【おくやみ】強制収容所から生き延びたイスラエル作家、アハロン・アッペルフェルドさん逝去

ショアーの生存者 ショアー・ホロコーストの生存者 アハロン・アッペルフェルド 逝去

2018年1月4日、ホロコーストを生き延びたイスラエルの現代作家、アハロン・アッペルフェルドさんが亡くなったことをフランスのLe Monde紙が報じました。享年85歳でした。ご冥福をお祈りします。

Décès de l’écrivain israélien Aharon Appelfeld, survivant de la Shoah(le Monde, 04.01.2018 à 09h14)

アハロン・アッペルフェルド(Aharon Appelfeld)さん(1932年1月16日 – 2018年1月4日)

ウクライナ西部のチェルノヴィッツ、ドイツ人に同化したユダヤ人家庭生まれ。1940年、ナチス・ドイツのホロコーストにより母が殺され、父とともにゲットーに移住させられトランスニスタリア強制収容所に送られます。その父からも引き離され、1942年に収容所から逃亡。ウクライナの盗賊たちのもとで3年間潜伏生活を送り、ソビエト連邦の軍隊に拾われて9ヶ月ウェイター業を努めました。第二次世界大戦後はイタリアに難民として移住したのちに、1946年イギリス委任統治領のパレスチナへ移住、1952年ヘブライ大学で学びます。1957年、生存していた父親をイスラエルで発見。1979年から退職するまでの間、イスラエル南部のベン・グリオン大学の教授を務め、死の数ヶ月前にも小説を出版していました。フィリップ・ロスの友人でもあります。

1964年に最初の著作を発行して以来、小説・詩など40作以上の著作を記しました。1983年にイスラエル最高の栄誉賞であるイスラエル賞、2004年にヘブライ語からフランス語に翻訳された”Histoire d’une vie”( סיפור חיים )にてメディシス賞外国小説部門受賞。1996年に来日もしています。

アハロン・アッペルフェルドさん翻訳書

みすず書房から翻訳が2種類発売されています。

ヒトラーの進行を間近にした1939年、ウィーン近郊のバーデンハイムなる架空の町。そこに住まう同化ユダヤ人たちが、行動を制限され、ポーランドへの強制移住のための列車に乗せられていくプロセスが淡々と描かれる作。アハロン・アッペルフェルドさんは本作以外にも、ホロコーストを声高に叫ぶような仕方ではなく、人々のざわついていく様子や、暗澹とした雰囲気、それらが生成されていく過程を描くことが多いです。

ナチスによるユダヤ人迫害を書いた本はいろいろありますが、この小説はその中でも異色の作品です。舞台はウィーンに近い架空の保養地バーデンハイム。この町のユダヤ人たちが、じわじわと行動を規制されていき、最後に強制移送される様子が描かれているのですが、当のユダヤ人たちは自分たちの身に何が起こっているのか全く気づかないのです。正しい情報をえるすべもなく、何が何だかよくわからない状態のまま、ナチスの手におちていくユダヤ人たちの様子が、淡々と描かれているがゆえにおそろしくリアルで、読み終わったあとで彼らのその後の運命を思うと、背筋に寒気が走ります。ユダヤ人迫害についてだけではなく、国家による情報操作の恐ろしさをひしひしと感じる作品です。

放浪猫さんのレビュー

 

幼い頃に収容所から生き延びることができた50歳のユダヤ人バートフス。イタリアから船でイスラエルに戻って生活を続けていますが、幼時からの肉親は既にだれもいません。バートフスは、宝物として母の写真、父のパスポート写真、小さな妹の写真を宝物としてしまい続けています。妻と子どもがいても没交渉で、バートフスは理解されないまま。ホロコーストを生き延びた一人のユダヤ人のありようが、淡々と描かれる作品です。

残念ながら1996年に発行された2冊のみで翻訳は止まっていますが、ノーベル賞候補としても名前の挙がったこともあるアハロン・アッペルフェルドさんが日本で再評価されるときを待ちたいと思います。ご冥福をお祈りします。

参考リンク

みすず書房 アハロン・アッペルフェルド