタマイマイに出会い、小笠原諸島を出発点に、北はシベリア、南はニュージーランドまで、世界中のカタツムリを相手に研究を進める。

同姓同名の歌人がいらっしゃいますので注意が必要です。歌人の千葉聡さんのツイートを引用します。

進化論研究者千葉聡さんの代表的な著作は、こちらです。

参考リンク

東北大学 研究者紹介「千葉聡」

企画部門 田川建三さん訳著『新約聖書 訳と註 全7巻(全8冊)』(作品社)

これまで『新約聖書』はさまざまな翻訳が発行されており、近づきやすい書でもあります。スタンダードな「新共同訳」はカトリック・プロテスタントの共同作業による訳出です。ただし田川建三さんによれば、新共同訳はキリスト者たちによる翻訳であることから翻訳に護教的な解釈が入り込んでしまうこと、そして訳註がついていないことが欠点とされています。その欠点を補うために田川さんは翻訳に取り組み、本書が生まれました。

翻訳部分より、その名の通り「訳と註」が大部分を占める874ページの分厚い一冊である。これまでギリシア語に堪能な方以外は、日本人では(本物の)聖書を読まれた方は極僅かであった。それがやっと原義そのままに、いかなる妄想も思惑も含まず読めるのである。

ポォ★さんのレビュー

訳著者:田川建三(たがわ・けんぞう)さん

1935年東京生まれ。新約聖書学者。ゲッティンゲン大学、ザイール国立大学、ストラスブール大学、大阪女子大学などを経て、大阪女子大学名誉教授。主な著作に、『書物としての新約聖書』『イエスという男 逆説的反抗者の生と死』など。

田川建三さんのおすすめランキング

参考リンク

個人ページ「田川建三からのお知らせ」

特別賞 前野ウルド浩太郎さん『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社)

バッタ研究者だった前野さんは、研究のため単身、モーリタニアへと旅立った。それが、修羅への道とも知らずに……。バッタだけでなく、研究、そして人生との格闘が始まった。モーリタニアで経験した一部始終が記されています。

一人のバッタ博士がアフリカでバッタと、いや人生と格闘する話。本屋で偶然手に取り読んだ本だが、結果的に2017年上半期一番面白い本となった。新書にしては厚めだが、文章・言い回しが面白く、飽きずに笑いながらスイスイ読める。スイスイ読んでるうちに、サバクトビバッタの生態からモーリタニアの生活・文化、はたまた研究者の苦悩から東北弁の雑学まで、様々ものを垣間見ることができた。
それだけで十分面白いのだが本書の魅力はそれだけではない。筆者はモーリタニア赴任後、いくつもの困難・苦難にぶつかるが、工夫と努力と忍耐をもってして、また多くの人との出会いと助けを得ることで、それらを乗り越えて成長していく。その姿に感動するし勇気を貰える。

sho012bさんのレビュー

著者:前野ウルド浩太郎(まえの・うるど・こうたろう)さん

1980年秋田県生まれ。弘前大学卒、神戸大学大学院自然科学研究科博士課程修了、京都大学白眉センター特定助教を経て、国立研究開発法人国際農林水産業研究センター研究員。モーリタニアでの研究活動と意欲が認められ、現地では最高の敬意が込められているミドルネーム「ウルド」(~の子孫の意)を授かり、通名・研究者名にする。「研究のことを世に知ってもらう宣伝活動と研究活動の2軸を柱にバランスを考え」活動中。主な著書に『孤独なバッタが群れるとき――サバクトビバッタの相変異と大発生』。

前野ウルド浩太郎さんのおすすめランキング

参考リンク

前野ウルド浩太郎さんTwitter

前野ウルド浩太郎さん公式ブログ「砂漠のリアルムシキング」

PRESIDENT Online「前野ウルド浩太郎」記事一覧


第71回毎日出版文化賞の贈呈式は、11月30日13:30「ホテル椿山荘東京」で行われるとのことです。

しかし、前野ウルド浩太郎さんはブログによると長期海外研究に出かけているそうですが、贈呈式に参加できるのでしょうか?