高殿円『政略結婚』インタビュー!ある日、タイトルは作家のもとに降ってきた――。古い形の結婚に学ぶ、新しくしなやかな生き方とは?

『本の旅人』7月号インタビューより抜粋 取材・文/杉田裕路子 撮影/沖本 明

三人のヒロイン それぞれの結婚と人生

―今作は、幕末から明治、明治から大正、大正から昭和と、それぞれの時代を生きた三人の“おひいさま”を主人公にした三部作で構成されています。「第一章 てんさいの君」に登場する、加賀大聖寺藩の勇姫は実在の人物ですよね。なぜ勇姫を主人公に据えられたのでしょうか。

高殿 物語のラストで明治維新という時代の変わり目を迎えたかったので、幕末に生まれ、長生きされた勇姫を選びました。あの時代の人々はみな、短命でいらしたので、長生きして藩の情勢を長く見守った方、という視点が物語を描く上で重要でした。また、大聖寺藩の資料はほとんどなかったのですが、加賀藩には藩の財政や暮らしぶりを伝える資料が残っていて、加賀藩に準ずる形で参考にできる資料が多かったことも大きな理由です。

―勇姫はのんびりとした性格で、生後半年から決まっていた嫁ぎ先である前田利之の次男、利極のもとに嫁ぎます。なかなか子をなせないけれど、旦那さまはやさしい方で二人の生活は幸せそのもの。しかし夫が早逝してしまったことで、その生活は一変します。幕末という激動の時代を生きたおひいさまですが、あえてあのようにのんびりとした性格にされたのでしょうか。

高殿 あの時代というのは、男女問わず、自分で選ぶことよりも受け入れることのほうが圧倒的に多かったんじゃないかなと思います。例えば、子どもができないとか、旦那さまが早く死んじゃったとか。現代では考えられないほど、子どもの死亡率が高かった時代ですし、平均寿命も短かった。そんな過酷な時代にうまく生きていくためには、出来事をいかに受け入れていくかが大切だったのでは、と思ったんです。

―「第二章 プリンセス・クタニ」の主人公・万里子は、幼少期を過ごしたカナダから江戸時代の風習が色濃く残る明治期の日本へ帰国しました。彼女は、現代女性がタイムスリップしたかのような感性を持っている人物ですよね。伝統に縛られず、自分の考えに基づいて自発的に行動する姿は読んでいて爽快でした。

高殿 第一章が時代の流れを淡々と受け入れる主人公のお話だったので、第二章はもっと気持ちよく読み進めてもらえるものを、と思って、現代的な人物設定にしました。万里子は海外育ちの感性と持ち前の行動力で、九谷焼を海外に広める一端を担うのですが、よく考えるとNHKの朝ドラのようなお話でもありますね。

―「第三章 華族女優」の主人公・花音子は芸術一家の伯爵令嬢。しかし、五歳のときに昭和の金融恐慌で家が破産して、学習院に通いながら、新宿にあるレビュー劇場の舞台に立ちはじめます。幼少期の境遇がほかの二人とはまったく異なり、マイナスからのスタートを切っていますよね。

高殿 彼女は昭和恐慌当時、物心ついていなかったから、まだよかったんです。華族としての意識が芽生える前だったので、一族が没落しても、自分が置かれている状況をどこか冷めた目で見ている。プライドや地位に縛られていないからこそ、やりたいことに邁進できる境遇でもあった。一方で、公家の娘として生まれ、華族としての誇りを持っていた花音子の母親にとっては、辛い時代だったと思います。

いまなお残る “結婚”という“呪い”

―「婚活」という言葉も定着してきた現在、結婚したくてもできないなど、結婚に対する悩みを抱く人も多くいるなか、改めて「結婚とは?」と、考えさらせれるお話でもあると思いました。

高殿 “結婚”にまつわる言葉って、「生涯未婚」「アラフォーで独身」「子なし」などネガティブワードが特に多いですよね。いろいろ変わってはきているんでしょうけれど、たしかにこの国には千年以上にわたって“結婚”にまつわる“呪い”あって、女性はそれからまだ全然自由ではない気がしています。

―確かに三十歳を過ぎて独身であれば、「結婚もせずに遊んで」と言われたり、売れ残り扱いされるなど、いまなお風当たりが強い部分はありますよね。結婚していても出産していなければ「子どもはまだできないの」と言われたり。言う本人たちに悪気がなくとも、言われることでプレッシャーを感じたり、窮屈さを感じたりする。それが“呪い”なのかもしれませんね。

高殿 そうですね。人々の考え方が進歩的に、自由になったとはいえ、まだまだその自由は道半ば。親の決めた結婚であっても幸せになることはできるし、自分で選んでもいいし、結婚を選ばなくてもいいし。お見合い結婚の時代がすべて悪かったかというとそうでもないですよね。ひとつひとつ、「こうあらねばならない」といった細かい呪縛から解けていくように。 “呪い”に振り回されないようになる21世紀であればいいなと思います。

(『本の旅人』7月号インタビューより抜粋)

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著者:高殿円(たかどの・まどか)さんについて


1976年兵庫県生まれ。2000年『マグダミリア 三つの星』で第4回角川学園小説大賞奨励賞を受賞しデビュー。
主な著作に「トッカン」シリーズ、「カーリー」シリーズなど。

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