作家・橋本治さん逝去―『桃尻娘』をはじめ、代表作を偲ぶ

作家、橋本治さん逝去 小説『桃尻娘』から『男の編み物』まで

さる1月29日、小説から批評・評論まで、幅広いジャンルで活動した作家の橋本治さんが肺炎のため逝去。70歳でした。ご冥福をお祈りします。

読売新聞「小説『桃尻娘』作家・橋本治さん死去…70歳」(2019年1月30日)

経歴:橋本治(1948年3月25日 – 2019年1月29日)

1948年、東京生まれ。東京大学文学部国文学科卒業。東大闘争中、駒場祭で作成したポスターのコピー「とめてくれるな おっかさん 背中のいちょうが泣いている 男東大どこへ行く」が話題となり注目を集める。イラストレーターを経て、1977年に小説『桃尻娘』を発表、以後文筆業を中心とする。同作は第29回小説現代新人賞佳作となり、映画・ドラマ化もされた。1996年『宗教なんかこわくない!』にて第9回新潮学芸賞、2002年『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』にて第1回小林秀雄賞、2005年『蝶のゆくえ』にて第18回柴田錬三郎賞、2008年『双調 平家物語』にて第62回毎日出版文化賞、2018年『草薙の剣』で第71回野間文芸賞をそれぞれ受賞。

編み物にも通じており、1989年『男の編み物(ニット)、橋本治の手トリ足トリ』を刊行。自身の編んだセーターを着てCMに出演したこともあり、オールラウンドに活躍を続けていた。

橋本治さんの作品一覧

橋本治さん代表作その1 第29回小説現代新人賞佳作、『桃尻娘』

1977年に刊行された、小説家としてのデビュー作です。現在紙の本で入手しやすいのは、ポプラ文庫版です。Kindleであれば講談社文庫版が入手できます。

女子高生の赤裸々な欲望と青春を描き、超口語体を生かした作品として大変な注目を集めました。この口語体をもとに、異色の古典現代語訳『桃尻語訳 枕草子』をはじめ、多くのシリーズが作られています。橋本治さんの出発点にして、その後の活躍を追うための資料ともいえるでしょう。

なお1978年、にっかつにより映画化。1980年までに続編が公開され、全三作の映画となりました。同作内で橋本治さんが喫茶店店員役で特別出演していることも、遊び心を感じます。1986年にはフジテレビでテレビドラマも放送されました。

橋本治さん代表作その2 第71回野間文芸賞受賞作、大佛次郎賞受賞作『草薙の剣』

2018年刊行、作家デビュー40周年記念作品の位置づけを与えられた作品です。

橋本治さん『草薙の剣
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62歳から12歳まで、10歳ずつ年の違う6人の男たちを主人公に、その父母や祖父母まで遡るそれぞれの人生を描きます。戦時中から、戦後の高度経済成長、オイルショック、昭和の終焉、バブル崩壊、そして現代の大震災にポケモンGoに至るまで、昭和から平成に至るまでの日本人の軌跡を辿ります。

第71回野間文芸賞を受賞。橋本治さんの受賞の言葉によれば(体調不良のため授賞式は欠席)、それ以前に書いた『巡礼』『橋』『リア家の人々』の上に立つ作品であり、複数の個人がバラバラに生きている時代を物語として捉えなおすことを目指したそう。二年半の時間をかけ、「賞にふさわしい作品が書けた」と述懐されていました。

橋本治さん代表作その3 『「わからない」という方法』

橋本治さんは多くの啓蒙書を執筆しており、その中でも話題となったのが2001年刊行、『「わからない」という方法』です。

橋本治さん『「わからない」という方法 (集英社新書)
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小説から編み物の本、古典の現代語訳から劇作・演出まで、あらゆるジャンルで活躍した著者は「なぜあなたはそんなにもいろんなことに手をだすのか?」という問いに、「だってわからないから」と答えるのです。では「わからない」、という状態はどういうことなのか。「自分は、どう、わからないか」。そして「わかる、とは、どういうことなのか」。「わからない」状態を方法化し、次の知識に進むためのスタート地点、あるいは助走台と考える橋本さんの視点は、多くの人々に示唆を与えました。今なお読まれ続けている作品です。


なお橋本さんは2月5日に新刊の刊行予定があります。時代を注視しつつ活躍を続けてきた橋本さんによる時評集。日本も世界も「思いつき」で進んではいないか、という問題意識によって、「アナと雪の女王」からトランプ大統領までを縦横無尽に語る一冊です。

今後も、橋本治さんの作品が様々なかたちで読まれることを願ってやみません。

参考リンク

橋本治「人が死ぬこと」(『webちくま』橋本治さん連載「遠い地平、低い視点」から)