地球外生命とは、どんな出会いになるのか―小野雅裕さんブクログ大賞受賞記念インタビュー後編

ブクログ大賞受賞、小野雅裕さんインタビュー後編

こんにちは、ブクログ通信です。

『宇宙に命はあるのか』で第6回ブクログ大賞人文・自然科学部門大賞を受賞された小野雅裕さんのインタビュー、後編です。

小野雅裕さんブクログ大賞記念受賞記念インタビュー前編「何十年経っても読まれるものを書きたかった」では、小野さんがどのような意図から『宇宙に命はあるのか』を執筆したかをお伺いしました。後編では、小野さんを中心にたくさんの人が集まるそのコミュニティの成り立ちについてうかがい、さらに小野さんの来歴、取り組んでいた火星ローバー、そして地球外生命についての見解も伺いました。ぜひお楽しみください。

取材・文・撮影/ブクログ通信 編集部 持田泰 大矢靖之

小野雅裕さん『宇宙に命はあるのか 人類が旅した一千億分の八 (SB新書)
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コミュニティからフィードバックを受けながら本を作ったこと

小野さんのイベントは多くの人が詰めかけました
小野さんのイベントには多くの人が詰めかけました

―今回のイベントで面白かったのは宇宙に関わるここ1年分のニュースを総ざらいし、宇宙探索の動向をアップデートされていた点でした。今後また定期的に情報をアップデートするようなイベントは開催されるんでしょうか?

そうですね。それはやると思います。いずれ新書の改訂版を出し、追記する機会があったらいいですね。

―今日のイベントでは、ボランティアの方々の働きが目立っていましたけれど、小野さんの周りにそういう方々がいっぱい集まってイベントが立ち上がっちゃうところも凄いと思いました。

これは本を作る段階でコルクの佐渡島さんから受けたアドバイスが元になっています。彼いわく、コミュニティを作ろうと。本というのは人から人へ読まれていくものだから、まず1万人にインパクトを与えて速攻的にいくのではなくて、まずこの作品を愛してくれる100人からじわじわ広めていくんだ、と。

その通りだなと思ったんです。佐渡島さんがおっしゃる通りに出版前にコミュニティを立ち上げたんですが、ありがたくも沢山の方が加わってくださった。
そして本を出版する前からコミュニティの皆さんに原稿をお渡しして、読書会を開催したんですよ。フィードバックをもらって、その指摘がかなり反映されています。

―あとがきのところに、色々な方のお名前が入ってますね。

そうです、最後のところに名前を列挙しています。今回イベントで手伝ってくださった方々のお名前も入ってますね。アドバイスをくれた方々は、「ここは私のアドバイスが活きたところだな」って分かる箇所があるはずです。だからなのか、みなさん、この本を自分事のように、「私の本だ」という風に思ってくれている感じがありがたいですね。非常に熱心に宣伝もしてくださるし、ブクログ大賞を取ってからTwitterで広めてくださりもするし。だから佐渡島さんのおっしゃったことが正しかったんですね。

―この本はコミュニティ、そしてそこで行われるコミュニケーションの成果でもあるということなのでしょうか。

作り方の面でいえば、そうですね。例えば研究者は論文を書いたあと、同業の読者による査読があります。論文が同業研究者のところに回って、レビューコメントが返って来るんですね。「ここを直せ」「あそこはこうした方がいい」って指摘があり、表現に関してもいっぱいコメントされる訳です。それを何度も何度も修正して出す。だから、いわば読者によって論文が良くなっていくわけですね。

本もそうであっていいと思うんです。ただ本は論文とは違って、ふつう読者に作品について意見をいただく機会は一回きりじゃないですか。でも、そうじゃなくてサイクルがあった方が内容的に良くなりますよね。作家って永遠に読者の支持を外せませんから。

案外こっちの方が本来的な本の作り方なんじゃないのかな、とも思うんです。昔と違って今はネットがあるので、ネットでコミュニティを作って、PDFで送ってやればこういうやり方もできるじゃないですか。

