第5回ブクログ大賞ビジネス書部門受賞!中島聡さん『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか』記念インタビュー前編

8月28日ついに発表された第5回ブクログ大賞7部門。そのビジネス書部門を制したのは、中島聡さんの『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか』でした。あらためましておめでとうございます!

今回ブクログ大賞受賞にあたり取材を依頼したところ、現在アメリカシアトル在住の中島さんからSkypeによる独占インタビューを快諾いただきました!このインタビューを読んでおけば『なぜ、あなたの仕事は終わららないのか』がもっと理解できることうけあいです。
前編では、執筆の経緯から、中島さん自身がこの時間術へいたった仕事に対する姿勢など、さまざまにお伺いしています。

取材・文・撮影/ブクログ通信 編集部 持田泰

最初はこういうものを本にして出すつもりはなかった

アメリカシアトルの中島聡さんへskypeでインタビュー!

―このたびは第5回ブクログ大賞ビジネス部門受賞おめでとうございます。早速ですが、大賞作『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか?』(文響社)で時間術の本を執筆した契機などを教えていだたけますか?

最初はこういうものを本にして出すつもりはなかったんです。

―なんと!

この本の前にも4冊くらい書いているんですけど、「本を書く」って大変じゃないですか。全体の構成を辻褄合わせて1冊の本にまとめるって、とてもエネルギーを使うことだなと認識していたんですよね。過去経験した出版だと、担当編集者は誤字脱字や文字校正なんかちゃんと見てくれるんですけど、もっと全体的な部分ではあまり力になってもらえた印象を私は持っていなくて。当り前なことではあるんですが、結局「本を書く」という行為すべてが私の肩の上に乗っかってくるじゃないですか。それが結構きつかったんですよね。それでいていざ出してみると、初版で3000から5000部ほどです。うち1冊は増刷ができたくらいですね。労力を考えると非常にパフォーマンスが悪いわけですよ。だから本はもう止めておこうと思っていたんですね。メルマガ「週刊 Life is beautiful」もそれなりにビジネスになっているし、僕の本業はソフトウェア開発ですから、やっぱり労力に対するそれなりの見返りがあるものをやりたいですから。

―なるほど。

そんな時に編集者の乙丸益伸さん(編集集団WawW ! Publishing代表)から連絡いただいて、僕のブログ記事(中島聡さんのブログ:Life is beautiful)を本にしたいと。記事にこの本の原型となるエッセンスがあったんですけど、最初はさっきの考えとおりで「大変なだけで割に合わないから」と一度断ったんですが、乙丸さんが熱心に「編集も全力で手伝う」「ちゃんと売れるように部数出してくれる出版社を見つけてくる」と口説いてくれたんですね。乙丸さんは出版社に紐づかないフリーの方なんですよ。

―そうなんですね。

また今回の出版モデルも「共同執筆」という形でロイヤリティ折半にしましょうという面白い話だったので、それであれば一度くらい試してみてもいいかなと思ったことが経緯ですね。ですから、乙丸さんからとにかく熱心に説得されたことが契機ということになりますね。

乙丸益伸さんは私としては共同執筆者という気持ち

文響社さんといえば2017年上半期『日本一楽しい漢字ドリル うんこかん字ドリル』がメガヒットを飛ばしている出版社さんですから、文響社さん主導で進めているのかと思っていたのですが、その間でフリーの乙丸さんからの提案があったのですね。

そうです。一緒に企画をたてて、「この本だったらマーケティングセンスの高い文響社さんがいいだろう」と持ち込んでくれたという感じです。

―装丁もソフトカバーで白地に黒文字でタイトル。どーんとシンプルでありながら、「スピード」の文字が直角で曲がる具合がとても可愛いですよね。

ブックデザインは当時文響社デザイン室所属で現在フリーランスの大場君人さんが担当してくれました。章立てなんかは全部その乙丸さんがやってもらってます。

―そもそもこの本の土台になるブログ記事がいくつかあったということですか?

