大山淳子「光二郎分解日記」シリーズ化記念インタビュー!大山節が、さらに味わい深くなりました。

「猫弁」シリーズで人気の大山淳子さんが、新シリーズを始動。なんと主人公は75歳のおじいちゃん、光二郎。なんでも「分解」して直すのが趣味の元理科教師だ。そんな彼をとりまく周囲の人間模様が、魅力溢れる登場人物たちやひだまりのように温かい笑いとともに語られるのだからたまらない。「猫弁」でみせた圧倒的なリーダビリティーは、健在どころかさらに加速、まさに「大山節」、絶好調!

新作の魅力と個性的な作品の創作秘話を訊いてみると、なぜ著者の作品がこうも読み手の心に響くのかが見えてきた。

聞き手/相原透 写真/米沢耕 (IN★POCKET 2017年7月号転載)

著者:大山淳子(おおやま・じゅんこ)さんについて


京都出身。2006年、『三日月夜話』で城戸賞入選。2008年、『通夜女』で函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞グランプリ。2011年、TBS・講談社第3回ドラマ原作大賞を受賞。受賞作は『猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼人たち』と改題されて書籍化、TBSでドラマ化された。著書に「猫弁」シリーズ、「光二郎分解日記」シリーズ、「あずかりやさん」シリーズ、『雪猫』、『イーヨくんの結婚生活』、『猫は抱くもの』、『牛姫の嫁入り』、『原之内菊子の憂鬱なインタビュー』などがある。

大山淳子さんの作品一覧

主人公・光二郎に手こずっています(笑)

―相原と申します。宜しくお願い致します。今回、大山さんの作品『光二郎分解日記 相棒は浪人生』の文庫版解説を、尊敬と期待を込めて書かせていただきました。シリーズ化となり、とても嬉しく思っています。

光二郎分解日記 相棒は浪人生』(講談社文庫 2017年6月)
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大山:素晴らしい解説を本当にありがとうございます。……ところで「光二郎」大丈夫ですかね。

―大丈夫です!たくさんの読者に届きます!1作目は現在も多くの書店さんに並び、好調と聞いています。今月(7月)発売の新作を含め、今のところ2作ですが、すでに傑作シリーズです!

光二郎分解日記 西郷さんの犬』(講談社文庫 2017年7月)
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大山:(「猫弁」の)百瀬と違って、光二郎はもう、どう書いたらいいか大変で大変で……。百瀬は「人のために」と思っている正義の人なので、良いセリフが入れられる。でも光二郎は違う。真面目だけど、不器用。気の利いた言葉を言うような人ではないので、難しいんです。

―なるほど。光二郎さんには、モデルはいるのでしょうか。

大山:実は、私の父が光二郎のようにテレビもラジオも自転車も、自分で分解して直してしまう人だったんです。母も生地から洋服を縫ってくれて。

―両親ともに、光二郎さん(笑)。

大山:好きなことをしてるだけなのに、いつの間にか人のためになってる。それが光二郎なんです。
 私は離婚して、先が見えないとても不安な状態の時に引っ越しをしたのですが、父が私のアパートに手伝いに来てくれたんです。冷蔵庫や洗濯機の配線や段ボールの片付けとか、黙々と作業に徹するその背中は目に焼き付いています。最後に私の使っていただらけの鋏を「ちょっと借りていくよ」と言って持ち帰り、数日後、新品のようにぴかぴかにして渡してくれました。
 私、だらけの鋏と、希望の見えない自分をどこかで重ね合わせていたんです。ぴかぴかになった鋏は切れ味も良くて、嬉しくて……。もしかしたら生き直せるかもしれない、諦めないでやっていこう、そんな想いになった出来事でした。

―”錆だらけの鋏”が、磨かれてぴかぴかに! 確か、「光二郎分解日記」シリーズ1作目の単行本発売時の帯には、「機械も人も、分解して磨けばまた光る。」とありましたね。

