第5回ブクログ大賞ビジネス書部門受賞!中島聡さん『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか』記念インタビュー後編

前編に続き、中島聡さん『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか』ブクログ大賞受賞記念インタビュー後編です。
中島さんといえば「右クリック」「ドラッグ&ドロップ」を編み出した日本人エンジニア、そのWindows95の企画の経緯から、余裕=「スラック」から仕事が回り始める時間の使い方のコツ、また次のテクノロジーが生み出す未来予測まで、さまざまにお伺いしています。

取材・文・撮影/ブクログ通信 編集部 持田泰

仕事はロケットスタートで前倒しで進めているから余裕=「スラック」があって、その「スラック」があるから新しいこともできる

前編に続きアメリカシアトルの中島聡さんへskypeでインタビュー!

―中島さんのお仕事のお話、自伝的なお話もお聞かせください。中島さんといえば「右クリック」「ドラッグ&ドロップ」を編み出した日本人エンジニアとしてもはや伝説ですが、この本の中で「日本語で考えるからオブジェクト指向になった」という挿話がありましたが、あれは日本語で考えるエンジニアとして英語で考えるエンジニアと比較して何か別の発想力はあったという感じなんですかね。

そこはどうでしょうね(笑)どっちかというとその部分は後付みたいな感じではあるんですけど(笑)。ただ、わりと面白い仕事をさせてもらえた理由が、私が日本人だからというよりも、私はささっとプロトタイプを作るタイプだったんですよ。だから社内で面白いアイデアがあると、誰かが私のところにもってきてくれるんです。ソフトウェアの会社には企画を立てる人とエンジニアがいますが、企画を立てる人は、「正式なスケジュールで決まったものしかやらないエンジニア」と「面白そうなものならてっとり早く作っちゃうエンジニア」がいれば、後者を選ぶじゃないですか。私はたとえばランチ食べながら企画の人がぽろっと喋ったものを、頼まれもしないのに面白いなと思えば作っちゃうタイプだったんですよ。そういうことをしているうちに私に仕事がいろいろ回ってくるようになったんですね。もしくは、正式に決まっていないのに、私の方でもう動いているプロトタイプがあるから、それを見て正式に企画に採用されるみたいなことが起こりはじめて。そういう形で「ドラッグ&ドロップ」や「コンテキストメニュー」の仕事は結果的に私に回ってきたという形です。

―今のお話と、時間術の話を総合すると、基本的にロケットスタートで仕事を前倒しに片づけていこう、そして後半は流していこうという提案をされていますが、その流す部分で、本の中では余裕=「スラック」という言葉でさまざまな事例をあげられていましたけれども、「スラック」があるところに何かを自由にやれる余地があり、企画が舞い込むスペースが生まれているみたいな感じなんですかね。

そうですね。私は仕事はロケットスタートで前倒しで進めているから余裕=「スラック」があって、その「スラック」があるから新しいこともできる時間がある。それは時間に追われているのでなく、時間をコントロール出来ているという、その部分の違いに過ぎないことなんだろうと思うんですけども。

―そうですよね。デスマーチの最中だったらそんな企画の舞い込みもないですよね。

そうですね。だいたい私の印象だと、ほとんどのエンジニアは「ラストスパート型」の仕事スタイルなんですよね。そうなると、面白そうな仕事が舞い込んできても、対応できる余力がないわけですよ。実際引き受けていたらそれこそドツボにはまってしまうでしょう。私の場合だと、常にロケットスタートで前倒しに進めて後半は流しているので、流している時に次の仕事がくれば、私も喜んでポっと作ってしまう。だんだんそれをしているうちに、企画の人と私の間に近道みたいのが出来てくるんですよね。企画の人が思いついたアイデアを私が勝手に作って形にしてしまうことで、そこから企画として採用されるようになり、それが正式な依頼になるから、私の元に落ちてきたときには既に動いているものが出来ていて、私はそれを仕上げるだけで済むんです。そういう形で常に仕事を流していく。マイクロソフト時代はそういうとてもいいフローが生まれましたね。

―そうなると、「仕事は安請け合いでやっちゃいけない」とも書いてあったと思うんですけど、その余裕=「スラック」の部分ではフットワークの軽く引き受けることでより前に転がしていけるような感じなんでしょうかね。

そうですね。正式な企画になる前にやれば、それは約束もなにもないわけですよね。お昼休みのアイデアを形にしたいってだけなので、それを動いちゃったよっていってから正式な企画になっているから、もう見積もりもなにもないんですよね。もう動いていますから。という感じです。