エッセンスは一本の記事ですね。時間術に関するスケッチで「モノは全て前倒しでやりましょう」というすごい短い記事です。

―なるほど、それが一冊の本に成長したことなんですね。乙丸さんは、以前から編集者としてさまざまな本を手掛けてらっしゃる方ですね。

おもしろいですよ。私はビジネス書でしたけど、その次は料理本とかやってました。今までの本の作り方とはかなり違うと思うんですよ。その、美味しい煮卵の作り方の本も、彼が面白い筆者をみつけてきて、説得して企画を盛り上げて編集者に売り込んで─という今までにない本の作り方です。

―おお!『世界一美味しい煮卵の作り方 家メシ食堂 ひとりぶん100レシピ (光文社新書)』もですか。話題になっている本ですね。

そうですね、あれももう10万部超えてますよね。

―なるほどすごいですね。そうなると今回の本も、乙丸さんとの出会いが大きかったんですか。

私としては共同執筆者という気持ちですね。

―編集者に対する最大の賛辞ですね。

「一日でも速く仕上げる」ということではなくて「この人が10日で仕上げるといったら必ず10日で出てくる」といった信頼性

―またこの本は、マイクロソフト時代にWindows95の開発に参加されていた日本人エンジニアとして「レジェンド」である、中島さんの自伝的要素も描かれています。ビジネス書・自己啓発書というだけでなく、自伝エッセイとしても非常に面白く読めました。乙丸さんのアドバイスもあったんですか?

そうですね。もともとはブログの短い記事から「読んでもらえる」ように、どう面白い1冊の本にするか企画で詰めていきました。乙丸さんとしても、もちろん肉付けしたかった部分もあったと思いますが、私としてもやっぱり単にノウハウだけで書いたところで、読者に伝わらないだろうと思っていたんですね。「なぜ時間術が必要なのか?」その背景に私の仕事に対する「姿勢」をちゃんと書かないかぎり何も通じないだろうと思ったので、私もそこは力を入れて肉付けしました。

―なるほど。

最後は人生論的にまとめていますけど、乙丸さんと一緒に話し合いながら最後をどうまとめようかって時に、やっぱり最後の最後でグンと説得力が生まれるには、私が仕事に対してどういう気持ちでどういう考え方で取りかかっているのか?ということをちゃんと書かなきゃだめだなと思ったんですね。だから最後の章は企画段階ではなかったんですが、つけ加えたんです。それが結果としてよかったみたいですね。

―中島さんの経験の具体的なところもわかって大変面白かったという声も届いていますので、中島さんの「人間の声」がきっちり書かれていた本なんだなと思います。その経験の中から「時間術」を編み出されていった経緯も掘り下げてお伺いできたらと思うのですが。

私がマイクロソフトで働いた時に感じたのは、そのいわゆる「パフォーマンスが出る人」「仕事の効率がいい人」「仕事が速い人」はもちろん大事なんだけど、もっと大事なことというか、そのチームで仕事をする時に非常に重要な能力というのは、英語だと「アカウンタビリティ」(英: accountability)っていうんです。日本語だと「責任」と訳せばよいですかね。「この日までこれを仕上げると約束したら必ず仕上げる」。これは「1日でも速く仕上げる」ということではなくて「この人が10日で仕上げるといったら必ず10日で出てくる」といった信頼性です。もしくは「この人が無理だと言ったらものすごく難しいから先送りした方がいい」というチーム自体の判断になるものです。

この「仕事の難しさの見積もりがちゃんとできる」かつ「仕事を見積もったとおりに仕上げてくる」人こそが一番大事だなとうことがわかってきたんですよ。「速くやれ」とか「夜中までがんばってやれ」という話でもなく、この「アカウンタビリティ」がしっかりしていると、周りの人や、上の人は、とても仕事がやりやすいんですよね。仕事は結局チームで回すものなので。チームワークというかチームの一員としてやっていくための「アカウンタビリティ」の重要性というのがわかってきて、それを高めるにはどうしたらいいのか?そのための今回の時間術なんですよね。

