いろんな人が携って本が作られていることを、どうしても知ってほしくて─でんぱ組inc.夢眠ねむさん『本の本』刊行記念インタビュー(その1)

夢眠書店 夢眠ねむさん

こんにちは、ブクログ通信です。

でんぱ組inc.のメンバー、夢眠ねむさんが、11月30日に『本の本―夢眠書店、はじめます―』(新潮社)を刊行しました。「自分で書店を開きたい」とまで願っているアイドルが、書店や出版社のプロフェッショナルに取材して、本の知られざる世界を勉強・紹介してゆく一冊です。「ほんのひきだし」で連載されていた「夢眠書店開店日記」をまとめた内容となります。

今回、ブクログ通信では『本の本』発売を記念して、夢眠ねむさんにロングインタビューを行いました。全4回にわたる連載の1回目は、夢眠さんが小さかったころの本との関わりから、『本の本』誕生にいたるまでのお話をうかがいます。

取材・文/ブクログ通信 編集部 大矢靖之 猿橋由佳

1.夢眠ねむさんと本とのかかわり

でんぱ組inc. 夢眠ねむさん
でんぱ組inc. 夢眠ねむさん(画像は11/3に文禄堂高円寺店で行われたトークショーのものです)

─『本の本』の内容に入る前に、夢眠ねむさんに本との関わりについてうかがえればと思いました。ねむさんにとって、本は小さい頃から親しみのある存在だったんですか?

はい。両親の決めた夢眠家ルールがあって。本なら「この本を買って」って言えば本ならいつでもどのタイミングでも買ってもらえる仕組みがあったんです。いきなりおもちゃが欲しいと言うと「クリスマスか誕生日にね」みたいな感じだったんですけどね。私は夢眠家ルールにのっとって、本をじゃんじゃん買ってもらいました。

実家には小さな図書館みたいな本の部屋があって、そこには本棚がいっぱい。暇さえあればそこで本を読む、という日々を過ごしてたので、本にずっと親しんでいましたね。

字のぎっしり詰まっている本を読むと、母から「お母さんそんな字が詰まった本読まへんのにすごーい」みたいに褒められたりして「すごいんだ!」と思って。こういうのが読めるとイケてる子供なんだ、って思ったから格好いいことを自然にやりたくなってしまって、本を読みまくっていました。ピーマンが苦手な子供っているじゃないですか。その横でピーマンを食べてドヤ顔をするみたいな子供だったんです。

もちろん、「好きだから自然に本を読んでいた」ってこともあるんですけど。「面白い本って格好いいな」という二つの力で本を読んでいた気がします。

─夢眠さんのご実家って、本にまつわるエピソードがあるんでしょうか?

実家が海産の問屋をやっていました。母は届いた魚をおばあちゃんたちに「こうやって食べると美味しいよ」「この魚はこの食べ方がいいよ」というのを教えていて、そのための食材図鑑が家にあったんです。普通の子供は昆虫図鑑を見たりするかもしれないけど、私はずっと食材図鑑ばかり見ていたんで料理の本をたくさん読む習慣がありましたね。実家にある棚の半分は、料理の本だったと思います。

─振り返ってみると、夢眠さんは食べ物についての本も出されていましたね。

実際に料理をしなくてもレシピ本を熟読するとか、実用書を読み物として読む癖がありました。とにかく本というものが好き、って感覚でしたね。思えば、ゲーム、全然上手くないんですけど、ゲームの攻略本を読むのもすごく好きでした。

─自分事ですけど、私も本は買ってもらえるから、ゲームの攻略本を買ってもらってゲームをクリアした気になっていたことがありました。ゲーム買ってもらえなかったので。

その気持ちわかります!やっていないゲームなのに全部内容わかるようになりますよね?

