【おくやみ】 ル=グウィンさん逝去 代表作『ゲド戦記』

ル=グウィン逝去

1月22日、『ゲド戦記』シリーズや『闇の左手』で知られる作家、アーシュラ・クローバー・ル=グウィン(Ursula Kroeber Le Guin)さんが亡くなりました。88歳でした。ご冥福をお祈りします。

毎日新聞「訃報 ル・グウィンさん88歳=「ゲド戦記」の米作家」(2018年1月24日)
The New York Times “Ursula K. Le Guin, Acclaimed for Her Fantasy Fiction, Is Dead at 88″(2018年1月23日)

経歴:アーシュラ・クローバー・ル=グウィン(Ursula K. Le Guin)さん 1929年10月21日-2018年1月22日)

ル・グィン、ル=グインとも表記される。1929年、アメリカのカリフォルニア州バークレー生まれ。文化人類学者の父と、作家の母の間に生まれる。ラドクリフ・カレッジ(1999年ハーバード大に吸収されている女子大学)に進学し、フランス・イタリアのルネサンス文学を専攻。コロンビア大学に進学したのち、修士号取得。1953年にはフルブライト奨学生としてパリに留学しフランスに渡り、そこで歴史学者のチャールズ・A・ル=グウィン(Charles Le Guin)と知り合い、結婚。帰国後はポートランドに住む。

1958年頃から著作活動を始め、1962年短編「四月は巴里」で作家としてデビュー。1969年の長編『闇の左手』で、SF・ファンタジーを対象とした権威ある両賞、ヒューゴー賞とネビュラ賞を同時受賞。1974年『所有せざる人々』でもヒューゴー賞とネビュラ賞を同時受賞。通算で、ヒューゴー賞は5度、ネビュラ賞は6度受賞しています。また同じくSF・ファンタジー小説を対象とするローカス賞も19回受賞。ほか、ボストン・グローブ=ホーン・ブック賞、ニューベリー・オナー・ブック賞、全米図書賞児童文学部門、Lewis Carroll Shelf Awardフェニックス賞・オナー賞、世界幻想文学大賞なども受賞しています。

日本ではル・グィン、ル=グインとも表記されることもあるため、本を著者名検索するときはご注意ください。

代表作1:『闇の左手』

ヒューゴー賞、ネビュラ賞を同時受賞した『闇の左手』が代表作とされています。

宇宙連合エクーメンと、その植民地、両性具有の住人たちが住まう辺境惑星「冬」との交流を描く作。ル=グウィンさんの学術的素養がにじみ出るサイエンス・フィクションで、人類学・民族学など諸学問の知見が活かされています。フェミニズムSFの代表作として位置づけられることもありました。

代表作2:『ゲド戦記』シリーズ

日本で一般に知られているのは、映画化もされた『ゲド戦記』シリーズです。ただし原題は “Earthsea”(アースシー)。太古の言葉が魔力を発揮する多島海である、物語舞台の名前がタイトルになっています。戦争がメインテーマのシリーズではなく、多様なテーマを含み、様々な解釈を許す作品と言えるでしょう。

清水真砂子さんによる一連の翻訳が岩波書店から発売されています。『影との戦い』をはじめ、『こわれた腕輪』『さいはての島へ』『帰還』『アースシーの風』『ドラゴンフライ アースシーの五つの物語』(『ゲド戦記外伝』)という6作がシリーズに含まれます。入手しやすいのはソフトカバー版ですが、他にも岩波少年文庫版、ハードカバー版、物語コレクション版という全4形態で発売されています。

2006年には『さいはての島へ』を原作に、『ゲド戦記』が映画化されました。宮崎駿さんの息子である宮崎吾朗さんが監督・脚本(スタジオジブリ制作)。ただし映画版は『シュナの旅』を原案に入れていてオリジナルストーリーの要素が強く、ル=グウィンさんが違和を自らのサイト(Ursula Le Guin’s homepage “Gedo Senki”)で表明する事態になりました。しかしながら『ゲド戦記』が日本で更に広く読まれるきっかけの一つになったことは確かでしょう。

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ブエナ ビスタ ホーム エンターテイメント

発売日 : 2012年5月26日

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入門書として:『夜の言葉』

なお、一冊目に読む入門書としては、ファンタジーとSFをテーマにしたエッセイ集、『夜の言葉』がお薦めです。ル=グウィンさんの書く姿勢なども分かり、これを読んで実際の著作にあたれば理解がたいへん容易なものになります。

これからもル=グウィンさんの著作が多くの人に読まれることを願ってやみません。

参考リンク

ル=グウィンさん公式ホームページ”Ursula Le Guin’s homepage”
ル=グウィンさん公式Twitter