―今のお話から想像すると、中島さん自身が人に仕事を依頼するにあたってこういう人が「一番助かる人」、もしくは「一番重要な人」だと判断したということでしょうか。

両面でしょうね。人に頼む場合もあれば、人から頼まれる場合もです。チームワークで何かを仕上げていく時に、うまくいかない人の部分で不具合が起こるわけですよ。だいたいチーム全体でやってて一人だけぽーんと遅れた結果、全部がガタガタと遅れたりするじゃないですか。

―なるほど。中島さん自身もその「アカウンタビリティ」で信用を得てきたこともあって、その「アカウンタビリティ」で仕事をする人たちを信用してきたと。それによってチームが固まって廻っていくということですね。

そうですね。その「アカウンタビリティ」がなぜ大事か?という必要性の部分と、その「アカウンタビリティ」を高める時間術についてこの本で書いてあります。

―これはエンジニアに向けた部分も強くあったとは思うんですが、「開発」というプロジェクトを進めるにあたって「アカウンタビリティ」が重要なポイントになるということですね。

そうですね、エンジニアに限らず、デザイナー、プランナーがいて、それぞれにそれぞれの方面から仕事が流れてきて、さらにその仕事を流していくじゃないですか。そういう全体のプロジェクトマネジメントで眺めた時に、それぞれの人の「アカウンタビリティ」が大事であることは一目瞭然なんですよね。ですから、結局リスクマネージメントでもありますよね。所謂「デスマーチ」とかいうものがあるじゃないですか。一つ遅れ始めたことで全てがガタガタときて、最後はどこまで遅れるかわからない、という。このデスマーチになるか、ならないか、というのは、結局個々の「アカウンタビリティ」にかかっているということですね。

―なるほど。よくわかります。ただ僕が読んだ率直な感想で、そういうPMBOK(※PMBOK=「プロジェクトマネジメント知識体系」)のようなプロジェクトマネジメント術というのともちょっと違いますよね。「計画をもれなく隙間なく綿密に立てて進めましょう」ではなく「最初のロケットスタートで8割片づけてしまい残り2割は流す」という「2:8の法則」を書かれていましたが、仕事における計画性というよりは、すごく体感的なものとして説明されていますよね。あたかも自分の身体をモノサシとして時間を測られているような。そういう具体的な時間管理術というか「見積術」はとてもユニークで面白いなと思いました。頭で「アカウンタビリティ」を理解してモノを進めるということだけでなく、もっと実践的といいますか、読者がすぐにでも取り掛かれるような具体的な提案をされていますよね。

そうですね。これは組織論の話じゃなくて、個々の人たちがどう具体的に対処していくべきかということを書いています。

―それを『ドラゴンボール』の「界王拳」をたとえとして「20倍界王拳」の集中力を使っているとか、僕らの世代だとぴったり腹落ちする言葉で説明されていてわかりやすかったです。

スーパーマンがいない中で「スーパーな仕事をする」にはどうしたらいいか

―もう一つ僕が読んだ感想をお話させていただくと、こういった非常に具体的な話の中で、中島さんのスーパーマン性というよりは、中島さん自身が自己限定を徹底化しているように映りました。自分の能力ができる範囲は泣いても笑っても「ここまで」なんだから、この範囲でどこまでパフォーマンスがあげられるか?を考えられていて、そのための細かいTIPSがさまざまに展開されるじゃないですか。「認知資源を無駄使いしない」であるとか「マルチタスクはなるべく避ける」であるとか。僕なんか仕事していますと、積み重なっていく仕事の「垢」みたいなものがあって、その結果「認知資源無駄使い」のまま仕事が進んじゃうし進めざるを得ないようなことがよく起きてしまうんです。そういうリアルな仕事の現場も理解したうえで、中島さんの自己経験から的確にアドバイスされているなと思いました。