―なるほど。以前は作家にもコミュニティがあって、そこで小説が書かれていました。そういう意味では、本当に本来的と言えば本来的なのかも知れませんね。今日のイベントでは、コミュニティの皆さんが多かったんですか。

今日は新しい人が多かったですよ。新しい方が来てくれたのももちろん嬉しいことですし、いまだに新しい読者が増えているのは嬉しいです。

―学生も多かったですね。

多かったですね。僕の読者は潜在的に学生さんが多いです。熱量が多い文章を書くので、若い人の方が受け取ってもらいやすいんでしょうね。若い方に読んでもらえるのは嬉しいですね。

―宇宙に対する思いが凄く強い方々が集まっているなと思いました。

コミュニティはやっぱり何もしないと死んじゃいますから、熱量を保つ為には何かする必要がありますよね。そのためにイベントを開いていますし、月1でメルマガも刊行しているんです。

―月1とはいえ、大変ですね。そういうコミュニティを維持しながら、交流を踏まえて熱を吐き出して行こうと言う事ですね。

でもメルマガって、僕が記事を1本か2本書きますけれど、後はいろんな人が書いてくれるんですよ。嬉しいですね。やっぱり僕が一方的に発信するだけじゃコミュニティは成長しなくて、色んな人が発信してくれるプラットフォームになった方がいいですから。

―ちなみに、そのコミュニティの名前は?

「宇宙船ピークオッド」って言います。ピークオッドはあの『白鯨』のピークオッド号からとったものです。メルヴィルの『白鯨』を宇宙モノに翻案した物をいつか書こうと思ってるんですよ。30年後くらいに。僕が非常に影響を受けたいくつかの本の一冊です。

小野さんの経歴、専攻、そして今

小野雅裕さん
小野雅裕さん

―小野さんの経歴について詳しくおうかがいしてよろしいでしょうか。大阪生まれ東京育ちと言うことですが……

大阪生まれの理由は、母の実家が大阪で、里帰り出産をしていただけなんです。母方のおじいちゃん、おばあちゃんがずっと大阪にいて、夏休みや小さい頃もずっと大阪にいました。阪神タイガースが好きなのも、そういう事が影響しています。ですから、基本は東京です。そして野球は大阪です!

―そういえば、テンションが凄く関西ですね(笑)

それは母親の影響です(笑)

―開成高校、東京大学、そして一度学問の世界へ赴き、慶應義塾大学の理工学部の教員に。大学での専攻は?

制御工学です。まさに人工知能に絡むんですけれども、物を自動で動かす、「自動化」がテーマで、勿論それは宇宙でも他の分野でも使えるところを扱いました。在籍した研究室は必ずしもメインテーマが宇宙ではなかったですけれど、宇宙も若干やっていましたね。

―宇宙へ行きたい、宇宙に携ろう、そう思う中でご自身で勉強、研究、キャリアを積み重ねて、最後NASAにたどり着いたんですね。

はい。ただ、やっぱり夢っていうのは、なかなかすぐに叶うものでもないんですね。MITに行っても、なかなかすぐには自分の思う通りに向かって進んでいたわけじゃないですから。

―宇宙への夢は、昔から周囲に伝えていたんですか?

そうですね。昔から行きたかったですし。でも途中で心折れた時期もありました。色々ありましたけれども今に、そして著書にも繋がっていますね。1冊目のテーマが「夢」です。そして2冊目のテーマが「イマジネーション」で、これは一種の夢の遍歴ともいえますから。

―今の小野さんの所属はJPLで、先日まで火星探査ローバー「Mars 2020」に関わってらっしゃいました。いまは主にどんな業務に取り組んでいるのでしょうか。

開発・研究ですね。研究開発の主な目的は、宇宙探査機を飛ばすために必要なソフトやアルゴリズムを開発することです。研究面では、未来にどういう技術が必要か予想を立て、その研究をしていくことになります。

―小野さんが宇宙を目指そうと思ったのは、結構早い段階なのですか?

