サイレントマジョリティーはOne of themであってもいい―成宮アイコ『あなたとわたしのドキュメンタリー』独占インタビュー

サイレントマジョリティーはOne of them(ワンオブゼム)であってもいい

これは本にも書いているんですけど(笑)。あの曲は「One of themに成り下がるな」の一文さえなければ、とてもいい曲だと思うんです。

―なるほど。

ただ「One of themに成り下がるな」っていう歌詞には私はほんとに頭にきてしまうし、結構傷つくんですよね。だってOne of them(ワンオブゼム)であっても、何でもいいのに、多様性を歌うなら「One of themもいいけど」だったら、あの曲は素晴らしかったと思います。

―なるほど。批評ですね。

みんなと一緒でもいいし一緒じゃなくてもどっちでもいいのが「多様性」なのに、何で「One of them」だと「成り下がる」って馬鹿にされなきゃいけないんだろうなぁと思ったんです。「十人十色」っていうなら一緒でもいいじゃないですか。みんなと同じになりたい人もいるのは悪くないし、みんなと同じものが好きなことはダサイみたいのは嫌だなぁと。

―「十人たまたま一色」でも構わないってことですね。

そうです。「十人十色」なら10人が同じ色を選んでも別に構わない。

―順番に色を選ぶとなるとしかも10人中8番目ぐらいから選ぶ色がなくなってきそうですしね。

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そうですよ(笑)。たとえば、ランキング1位の本を読んでいるとちょっとバカにしてくる人がいたり…。おもしろいものはおもしろくて何が悪いんだって。

―なるほど、なるほど。

例えば、私だけが世界でたった一人の個性的な鬱だったとして、その鬱を個性にして頑張ろうってならないじゃないですか、鬱だから。

―ああたしかに、こっちはツラいんだけど「いや、そのツラさこそ個性なんだから、それを活かせ」っていうのは酷い話ですよね。

「ふざけんな」ですよね(笑)。そうなっちゃったからには、しょうがないから、何とかする方法を懸命に考えているんだから、その原因を肯定することはしたくないです。だから他人が肯定を強いるのはやめてくれと思います。精神疾患も、ならなかったらならない方がいいに決まっている。なっちゃったからには、しょうがなくて、それでも生きる手段として、それをも利用しながらやっていくしかない。

―そこをすべてが事後的に見ればエブリシングOKなんだと肯定してしまうことは嘘だし欺瞞であるということですよね。

そう。全肯定はできないんですよ。…こういうことってどうして簡単に伝えられないんでしょうね。でも支持されている言葉に同意ができないから自分の作るものは大きい支持はもらえないだろうなっていう自覚もあります…。

―簡単に伝えることは大変ですよね。僕も少しは理解できたような気がします。

ありがとうございます。やっぱり「One of themの多様性」も諦められないです。

―同じように「希望」もまた多様ですからね。

あなたと私は地続きで、隣にいる人も、一生喋らないかもしれないけど地続きで、みんな同じ世界で生きている

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―僕が読んでいて気づいた部分で、成宮さんは、リアルタイムにインターネットで話題の言葉を作品でも普通に使われていますよね。

よく今の言葉とかネットスラングを使うのはどうなんだ、みたいなことを言われたりもしますが、私は今の言葉を使ったほうがよりリアルに今を生きている人には伝わるはずだと思っています。来年その詩が読めなくなってもいいから流行っているネットスラングを使い続けたいんです。別に言葉は永遠に残らなくても構わないんです。

―だからか、成宮さんが、言葉を文章よりも「声」をすごく重視しているのかなあっていう感じがしますね。今リアルタイムのライブで通じる言葉をそのまま伝えようとされているから、ネットスラングも使うし、もしかすれば来年には消えてなくなる言葉だって使うしで、それこそ今この瞬間の瞬発力だけで言葉を選ばれている。

そうですね。書肆侃侃房の代表の田島さんが「ライブであなたがMCで話してるような言葉どおりに書いてください、綺麗にしようとしなくていいから、話しかけるそのままのことを書いていいんですよ」って言ってくれて、それで一気に書けました。

―とても素晴らしい編集者さんですね。

1個1個の作品を短くしたのも理由があって、私が鬱の時に読んでいたコラムが、見開き2ページで終わるものだったんですよ。長い文章は調子が悪いときは読めないけど、短いものなら読めたので。どこを開いても一応読めるっていうものにしたかったんです。

―その短さも「声」を感じる理由かもしれないですね。成宮さんは好きな詩人とかいらっしゃいますか?