─攻略本はゲームのストーリーについても結構書かれていますものね。自分がやったことのないことを、本を媒介にして知ることができる。これはゲームにとどまる話ではありませんよね。

はい、それを体感した感覚ですね。

─夢眠さんが本屋に通い始めたころのことをお聞きしてもよいですか。

生まれ故郷三重にある街の本屋さんには、本当に小さい時から通ってました。本を買ってもらえるから、ですね。日常的にスーパーで食材を買うときに「本屋に寄りたい〜」とかってお願いして。

本屋さんが、田舎なので大きいんですよ。本屋さんに寄って、「今日はこれ!」みたいな日常でした。「今日は多過ぎるからこのくらい……」とか言われると、「じゃこれだけ」みたいな感じで親から買ってもらってましたね。

ごく自然に、高校生になってからその本屋でバイトをしてたんです。絶対に本屋さんで働きたいと思ったし、棚もどこになにがあるかわかってるし、店長と仲良しだったから仕入れてもらいやすいし……。(笑)

そうして地元の本屋さんで働いて、ポップを書いたりもしてました。ポップを書くのもすごく大好きで書いてたんです。いまだに、その本屋さんは私のポップをとってくれていたりしています。

─その本屋さんはまだ残っているんですか?

残ってます。井筒屋書店さんです。

─通っていた本屋が残っているのは何よりでした。

2.『本の本』ができるまで

─では、今回刊行された『本の本』に話を移しますね。まず、『本の本』のもとになった連載、Webサイト「ほんのひきだし」「夢眠書店開店日記」の企画が始まった背景をお聞きしてもよろしいでしょうか。

もともとは、私が本が好きだと「ほんのひきだし」の担当者さんとお話をしている中で、担当者さんが「とにかく、ねむちゃんと、本の仕事がしたい!」と言ってくださって。それで始まった連載です。

─そうなんですね。

最初その担当者さんは、私が「あたし本が好きで〜」って出版社の人に対してリップサービスしてるアイドルだと思ったらしいんです(笑)好きな作家の話とかをしていく中で「あ、この子は本当に読んでくれているんだ……」と思ってくださったみたいで。そこから中央公論新社で谷崎潤一郎『春琴抄』朗読イベントなどに出させていただいている中で、二人で本の仕事をしてみたいね……ということになりました。

ちょうど日販さんで「ほんのひきだし」というWebサイトがあったので、「じゃあそこで連載をやってみよう!」と。私がアイドルだということの入口を最大限に生かして、本が好きな方にはもちろんのこと、実際に本を読まない人にも「ねむちゃんがやっているから読んでみようー!」って思ってもらえるようにやってみよう……そして力ずくでもいいから本のよさを教えたい……「本だ!本だー!!」みたいな結構強めの気持ちで始めた連載です(笑)

─すごい。「力ずく」感半端ないですね。

もちろん、本好きの方にこの連載を読んでもらいたい思いもあります。でも、本好きじゃない方にも小さい時に植えつけられたかもしれない「本って読まされるものだよね」「本って怖い」って印象をなんとか取り払って、「怖くないよー」みたいなメッセージを伝えられたらいいな、と思って始めたのも理由です。

─今回、本を出版するきっかけは何だったのでしょう?

「ほんのひきだし」の連載を重ねて行く中で、これがウェブ上の連載なのでまとめて読めるようになれば、という思いがありました。人によっては、ページに辿り着くきっかけがなかったりするかもしれないし。

それと、やっぱり本業界、出版業界の方がすごく面白いと言ってくださっているから本にしたいと思いました。

連載中から皆さんとお話をしていて、「本にしたい!本にしたい!」を口癖に連載を続けていたんです。その中で新潮さんが是非にと手を挙げてくださったので「なんという大手が!」と。(笑)すぐに「お願いします!」と即答しました。

でんぱ組inc. 夢眠ねむさん近影その3
夢眠ねむさん

─そうだったんですね。ちなみに編集の方は、前からその連載は読まれていたんですか?

新潮社編集小川さん 僕は元々編集者ではなく、営業をしていたんです。長く営業にいて「ほんのひきだし」も当初から知ってたんですよ。この連載面白いなと思ってずっと更新を楽しみにしていたんです。

今年の4月に私が編集に異動になって、自分でやりたい企画を立てられることになって、「これだ!」と思って。僕自身がまず夢眠さんの連載を本で読みたかった。縦組みにした本で読んだらこれはおもしろいと思ったんです。

もともと営業の時にどうやったら本が売れるのか考えていました。そしてこの本の出版が、お世話になった書店員さんや販売会社さんなど、出版業界に恩返しになるかなと思い、取り掛かったんです。

─企画した本として、最初の1冊目なんですか?

小川さん いわゆる自分で企画として実現した本としては1冊目になります。

おおー!!ばんざい! ばんざい!!