ボイジャー2号が海王星に行った1989年、僕が6歳か7歳の頃ですね。

―宇宙に関わろうと考えたのは、そもそも当初から火星ローバーの研究・開発に関わりたいと思ったのでしょうか。それとも宇宙を目指すなかで、その研究・開発の選択肢として火星ローパーを選択されたのでしょうか。

後者です。89年の段階では、火星ローバーって言うのはなかったんですね。初めて火星ローバーに成功したのは1997年かな。当時「すげえな!」と思いましたけどね。その頃から火星探査の動向に活気が出てきまして、丁度そこに僕が関わるタイミングが生じた。巡り合いですよね。

―慶應義塾大学で教員のお仕事を経て、30歳で今の仕事に関わった?

そうですね。本当はドクター(博士課程)を卒業して、その後すぐにJPLに行く気だったんです。でもその時選考に落ちてしまい、1年間教員を務めました。その間にもう1回選考を受け、合格して移ったんです。これぞ執念、粘り勝ちです!(笑)人生は粘った者が勝つ、という。本も同じで、編集者を粘って押して書いたんですよ。

火星探査ローバー「Mars 2020」

―火星探査ローバー「Mars 2020」ですが……火星上で動き、すぐには修理できない車を作っていたということは、今まで制御工学を専攻されていても、今までにないくらいの難問を前にしていたということなんでしょうか。

学生の頃に学んでいた工学は、やっている事をすぐさま実用的に使用出来ないレベルだったんですね。というのも工学というのは、理論から信頼性の高い技術にするまでのプロセスで凄く苦労するし、そこが長いんです。論文で既に何十年前から理論が出ているからといって、それが信頼性を持って動くものに持って行くまでには、やっぱり凄い労力が必要なんです。

アルゴリズム自体は極めてシンプルなんですけど、試験に試験に試験を重ねて、どうやって、どんな状況でもバクらずに動くかっていうことを追究しなきゃいけない。やっぱり時間を掛けないと、いいものは出来ないんですよね。

―なるほど。

本も同じですね。一つのアイディアから、一冊の本にするまでには凄い苦労するし、長くなるじゃないですか。

―最近の本は割と短スパンでトライアル&エラー、当たればラッキーくらいな作り方が多くなっていますが、やはり宇宙を相手にすると本と同じようにトライアル&エラーにはできないんですか。

できないわけじゃないんですが、ローバーを100台打ち上げて1台うまくいけばいいや、という仕事をやっているわけではないですからね。

―僕らが一般社会で担っている責任とは、やはり全然違う独特の重さがありますね。けれども普段の仕事は地道な研究を繰り返して行い、それを特定のプロジェクトに流すという形になるんでしょうか。

そうですね、日ごろの仕事は極めて地味ですよ。けれども今の職場が凄い好きで、同僚もみんな結構自分の職場が好きなんで、みんな自分の仕事に誇りを持っている。それがいいですよね。

―すばらしいですね。火星探査ローバー「Mars 2020」を火星に飛ばすタイミングは2020年ですか。

打ち上げは2020年で着陸が2021年ですね。

―火星の研究ももう一歩先に進み、新しい研究フェイズに入ることになるのでしょうか。

そういうわけではないですけれど、探査機がひとつ新しい場所に到着するたびに新しいデータがくるので。

―JAXAの火星衛星探査計画も進んでいるのですね。

MMXっていう探査機による計画ですね。火星には「フォボス」と「ダイモス」っていう、衛星が2つあるんです。そのうち1個に行く計画ですね。

―JAXAの計画のほうが火星探査ローバーよりも時間的に少し早いかも知れない可能性があるのですか。

そうですね。

―一緒にお仕事している人達に、著名な科学者・研究者という方も多いのですか。

かなりいますよ。例えばジェントリー・リーという重鎮がいますが、彼はアーサー・C・クラークと一緒に本を書いていますね。ほかにも有名人が何人かいます。やっぱり僕らの周りの人はカール・セーガンに影響を受けている人が凄く多いですね。セーガンの影響は絶大ですよ。

地球外生命とは、どんな出会いになるのか?

