【故・小林カツ代さん生誕80年】初めて作る味噌汁は大失敗作だった─カツ代さんの来歴を『私が死んでもレシピは残る 小林カツ代伝』から辿る

小林カツ代さん生誕80年

こんにちは、ブクログ編集部です。

10月24日は、料理研究家小林カツ代さんの誕生日。ことし2017年は、小林カツ代さんの生誕80周年にあたります。みなさん、料理をされるかたであれば、そのレシピを一度は目にしたことがあるのではないかと思われます。

しかし小林カツ代さんが一線を引いてから約10年、そしてお亡くなりになってから3年が経ちました。彼女がどんな方だったか、どうして有名になったのか、詳しく知らないかたも増えてきたのではないでしょうか。

今年1月に、中原一歩さんが記した評伝『私が死んでもレシピは残る 小林カツ代伝』が発売されました。今回の「ブクログ通信」は小林カツ代さんの生誕80年を記念して、評伝の内容を紹介しながら偉大な料理研究家の来歴を紹介いたします。

小林カツ代(こばやし・かつよ)さん(1937年10月24日 – 2014年1月23日)

1937年10月24日、大阪府生まれ。結婚を機に料理に取り組み、それがいかに大変な家事なのかを思い知り、料理にのめりこんでいきます。結果母の味をもとにした、家庭料理のプロとして独自のスタイルを確立しました(ただし、料理のプロとして「主婦」という肩書きを避けていました)。1980~90年、時短料理を通じて料理研究家として知られるようになります。

専業主婦が当たり前だった時代から、女性の社会進出とともに夫婦共働きが主流になる90年代という、時代背景の変化がカツ代さんの活躍の場を広げました。そして1994年、「料理の鉄人」で料理研究家として鉄人・陳建一さんに勝利。この勝利は「肉じゃが」によるもので、彼女の代表料理となっていきます。またこのテレビ出演以降さらに引き合いが増えるなかで、「家庭料理の思想」をさまざまなメディアで語る機会が増えていくことになりました。

しかし2005年6月17日にくも膜下出血を発症しスタジオで倒れ、入院。もともと高血圧の持病を抱えていたそうです。闘病を続けていましたが、意識が完全に戻ることはなく、2014年1月23日逝去。76歳でした。

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評伝:『私が死んでもレシピは残る 小林カツ代伝』

この評伝にはたくさんの魅力的なエピソードが記されていますが、カツ代さんが新婚生活を始めた初日の大事件がとても印象的なのでご紹介します。

なんと、朝ごはんの味噌汁を作ろうとして、「水に味噌を入れて火にかけ」「塩わかめを適当に切って、鍋に放り込んで火にかけた」のです(p.138)。わかめに塩抜きをしないでそんなことをすれば、膨張して大変なことになってしまいます。出汁をとっていないのであれば、味も絶望的なものになったことでしょう。当時の夫いわく、「あのマズい味噌汁に衝撃を受け、耐えられなかったのは私ではなくカツ代本人でした」(p.245)。カツ代さんは母に電話して、その教えの通り作ると、見違えるようにおいしい味噌汁ができあがりました。それ以来、カツ代さんは料理に大変な興味を持ったのだそうです。

結婚して九年目、毎日放送のある番組を見て意見投稿をします。芸能人のつまらない話題ばかり、なぜ料理を取り上げないのか。その投稿が元で、番組女性ディレクターから返事が来てテレビ出演。その番組の反響がすこぶるよく、「お料理大作戦」という新番組に抜擢され、料理研究家として世に知られはじめたのでした。

料理雑誌のデビューは1974年の『栄養と料理』7月号、「らくらくらっきょうづけ」という、「らっきょうづけ」だったそうです。塩漬けしないよう工程を省いた料理だったそうで、このときすでに「時短料理」で活躍する片鱗があったのかもしれませんね。それから料理教室を開いたことから評判になって、1980年にはNHK「きょうの料理」の講師に抜擢されます。こうして「料理研究家・小林カツ代」の名は全国区となり、大人気となっていくのでした。

以上のように、『私が死んでもレシピは残る 小林カツ代伝』には、多くのエピソードが描かれています。「料理の鉄人」に出演したときの逸話から始まり、小林カツ代さんにとっての家庭料理とは何かを示したのち、カツ代さんの来歴と料理に開眼して著名人になるまでの軌跡を、関係者の証言やその時々のレシピをもとに鮮明に描き出しているのです。

この評伝は、カツ代さんの来歴だけでなく、文化人としての活動についても言及しています。そしてカツ代さんがスタジオで倒れて以降に生じた家族の苦しみについても。

ただカツ代さんが残した多くのレシピは今なお残り、街中の多くの書店や図書館にレシピ本が並び、各家庭に受け入れられています。評伝著者が言及しているように、レシピは次世代にも継承されているのです。興味をもたれたかたはぜひとも珠玉のレシピを手にとって、料理に取り組んでみてはいかがでしょうか。

まだカツ代さんのレシピ本を一冊も持っていないというかたは、今年行われた「第4回 料理レシピ本大賞」料理部門入賞作、『小林カツ代の永久不滅レシピ101』を最初の一冊におすすめします。

生誕80年を機に、小林カツ代さんの仕事がもっと世に広まればと願ってやみません。

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