世界騒然のベストセラー、『炎と怒り トランプ政権の内幕』発売!

トランプ暴露本『炎と怒り』概要紹介

今年1月にアメリカで発売され、大ベストセラーになっていたトランプ大統領の暴露本、”Fire and Fury : Inside the Trump White House”の翻訳版が『炎と怒り トランプ政権の内幕』という邦題で、早川書房から2月23日発売されました。その概要をご紹介します。

マイケル・ウォルフ『トランプ政権の内幕』(早川書房)
マイケル・ウォルフ『トランプ政権の内幕』(早川書房)

著者のマイケル・ウォルフさんはフリーのジャーナリスト・ライターで、USAトゥデイ紙やガーディアン紙に寄稿するほか、メディア王ルパート・マードックの評伝や、邦訳もされた『回転資金(バーンレート)』などの著作があります。2002年および2004年には全米雑誌賞を受賞。その彼が、スティーブ・バノン前首席戦略官・上級顧問をはじめ関係者200人以上へ取材を続け、トランプ政権の内情、関係者の困惑や本音を描き出したのが 『炎と怒り トランプ政権の内幕』です。

驚きの事実を明るみにした『炎と怒り』

マイケル・ウォルフ『炎と怒り』帯付書影
マイケル・ウォルフ『炎と怒り』帯付書影

当初、著者はトランプ政権の最初の100日間についての記録を考えていたそうですが、200日以上もの間続いた様々な出来事のために、結果的に1年半という長期の取材になったそう。以前からトランプ大統領に取材していた内容と、関係者インタビューを合わせて本書を執筆しました。

『炎と怒り』は、驚きの事実を次々と明るみにしていきました。既に多くのニュースなどが報じているように、ドナルド・トランプ大統領は当時、大統領選で勝つとは思っていなかった─というのが一番の驚きかもしれません。選挙が終わる頃には自らのブランド価値が高まり、世界で最も有名な男になる、とトランプ大統領は考えていた。なるわけがない、と。

結果として、大統領選当日の晩。

トランプ・ジュニアが友人に語ったところでは、DJT(ジュニアは父親をそう呼んでいた)は幽霊を見たような顔をしていたという。トランプから敗北を固く約束されていたメラニアは涙していた─もちろん、うれし涙などではなかった。(中略)勝利が確定するまでの一時間あまり、スティーヴ・バノンは少なからず愉快な気持ちで、トランプの様子が七変化するのを観察していた。混乱したトランプから呆然としたトランプへ、さらに恐怖にかられたトランプへ。そして最後にもう一度、変化が待ち受けていた。突如としてドナルド・トランプは、自分が合衆国大統領にふさわしい器でその任務を完璧に遂行しうる能力の持ち主だ、と信じるようになったのである。

『炎と怒り』早川書房翻訳版 p.43から引用

この驚きの事実はまだまだ序の口です。トランプ大統領に対する関係者や著名人の態度や発言、そして政治について未経験だった政権担当者たちの右往左往、さらには重大な政策決定がいかにお粗末なプロセスで進められてきたか、などなど読者をあっけに取るような内容が続きます。

更には、トランプ大統領の理不尽な怒りなども。本書のタイトル『炎と怒り』は、2017年にトランプ大統領が北朝鮮を威嚇したときの、「彼ら(北朝鮮)は、世界が見たことのない炎と怒りに直面することだろう」(They will be met with the fire and the fury like the world has never seen)というコメントと(この表現そのものは『旧約聖書』の「イザヤ書」の66章15節に由来)、気に入らないことはすぐ誰かのせいにして「怒り」(Fury)、「クビ」(Fire)にする態度にあるそうです。

概要については既に多くのメディアで紹介されていますが、ぜひ一度、驚きの内容を手にとってご覧ください。

出版の反応と、翻訳の経緯

本書が発売されることに対してトランプ大統領が暴露本の発売差し止めを求めたことで、出版元のヘンリー・ホルト社は9日に予定していた発売を5日に繰り上げました。このニュースが暴露本の大きな宣伝になったことで、発売3週間で170万部の売上にまで達したそう。取材に全面協力したとされるスティーブン・バノン氏に対して、トランプ大統領が「正気を失った」と批判、両者の応酬なども大きな話題になりました。BBCのインタビューに対して、ウォルフさんは「この本でトランプ政権は終わるだろう」と答えています。その答えが現実になるかどうか、判断するにはまだ早すぎるかもしれません。

早川書房から発売された翻訳版、巻末解説についてはジャーナリストの池上彰さんが執筆しています。なお『日経MJ』の2018年2月23日号「ハヤカワのミステリー」特集に、『炎と怒り』翻訳の経緯が報道されていました。その経緯をご紹介します。

その記事によれば、翻訳エージェントから早川書房に翻訳販売権利の購入案内がきたのが1月5日。その日のうちにチャットで編集担当希望者が募られたとのこと。5~6時間かけて担当者が原書を読み、すぐに販売権利の購入に立候補。6日には返事を出したそう。

「話題になっているから値段がつり上がらないよう、こういう本は早く出した方がいいとエージェントをせかした」そうで、交渉がまとまったのはなんと1月11日。11日の夜に翻訳会社に発注し、報酬を上積みして「1月中に訳してほしい」と押し通し、プロモーション準備を平行。通常、4ヶ月かかる工程を1ヶ月半で仕上げてしまったとのことでした。

早川書房の凄さについては、すでに「ノーベル賞受賞の舞台裏!一瞬で枯れた在庫!?早川書房で起きた大騒動に迫る!カズオ・イシグロ担当編集者山口晶さんインタビュー前編」「あらかじめノーベル賞を狙っていたのか?早川書房の出版戦略を聞く カズオ・イシグロ担当編集者山口晶さんインタビュー後編」でもインタビューしていましたが、今回のトランプ本出版に際しても、凄まじい経緯があったのですね。

みなさん、興味のあるかたはぜひ『炎と怒り トランプ政権の内幕』を読んでみてくださいね。

参考リンク

大原ケイさんnote「トランプ暴露本『炎と怒り』を一気に読んで憔悴しきっている」(2018年1月7日)