―今の話にも通ずるかもしれないですけれど、「無理に集中しなくていけないものは避けろ」とも本の中で提案されていましたが、つまらないものには集中できないけれど、今のようなスラックの余裕がある時は、何かもうそれこそ好きなものに熱中=集中できるみたいな世界になるということですかね。

そうですね。企画の人がお昼の時に聴いたアイデアでも、面白くもないものは私は無視していたと思うんですよ。みんなアイデアもってるから全部話してくれるんですけど、そのうち面白そうなもの、やりがいだけを1つ2つピックしてやる。その段階で既に自分が面白そうだなと思っているし、話をきいている最中からアイデアが膨らんでいるから自分のモチベーションは既に高いですよね。私はロケットスタートの前倒しで仕事していたから「スラック」のなかで実際できたのもあるけど、その「スラック」に入れる仕事も自分で選んでいたということですね。

―それも「ルールを守るな」という表現につながるところなんですかね。

そうですね。ルールだと「企画されて正式に依頼があったものをやる」のが仕事じゃないですか。そのルールの中だとつまらない仕事を依頼されたりしますからね。

―なるほどおもしろいですね。「スラック」があることでそこに集中力もあがるし回転率もあがると。より時間が効率的に動いていく感じがしますね。

ですから、わたしが言う管理術は普通の管理術と違うアンチですよね。トップダウンでこう動くとかマネージメント手法とかあるじゃないですか。それにはちょっと逆らっている部分もあり、結果オーライで仕事を進めてきたタイプですよ。

―ご本に明確に出ていると思いました。自己管理術だけの本というよりは、ある種古典哲学的な「よく生きるためのコツ」みたいなものをすごく具体的な肉声で書かれているなと印象深く思ったところです。

イイものつくったからって売れるかというとそういう世の中でないからやっぱり難しい。そこはいまだに成功の法則が見えないですよね。だからこそ面白い

―肉声の部分でいうと、意外にも成功ばかりではなく失敗も多かったと語られているところもありましたが、掘り下げてお話をお伺いできますか?

失敗は本当にいっぱいあるんですけれどね。マイクロソフトでいろんなソフトを作りましたけど、作ったけれど世の中に出なかったものがいくつもあるんですよ。そこは僕から見ると失敗なわけです。なぜ世の中に出なかったかというとさまざまな理由はあるんだけれど、後悔もあるし残念だと思うことはあります。イイもの作って周りの人にイイ!と認めてもらえたにもかかわらず、それをいざ商品化するって段階でまったく別のプロセスが必要になるわけですよ。私は0から1を作るのが得意なタイプなのですが、商品としてその1をさらに100まで持っていかなくてはいけない。そこにはそれなりの力がいるわけじゃないですか。その部分がうまくいったケースもあれば、うまくいかなかったケースもあると。

―なるほど。わかります。

それが100%私の責任とも思わないけれど、私にも責任の一端はあって、0から1にしたところから仲間を集めてきて理解してもらって、その仲間たちに100までがんばってもらうことで、モノが世に出るわけですよね。そこの部分でうまく噛みあわなかったり、うまく伝わらなかったり、そんなことは普通にありますよね。いまだにそういう部分は難しいですよ。マイクロソフトを辞めて、今は自分で仕事していますけれど、じゃあイイものつくったからって売れるかというとそういう世の中でないからやっぱり難しい。そこはいまだに成功の法則が見えないですよね。だからこそ面白いとも言えるんですけど。

―なるほど。よくわかります。

スマホが出たおかげで僕らの生活がすごい変わったじゃないですか。それに匹敵するくらいの変化が

―Windows95から考えてもテクノロジーの環境は圧倒的に変わってしまったと思うんですが、今はスマホの時代になり、さらにIoTであるとか、AI、ディープラーニング、などなど、いろんなキーワードが飛び交っておりますが、今後10年くらいで明らかに変わってくるだろうと思えるトレンドで、予測できるようなポイントってありますか?

そうですね。人工知能の話は確かに面白い話だけれど、どれくらい応用できるかはまだ手探り状態ですから実はどうなるかはわからないですね。AIってのはテクノロジーでしかないですから、それを応用して何をするかって部分の方が重要で、そこで「エーアイエーアイ」って騒がれてはいますけど、今実際使われているのが画像認識と音声認識くらいです。ただ10年後であれば今と状況が明らかに違うことになっているとは思いますから、画像認識技術がどんどん進化していって「自動運転」のシステムができるというのは、そんなに非現実的な話ではないでしょう。人工知能の技術を使ってたぶん僕らの生活が一番変わる部分がどこかというと、その「自動運転」ではないでしょうか。