小川さん 実は私は文庫の編集部なんです。けど、無理を言って他の編集部の仕事としてやらせていただきました。

─連載の理解者が、あらかじめ出版社にいらしたなんてとても素晴らしいですね。

そうなんです。この連載自体が出版関係のみなさんだったり、書店さんが応援してくださっていて、それがすごく恵まれていたなと思っています。

出版業界の中で「夢眠書店開店日記」をおもしろがってもらえるというのは本当によかったなって思います。実際に本になるきっかけまでいただいて。

─そうだったんですね。でも、「夢眠書店開店日記」連載もそうですが、本の前書きを読めば、夢眠さんが本が好きということはどこからも伝わってくると思いますよ。

ありがとうございます。─でも、前書きに悩みました。この前書き、ちょっと重くなりましたかね?いいですかね?なんか悲痛な叫びみたいだなって思ったんですけど。大丈夫でしょうか?

─問題意識が詰まっているな、って感じました。真面目に考えてる本だ、というのが最初からわかります。

よかったです……。書き出しをポップにした方がみんなが軽く読めるからいいかなとも思ったんですけど、でも、やっぱり本屋が減っているというのは現実じゃないですか。

─その通りです。

だからそれはどうしても読者のみんなに知ってほしかった。例えばこの本が、本屋が減ることのリアルな歯止めになるのかはわからないです。でもいろんな人が携わることで本が作られていることを、どうしても知ってほしくて。

3.著者ねむきゅん、編集と校正に関わる

夢眠ねむさん『本の本』手書きPOP
夢眠ねむさん『本の本』手書きPOP

─連載と本の中身について少しお聞きできればと思います。今回1冊の本になるまで、編集には携わったんですか?

校閲部チェックを通って赤が入ったのを見て、直しを入れました。これはこうしたいとか、これは直してくださったままにしてくださいとか、これはわざとなのでこのままにしてください……とか。

小川さん 削ったり入れ替えたりすることになるので、どこを重視されているか、どこを残したりだとかは最初の打ち合わせで確認していましたね。

─その共同作業を経て、連載から本への編集が行われたのですね。

はい。新潮社さんが歩み寄ってくださって、理由なく切ることはなかったです。納得いく編集になったので助かりました。感謝しています。

─新潮さんの編集と校正の力はすごい、と話題でしたよね。それをじかに味わったんですね。

恐ろしいですよ。もうね、全部ちゃんと直ってるんです。当たり前かもしれないですけど。本になるということはどれだけチェックが必要なのかという事もわかりました。

─新潮社さんが全部直したのですか。

はい。すごいですよ本当に、細かいところまで。これが噂に言う新潮社さんの校正かと…

細かい話なんですけど、ここに夢眠書店のハンコがありますよね。このハンコの6文字も、校閲のチェックが入るんです。

夢眠書店蔵書のハンコ
夢眠書店蔵書のハンコ

─手書きの文字にも校閲が入るんですね。

小川さん 手書きの文字もイラストもすべて校閲が入ります。

─『本の本』にもそう書いてありましたね。

小川さん 6文字であろうと目を皿にしてチェックしています。

─すごくおもしろいですね。校閲は全体を細部に至るまでチェックする。でも、けして重要でないところは著者の考えやスタンスに合わせる、ということなんですね。

小川さん はい。

─質問しておきながらびっくりしてしまいました。

ね。この本に入っている話も今の話もですけど、本当に本が好きな人からしたらそうなんですね!!」と面白がってもらえるものがたくさんあります。興味のない人には響かないお話かもしれないですけど……。

─でも、それを夢眠さんが紹介をすることで一般の方にも興味を持っていただける。

そう、なんとかそうしたいところなんです。でも、私がこんなに本を気にしているのって、なんかちょっと空回りしてるのかなと思う時もたまにあって。

唐突ですけど、私、運動と数学が全然ダメなんです。誤解を恐れず言うと、まったく興味がないんですよ。でもいろんな人が体育や数学は素晴らしい、っておっしゃるじゃないですか。でも、まったく聞く耳を持てないんですよ。

「『本の本』で、自分も同じことをしているのではないか?」そんな気持ちにもなっちゃうんです。だれか一人にでも響けばいいのかもしれないですけどね。

自分が聞く耳を持たないのに聞く耳を持ってもらおうという態度はよくないんじゃないかな、って。

─そんな。充分理解あると思います。「夢眠書店プレオープン」の選書で『数の悪魔』について紹介されてますよね。

あ、読んでますね。

─興味ないのに読んでいる?