詩をほぼ読んでなくて、奈良少年刑務所の詩集だけ持っています。後は、中学生時代にお母さんの持っていた石川啄木を読んだくらいで物心ついてからはあまり読んでいないです。

―そうなんですね。だから、ご自身が詩人だと言われちゃうことにも少し抵抗があるんですね。

そうですね、申し訳なさが大きくて。考えて書いているわけではなく、作文だと思って書いているっていうのもありますし、言葉の愛憎もあるので、胸を張って「詩人」ですとは言えないというか。

―なるほどなるほど。「私は別に詩を学んできたわけではないけれど、でも、私のやっていることを、あえて言うとすれば、」

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そうです。便宜上、「詩の朗読」になってしまう。いい言葉がなくて。一応「朗読詩」って呼んでいて、「朗読」って付けているのも、ただの逃げですね。

―でも詩はそういう部分もちゃんと含むものだとは思うんですけれども、逆に衒いも何もないから、よいのかもしれませんね

本自体は好きなんですけど。

―小説も読まず、ドキュメンタリー、ノンフィクション中心ですね。

そうですね。書評とコラムを書くお仕事をいくつかしたんですけど、そこに載せた本も小説はあまりないですね。最近は釜ヶ崎のドヤ街の本とかばっかりです(笑)。

―なるほど。釜ヶ崎の経験もこの本で書かれていたと思うんですけれども、成宮さんの活動拠点は今東京で、全国各地にいろいろ行ったりしていますか?

はい、新潟・大阪にはよく行きます。来年は名古屋に行きます。地方遠征の時は、本屋さん併設のイベントスペースとかライブハウスやその土地の県民ホールで朗読しています。

―ちなみに成宮さんの作品は、今はこの本でしか読めないんですかね?

本になっているのはこれだけです。

―なるほど。では『成宮アイコ詩集』があるわけではないんですね。

ないです。大ファンのノンフィクション作家の上原善広さんが読んでくださって、「次作は詩集を希望します。」ってメッセージを書いてくださって。いつか作れたら嬉しいです。ただ、サイトには全部のせています。

―そこも雨宮さんとのインタビュー対談であった話ですけれど、読まれるんだったら別にどんな手段でも読んでもらっても聴いてもらっても構わないって書かれていますよね。

はい。全部ライブもイベントも写真も動画撮影も何でも自由にしています。

―無料でもなんでもいいっていう感じですね。

なんでもいいんです。人に本を貸してもらっても全然かまわない図書館でもいいし。

―図書館の貸出問題は最近も話題になっていますが、成宮さんはなんとも爽快ですね。

出してくれた書肆侃侃房さんに貢献をしたいので、頑張ってはいますけど(笑)。

―それは、そうですね。ぜひ皆さん買っていただければと思っております。

(笑)広まらないよりかは、無料でも読んでもらったほうが断然いいので。超大金持ちだったらコピーして配りたいぐらいです。

―それは本来の詩人の姿だと思いますよね。

ちょうど同じことを先週末釜ヶ崎で、すごい酔っ払ったおっちゃんに言われました(笑)。「あんたは昔の路上詩人や、コピーの紙をいっぱい町で配って読み聞かせていた人がいたんだよ」っていう話を聞かされました。

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―素晴らしいですね。とても会いたいです(笑)

最後に成宮アイコさんからのメッセージ

―それでは最後に成宮さんの本を読んだ人、またまだ読んだことがない人にもメッセージをいただけますか?

今回、いろんな人に助けられてなんとか生き延びましたっていうことをどうしても形にしたくて、本にしました。この本の中には、私が書いたものだけじゃなくていろんな人からかき集めたものが入っています。私が一番言いたかったのは「人はみんな地続きでつながっているんだよ」っていうことです。だからライブでも「あなたと私は地続きで、隣にいる人も、一生喋らないかもしれないけど地続きで、みんな同じ世界で生きているんです」と言っています。今ここにいる実感が無くなることが自分自身も多いので、それでも世界はつながっている、とあらためて投げかけたいと思っています。あなたのことは私のことかもしれないし釜ヶ崎のおっちゃんのことかもしれない。だからタイトルは『あなたと私のドキュメンタリー』です。ぜひ手にとってみてください。

―本日はありがとうございました!

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