大山:いい帯キャッチでした。

―私、文庫本の帯には、「読者は皆、光二郎が好きになる」と、書かせていただきました。

大山:そうだといいんですけど。書いている時は腕をぶんぶん振り回して走っているような気持ちなんですが、最後はやはり話をしっかり落としたい。でも、彼が思うように動いてくれなくて苦労するんですよ。

―光二郎さんは、誰に対しても公平。そして自分にも他人にもがない。人として一番尊いです。そんな光二郎さんの人物像がとても魅力的です。

大山:電車に乗ってて、歳の離れた人たちが仲良く喋っているのを見ると嬉しくて。相手の目線に合わせて共通の言葉を選んでる。それって、歩み寄りですよね。世代や環境の違う人たちが一緒に喋って交流している、そういうシーンをいっぱい書きたいんです。

―今、なかなか3世代同居ってありませんね。希薄になった家族の風景、家族の役割分担がこの小説から伝わってきます。特に、お母さんの存在感が光っていますね。

大山:やはり自分が「お母さん」だからでしょうか。親になって気付いたことがあります。ああ、あの時自分の母はきっとこう思いながらご飯作ってくれたんだな、とか、だからあの時あんなに怒ったんだ、とか。

デビューからを振り返って

―そこのところのリアリティーが凄い。調べて実感できることではないですからね。
 それでは少し、デビューのいきさつもお伺いします。まず、城戸賞を取られて、その後NHK名古屋放送局 第22回創作ラジオドラマ脚本募集入選、NHK中四国ラジオドラマ脚本コンクール佳作、そして『通夜女』で函館港イルミナシオン映画祭第12回シナリオ大賞グランプリ……とシナリオでの受賞が続き、「猫弁 死体の身代金」でTBS・講談社第3回ドラマ原作大賞を受賞、受賞作を改題した『猫弁 百瀬とやっかいな依頼人たち』で小説家デビュー。輝かしい受賞歴ですよね。もう、賞をばったばったと取りまくっている。

猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼人たち』(講談社文庫 2016年3月)
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大山:自分が城戸賞を取るまでは、賞って、ひょっとしたら出来レースでコネのある人が取るんじゃないか、ってちょっと斜めにみていたんです。でも私が取れたので、あれ、コネなくても取れるんだ、と(笑)。

編集部:ちゃんと選考しているんですよ!(笑)

大山:ええ、だから城戸賞を取ったときはとてもびっくりしました。その後、シナリオでお仕事をもらえなかったので、小説を書こうと思い、挑戦が始まりました。「やってダメでも、やらないよりはいい」という気持ちで、死ぬほど書きました。書かないと0%、書くと1%くらいは可能性が広がるので。沢山落ちましたけど、一生懸命書いて、送りました。毎回グランプリを取るつもりで、何度も何度も見直して誤字脱字も1個もなくすんだ、くらいな。

―すごいエネルギーですよね。しかも、大山さんはシナリオの学校には行かれたけど、誰にも師事していない。

大山:自己流です。最初のうちは、枚数が少ない純文学系の賞に送っていて一次で落ちていました。だんだん枚数も書けるようになってきたのでエンタメ系の賞に応募しだしたら、トントンと。

―シナリオで培ってきた会話力とリズムがあって、物語の構成力が非常に長けています。

大山:ありがとうございます。最終的に本が出たり、映像になる賞が取れたことで娘がやっと私を嫁に出したような気持ちだ、と言っていました。ほっとしたと。

私の創作法は壺作りに似ている

―作品作りについておきします。以前の取材時、プロットや登場人物の履歴書は作らない、とおっしゃっていましたが、今もそうでしょうか。

大山:プロットは編集者とのやりとりの中で必要な時は作りますが、その通りには書けません。私の作品の作り方って、陶芸家の壺作りに似ているところがあるんです。以前TV番組で観たんですが、壺は「口」が全てなんだそうです。口を探しながら作っていく。私も「ラスト」を探しながら書いていっている感じでしょうか。