そうですね。やっぱりスーパーマンはいないんですよね。だからスーパーマンがいない中で「スーパーな仕事をする」にはどうしたらいいか。そう考えれば普通の人が普通の集中力をどう高めるかの技術を考える。また時間配分におけるリスクを計算し時間をコントロールする。僕は一番嫌いなのは「時間に追われる」ことなんですよ。時間に追われだすと落ち着いて仕事ができなくなるから作業効率自体が落ちるじゃないですか。これがまさに仕事上における「時間が足りない症候群」だと思いますよ。時間に追われちゃうからですね。だから追われるんじゃなくて自分から追うようにする。すると、いつも落ち着いて仕事ができるようになる。また、高い集中力を維持しながら、ずっと「界王拳」で仕事は到底できないですよね。だから息抜きも必要だし、その息抜きをいつするのか、その緩急の取り方を含めて、仕事のペース配分ですね。どこで力を入れ、どこで抜くか。メリハリのつけ方も、ものすごく大事です。

―比較してしまうのもおかしいのかもしれませんが、アスリートがスポーツ科学的に日々の自己管理を徹底して本番でのパフォーマンスをより高めていくような話と、よく似ているような気もします。

そうですね。人間ですからね。機械じゃないですから。いや実は機械だってそうなんだけど、ある意味だましだまし使いこなさないといけないわけですよ。そうすると、たとえば私なんかはプログラム書いていてなにかの難関にぶちあたって煮詰まる時があるんですよね。これも経験則なんですけど、煮詰まった時になんとか進めようとしてもダメで、一度手を放してしまう。もう寝るとか、別のことするとかして、仕事から離れてしまう。それで戻ってきたときに、ふっと扉が開けるような時がある。おそらく人間の脳の構造みたいなもので、本当に煮詰まった時は、前に進めなくなるんですよね。そこで一度力を抜いて、他のことをする。一度その疲れを解きほぐしてあげる。そういうのって経験則から考える「自分の使いこなし術」じゃないですか。それをしないまま、ひたすら徹夜するとか残業するとかしても、結局時間の無駄で終わった経験を持っている人は本当に多いと思うんですよ。もちろん環境的にそれができないという人もいるのかもしれないけれど、やはりトータルのパフォーマンスを出す方に努力していった方がよいと思うんですよ。

―この時間術を中島さんが身につけていった経緯も書いていましたけれども、早い段階でというか、夏休みの宿題、高校時代の受験勉強から、その後の進路計画まで含めて、長らくその時間術を駆使されてきたように思うんですけれども、これは早い段階からそういうものであると理解していたことなんでしょうか。

そういうものだってわかっていたっていうよりも「そういう工夫をしないとまずいぞ」っていう強迫観念みたいなものはずっと持っていましたよね。

―それは誰かたとえばご両親とか先生とか、どなたかから教えてもらったということではなく、中島さん自身がそう思ったということですか?

そうですね。経験則として、たとえば中学・高校で中間・期末テストとかあるときに、寸前で徹夜で勉強なんかしても本当にうまくいかないんですよ。うまくいかないという経験が、ものすごく嫌だったから、じゃあどうすればよいんだろうな?っていろいろ試しているうちに、実は授業の始まる前に予習しておいて、授業中に復習する気持ちでやると、試験前に勉強しなくていいっていうことがわかるんですね。そうすると勉強する時間がトータル量で少なく済むんですよ。

だからこう書いてしまうと僕が勉強が好きで予習しているように思われてしまいそうですが、私は勉強が必ずしも好きなんじゃなくて(笑)、時間は大事にしたい、遊ぶ時間も欲しい、じゃあどうすすめたら一番短時間で効率よく勉強できるのかな?というのを試し続けたんですね。そうすると予習型が一番効率がいいとわかったということなんですね。また試験前はゆっくり寝ておくから睡眠不足じゃないフレッシュな頭で臨めます。経験を積み重ねてこういうことを徐々に学んでいったんです。でも、わりと「そういうことしなくちゃいけない」という強迫観念はずーっともってましたよね。中学生くらいに。

―ご本でよくわかるのは「嫌なことは徹底的に嫌」という姿勢ですよね。そこに耐えていこうというよりも嫌なことをいかに短く圧縮してなるべくそこにリソースを割かないかをずっと工夫されてきたような印象がすごくありますね。

そうですね(笑)。それは今でも変わりありません。


この続きは明日13日公開の後編で!日本人エンジニアとして「右クリック」「ドラッグ&ドロップ」を編み出した「伝説」の経緯、また中島さんが予測する10年後の未来について語られています。

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