石牟礼道子さん逝去─代表作『苦海浄土』で水俣病問題を世に広く伝えた作家

2月10日、『苦海浄土』で知られる作家、石牟礼道子さんがパーキンソン病による急性増悪のため亡くなりました。90歳でした。ご冥福をお祈りします。

毎日新聞「訃報 作家の石牟礼道子さん死去 90歳 『苦海浄土』」(2018年2月10日)

経歴:石牟礼道子(いしむれ・みちこ)さん 1927年3月11日-2018年2月10日)

熊本県、天草の宮野河内(現河浦町)で生まれる。母の実家は石工棟梁・回船業も営んでおり、父はそこで帳付けを勤めていた。祖父の事業が破産してから、小学二年の時に天草から水俣の北はずれに移住。優秀な学業成績から、三年制の実務学校(現水俣高校)に進学。ここで短歌を学んだ。卒業して教員養成所に入り、16歳で小学校の代用教員となって、詩と短歌を続ける。1947年に小学校を退職し、結婚。

その後若い労働組合員や詩人・谷川雁と知り合ってから、水俣病の患者の聞き書が始まる。1969年『苦海浄土』を刊行(熊日文学賞、大宅壮一ノンフィクション賞が与えられたが患者の苦患を語る本で賞を受けないと辞退)。水俣病の惨苦を世に広く伝えるだけでなく、「水俣病を告発する会」を渡辺京二さんらと結成して多くの患者とその運動に寄り添い、水俣病訴訟の勝訴に貢献。晩年はパーキンソン病を患って長編作を控えたが、旺盛な執筆意欲は衰えず、数々の作品を記していた。

1973年、マグサイサイ賞受賞。1993年、『十六夜橋』で紫式部文学賞受賞。2002年、朝日賞受賞。同年新作能「不知火」を発表。2003年、『はにかみの国―石牟礼道子全詩集』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。

2004年から『石牟礼道子全集 不知火』を刊行、そこで『苦海浄土』の改稿と書き下ろしを加え、第二部・第三部を完結させる。池澤さんが個人編集した『世界文学全集』にも、日本人作家唯一の長編として収められた。

代表作:『苦海浄土』

石牟礼道子さん『苦海浄土』
石牟礼道子さん『苦海浄土』

石牟礼さんが最初に刊行した作品であるだけでなく、今なお常に取り上げられ評価されている、日本現代文学の名著。今後も「古典」となって語り継がれるであろう不朽の業績です。

言葉すら発することができなくなった患者たちの「声なき声」を示し、その魂を引き受けたかのごとく続く文章。水俣の不知火海と水俣病を通じて、人間、魂、世界への問いを発するところまで迫った一作。水俣病が全国に知られるきっかけを作っただけでなく、その後の運動や、水俣病訴訟にも大きな影響を及ぼしました。NHK「100分de名著」も、若松英輔さん解説で2016年9月期に取り上げています。

なお手に取りやすい講談社文庫版が最もお薦めですが、第二部・第三部が収録された『世界文学全集』版も充実しています。

石牟礼道子さん『苦海浄土』
石牟礼道子さん『苦海浄土』

石牟礼道子さんのおすすめランキング

なお石牟礼さんの思想・文学にふれるための最初の一冊としては、先日読売文学賞を受賞した米本浩二さん『評伝 石牟礼道子: 渚に立つひと』が優れています。

2018年10月以降には、京都・東京で新作能「沖宮」が上演決定しています。衣装監修として人間国宝・志村ふくみさんが関わっています(朝日新聞「石牟礼道子さん残した能、今秋上演 天草が舞台『沖宮』」、2018年2月13日)。これからも多くの作品が言及されていくに違いありません。

多くの人に石牟礼さんの業績が伝わることを願ってやみません。

参考リンク

熊本県教育委員会「石牟礼道子」