小野雅裕さん、地球外生命体について
小野雅裕さん、地球外生命体について

―今日のイベントでおっしゃっていた、こちらから地球外の生命にコンタクトを取って届くより、あちらからのコンタクトが到着する方が早いかもしれないという話が印象的でした。

あくまでも僕の想像ですけどね。

―地球から電波を飛ばすプロジェクトを担当する先生もいらっしゃるそうですが、今後もそういう形で、我々からメッセージを発したことへの返事が来るのを待つことになりますか。

まあ待つしかないですね。

―それはどんな仕方での返答になるのでしょうね。

全く分からないです。ただ地球外生命とのファーストコンタクトを描いた映画はいっぱいありますね。その詳細の出来不出来には差がだいぶありますけれども、カール・セーガン『コンタクト』の描写は本当に見事なんですよ!電波信号で、素数が送られてくるんです。言葉は絶対に通じないでしょうけれども、数学は宇宙に普遍なはずですよね。だから素数が送られて来る。あれは凄い。非常に考えられている。

あと、アーサー・C・クラーク『2001年 宇宙の旅』も見事で、1対、4対、9のモノリスが使われますね。

―ちなみに、宇宙の知的生命体とのコンタクトが仮に生じた場合、交渉する地球側の主体はどんな対応をとることになるんでしょうか。

良い質問ですね。一応、プロトコル(手順を定めたもの)があるらしいんです。国際法でも何でもないんですが、こういう風にしようと言うプロトコルがあるらしいんです。

―仮に、一個人が本当に映画のように知的生命体が本当に誰かに一個人と接触した場合は……。

勝手に答えてはいけないとか何かそういうのがあるらしいんですよ。ただ、ファーストコンタクトは先方が直接UFOから降りて来るんじゃなくて、信号が来るとかそういう方法を取ると思います。

―最後に。今から宇宙を目指したい、という人はきっと多いと思います。けれどもサイエンティストやエンジニア以外で宇宙と関わろうとすると、どんな職種があるのでしょうか。

例えばうちでは何人かアーティストを雇っています。その仕事がボイジャーのハガキに使われたりするんです。また、広報は文章を書く力も必要ですし、普通の会社と同じで経理もありますし、エデュケーションプログラムを学んだ人が人材教育をやってますし、弁護士もいる。そういうレベルであれば色々な仕事があります。

でもやっぱり、宇宙と直接関われるのがサイエンティストやエンジニアであるのは間違いないですから、若い人で宇宙に関わりたいならやっぱり頑張って理科・算数を勉強するのが王道かなっていう気がします。スポーツやりたいなら筋肉を鍛えなさい、というのと同じです。筋肉を鍛えずにスポーツをやるという方法もあるんでしょうけれどもね。

―アメリカ国籍を持っていない人も結構居るんですか?

居ます!僕の職場はかなり多様ですよ。あらゆる人種が居ますね。

―ならば日本人でも十分チャレンジが可能ということですね。若い希望者が増えてくるといいですね。本日はありがとうございました。


小野さん、ありがとうございました!

なお小野さんに、『宇宙に命はあるのか』の貴重なサイン本を5冊いただきました。くわしくは、「第6回ブクログ大賞人文・自然科学部門受賞記念!小野雅裕さんサイン本を5名様へプレゼント!」の記事をご覧ください!

小野雅裕(おの・まさひろ)さんについて

大阪生まれ、東京育ち。2005年東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。2012年マサチューセッツ工科大学(MIT)航空宇宙工学科博士課程および同技術政策プログラム修士課程終了。慶應義塾大学理工学部助教を経て、現在NASAジェット推進研究所に研究者として勤務。2007年、短編小説『天梯』で織田作之助青春賞。2014年に著書『宇宙を目指して海を渡る』を刊行。2017年『宇宙に命はあるのか』を刊行し、第6回ブクログ大賞人文・自然科学部門を受賞。

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参考リンク

「『何十年経っても読まれるものを書きたかった』―小野雅裕さんブクログ大賞記念受賞記念インタビュー前編」
小野雅裕 Twitter
小野雅裕『宇宙に命はあるのか』特設サイト

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