―なるほど「自動運転」ですか。

結局人間は移動しなくては生きていけないので、移動の方法が根本的に変わると思うんですよ。10年のスパンで起こるかわかりませんけれど、自分で車を持たなくていい、自分で駐車もしなくてもいい、必要な時に「自動運転」の車がやってきて、どこででも乗り捨てられるという状況になると、人間の移動能力が桁違いに変わると思いますよ。それに合わせて都市計画も変わると思うんですよ。上手にやると渋滞もなくなるし、ひょっとするとバスだったり地下鉄も「自動運転」の車に置き換わってしまうくらいすごいインパクトだろうと思います。スマホが出たおかげで僕らの生活がすごい変わったじゃないですか。それに匹敵するくらいの変化が「自動運転」にもたらされるんじゃないかなと私は思っています。

―レンタカーだって「乗り捨て」といっても元のレンタカー店舗に返すのではなく結局、別の店舗に片道で持っていくだけですからね。

そうですね。タクシーだったら高いしコストはかかるでしょうが「自動運転」で抑えられる。人が思い思いに運転して目的地に向かうのではなく、センターで全体の道路状況を見ながら自動運転が判断してくれるので渋滞の問題もなくなる。そうなるとドアツードアでものすごい気楽に動ける。もしかすると社会インフラすら変わってしまうものだろうと思うのですよ。東京なんて今は地下鉄が発達してとても便利ですけれど、実はそれが20年たつと無用の長物になるかもしれないんですよ。

―それこそSFの世界ですね。

アイザック・アシモフなんか好きでハヤカワSF文庫は子供の頃はよく読んでいましたよ。

—今でも読まれていますか?

サスペンスとかSFとか良く読みますけど、日本だと一部のSFはライトノベル化していたりもするじゃないですか。意外とライトノベル好きですよ。『涼宮ハルヒの憂鬱』を読んで面白いと思いました。この年齢で読んでいる人は珍しいかもしれない。

—中島さんが読んでいるのは意外ですね(笑)。

あとは技術書は読んでますけど、あまりビジネス書とか啓蒙書とかは読まないですね。

—そうなんですね。そんな感じがいたしました。ビジネス書・啓蒙書のスタイルでもないですよね。どちらかというとフリーな姿勢で書かれている感じがしました。

ブログとかメルマガで書いている姿勢ですね。

すでに読んだ方、まだ読んでない方も含めて、読者の皆さんにメッセージ

―今回のご本の登録者は、やはり男性の読者が多い傾向だということがよくわかり、なかにはエンジニアの方も多いと思うのですが、中島さん自身はどういう人に読んで欲しいとかありますか?

わりと幅広い人に読んで欲しいですよね。それは(自分が)たまたまエンジニアだったからエンジニアリングの話も出てくるからエンジニアにわかりやすいかもしれないけれど、その時間術だったり仕事に対する姿勢というのは、もっと汎用的なものじゃないですか。そういう幅広い、特にクリエイティブな仕事している人には読んで欲しいですよね。

―若い人にも薦めたい本ですよね。中学生とかに読んでもらうとヒントがつまっているかもしれません。仕事に関しての部分は難しい箇所もあるかもしれませんが、これを読むと勉強の仕方が変わるんじゃないかと思います。早いうちに身に着けた方が人生が豊かになるんじゃないのかなと思いますね。

そうですね。先ほどアスリートっておっしゃっていただけましたが、こういうのは早くやった方が身につくと思いますよ。

―そうですよね。その子供を教える側にも読んで欲しいですよね。自己管理して何に到達できるかを教える本ですね。最後にそんな未来の読者に向けて、またすでに読んだ方も含めて、読者の皆さんにメッセージをいただけますでしょうか。

時間術の本でありながら、人生にとってなにが大事かを書いたつもりです。なにかというと「閉塞感」の話が出回りますが、いつも完全に受け身になって上司が悪いとか会社が悪い、ひいては社会が悪いとかばかり言っていると、その「閉塞感」が乗り越えられないと思うんですよ。なのでそういうものを打破するために、今まで気づいていなかった自分のポテンシャルを見つけるようなヒントになってほしいと思います。

―本日はありがとうございました!


中島聡さんのインタビューはいかがだったでしょうか。執筆の経緯から少年期の勉強法、マイクロソフトでWindows95開発体験から導きだされた仕事に対する姿勢、そしてより人生を楽しく生きるための時間術まで、さまざまにお伺いできました。もっと詳しく知りたい方は『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか スピードは最強の武器である』を手に取って見てください。最後に中島さん直筆色紙を改めてご紹介します。

第5回ブクログ受賞者インタビューはまだまだ続きます!乞うご期待!

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