面白い本なので……。(笑)

小川さん 『数の悪魔』は自分の方に歩み寄って来てくれるような本ですよね。興味が持てる。夢眠さんも同じように、今回、本に興味が持てない人のほうに自分から歩み寄られたんじゃないでしょうか。

……いいですか?

─いいと思います。発言の端々から、夢眠さんの発言って、本読みにとって信用できる方なんだなってことがわかりますよ。

ありがとうございます。

4.「ほんのひきだし」から単行本化にあたって

でんぱ組inc. 夢眠ねむさん近影その2
でんぱ組inc. 夢眠ねむさん近影その2

─今回、単行本化に際しては連載時と収録の順序が違いますね。単行本では本屋さんに取材するところから、どんどん本作りの裏方へ、という流れになっています。それは夢眠さんに何かお考えがあったんですか?

新潮社さんからご提案を頂いて。

小川さん はい、提案の意図としては、やっぱり普段本に興味のない人に歩み寄っていただき、わかっていただきたかったので。上流から下流に行くか、下流から上流に行くかを考えたとき、普段、一般の人が本に触れるのっていうのは本屋さんじゃないですか。本屋さんを入口に、本屋さんに本が来るまでのことから辿っていくのがいいのかな、と思ったんです。

─夢眠さんもそこに同意されたんですね。

実際、夢眠書店というのを作るというスタートで、それが連載の軸としてあったので。まさに、最初は本屋から、という意見をそのまま取り入れたんですよね。

─「ほんのひきだし」連載時は、本の基本から教わっていく夢眠さんが、連載の回数を重ねるごとにレベルアップしていく様な造りに感じられたんですよね。今回、本になったことですごく読みやすくなって、夢眠さんが本の世界に読者を誘うような造りに変わったな、という印象を受けました。

ネット版だと毎週楽しみにしてるかたがいて、毎週驚きがあったと思うんですよね。だから本では、流れを組み立てることを考えました。私の感想を書き足したり、本の形式に合わせて調節しました。特に感想をかなり書き直していましたね。

─いろいろなタイプの書店さんを回られたな、と改めて思います。

でも、すでに有隣堂さんの売場が縮小しちゃってて。悔しい!っていう立場ではないのですけど、やっぱり連載から単行本化までのこんなに短い期間でこういうことがあると、いろんなことを思いましたよね。

─業界の変化、移り変わりですね。

そうですね。やっぱり自分が馴染んでいた売り場が小さくなるってことは、通い慣れているひとにとって衝撃なことなので……店の移り変わりは、「うわぁ」と思います。

本屋さんの何が減って、何が増えているとかを言い切るのはちょっと難しいって、分かってるんですけどね。Titleさんのように地元に根付いた丁度いいサイズの店だったり、帰り道に寄って一冊買って帰れるような帰り道系の小さな本屋さんだったり、それはそれで増えているような気もします。カフェと合体してるような本屋さんも増えているような気もするし。

いろんなタイプの本屋さんが増えるのはそれはそれでいいなと思ってます。大手がいっぱいあるのもいいですよね。絶対ここなら探してる本がある、っていう紀伊國屋書店さんとかがある一方で、このテイスト気が合うなっていう小さな本屋さんを見つけられるのもいいなって思ってます。


夢眠さん、ありがとうございました!インタビュー第1回目はここまで。次回インタビューでは、書店への取材を振り返ります。「夢眠書店開店日記」を連載して学んだことは何か?受けた影響は?そして、本と出版についての熱く真摯な想いとは?インタビュー連載2回目「こういう仕事を続けていって知ってもらえることがあるなら」もぜひご覧ください。お楽しみに!

なお、夢眠ねむさん本人による『本の本』紹介動画もありますので、まだご覧になっていないかたはぜひどうぞ!

関連リンク

「こういう仕事を続けていって知ってもらえることがあるなら─でんぱ組inc.夢眠ねむさん『本の本』刊行記念インタビュー(その2)」
「DJのように本と本の流れを考えた─でんぱ組inc.夢眠ねむさん『本の本』刊行記念インタビュー(その3)」

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ほんのひきだし「夢眠書店開店日記」

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