―かなり自由なんですね。

大山:登場人物のバックグラウンドもきっちり決めず、泳がすイメージです。言葉にはできないんですが、魂みたいなものは見えているんです。花咲かじいさんみたいに、種をまきながら書いて、最後に種を拾ったり、要らない種は消したり、まいた種が花となったり。「猫弁」1巻の最後で、七重さんが自分の子供のことを告白しますが、あれも最初から考えていたわけではなくて、書いていくうちに「ああ、七重さんにもこんな過去があったのね」と。そういうシーンが生まれると最初から見直して修整します。

―すごく勇気のあることですよね。一回形にしたものを、最後がこうなってしまったからと一から見直す、というのは。

大山:人それぞれ自分に合ったやり方があると思います。私はとにかくわーって書いちゃう。それが楽しいから、書けるんです。小説を書きたくて悩んでいる方は、自分に向いたやり方を見つければいいんじゃないかな、と思います。

―だからでしょうか。登場人物それぞれが、物語が進むに連れて、輪郭や存在、過去や語る言葉まで、どんどん魅力が増していきますね。

大山:ありがとうございます。物語って情報はちょっとずつ小出しにしていくほうがいいかなと。たくさんのプロフィールが一気に出てくると、読者の負担になるので。以前シナリオで受賞したときの講評で「小さながいっぱいちりばめられて回収されている。素晴らしい物語は全て推理小説の形態をとる」という言葉をいただいて。私はそれを自然にやっていたのかなあ、と思います。

―物語の冒頭はどうでしょうか? 大山さんの作品の導入部分は、すっと入れる。最初でぐっと心を掴まれるんです。何か気をつけていらっしゃる点とかあるんでしょうか。

大山:冒頭は、ふーっと出てくるんです。

―ふーっと出てくる? 本当に?

大山:本当に。

―それは、もう……センスが良いのひと言ですね。才能です!

大山:そんな誉められると……(笑)。

―いや、私はお世辞を言わないので有名ですから(笑)。本当に、執筆力が凄いです。しかも作品を追うごとに、面白さが加速している。大山淳子というひとりの作家の作品ごとの輝きと、上昇気流にのっている作家からどんどん作品が生み出されていく過程に立ち会っている、という喜びでいっぱいです。

大山:ありがとうございます。嬉しいです。元気がなくなったら相原さんにお会いして元気にしていただこう(笑)。読者が面白がってくださるか、自信がないんです。

―読者はきっと、面白いと期待して読んで、期待よりも面白いのでまた次も期待する……、その繰り返しですよ。デビュー作にして傑作「猫弁」シリーズ同様、この「光二郎分解日記」シリーズも大山さんの代表作となるに違いありません。

次回作のアイデア

―最後に、「光二郎分解日記」シリーズの今後の展開がすごく楽しみなんですが、少しだけでいいので次回以降どうなるのか、教えてください。

大山:実は光二郎が入院してしまうのはどうかな、と思っています。詳細は読んでのお楽しみ、ということで。

―まったく展開が予想できない(笑)。主人公・光二郎さんは、孫のかける君と一緒に事件を解決していくだけでなく、自分が動くことで困難を呼んでしまうようなところもあり、かっこいいだけの主人公では決してありません。読者は、75歳の元理科教師のどこかユーモラスな活躍、行動を通して、勇気をもらい、ひたむきな想いを感じていくことと思います。

大山:よかったです。お話ししているように、自分では難しい! と思っているので……。腕をぶんぶん振り回して書きます。頑張りますので、今後も光二郎の応援を何卒よろしくお願いいたします。


カバーイラストは、「猫弁」シリーズでもタッグを組んだ、人気イラストレーター・カスヤナガトさん。凜々しい光二郎の横顔が、とっても魅力的です。そして、シリーズ二作目には、「猫弁」でお馴染みの、あのキャラクターも顔を覗かせています。ますます充実の”大山ワールド”から、今後も目が離せません!

(構成:講談社「IN★POCKET」編集部)

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