「救い」のチャンスを仕掛けたい―『ラブという薬』刊行記念!精神科医ミュージシャン・星野概念さん独占インタビュー

こんにちは、ブクログ通信です。

前々回前回に続き、『ラブという薬』刊行記念独占インタビュー第3弾!今回はいとうせいこうさんの対談のお相手、精神科医でありながらミュージシャンとしても活躍される星野概念さんへのインタビューです!

いとうせいこうさん『ラブという薬
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星野さんが精神科医として『ラブという薬』に忍ばせた思い、ミュージシャンの顔を持つ星野さんの意外な来歴など、根掘り葉掘りをお伺いしています!精神科医は「分析」はあまりしない?!実はフレディー・マーキュリーになりたかった?!その真相は?

取材・文・撮影/ブクログ通信 編集部 持田泰 猿橋由佳

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星野概念(ほしの・がいねん)さんについて

精神科医・ミュージシャンなど。主な連載に、「めし場の処方箋」(Yahoo!ライフマガジン)、「本の診察室」(雑誌「BRUTUS」)など。音楽活動は、コーラスグループ星野概念実験室、ユニットJOYZ、タマ伸也氏(ポカスカジャン)とのユニット「肯定s」の他、□□□のサポートギターなども。

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無茶ぶりからはじまった『ラブという薬』

イベント直後に星野概念さんからお話をお伺いしました!

―今回の『ラブという薬』の出版計画は、いとうせいこうさんから急に「本出すよ」って無茶ぶりされた形で始まったことが本に書いてありましたが。

本当「急に」ですね。いとうさんとのカウンセリング期間も中期を過ぎて、カウンセリングなのか雑談なのかわかんないくらいの「いいカタチ」ができあがってきた頃ですね。ぼくは、「津久井やまゆり園」の事件のちょっと前までそこの嘱託医だったんですけど、その話を時々いとうさんにしていたんですよね。そしたら何度目かで、突然「これは緊急出版だな」みたいなこと言い始めて。本にも書きましたけども「出版社もライターももう決まっているから」とか言われて。「絶対決まってない」と思っていたんですけど(笑)。「『ラブという薬』っていう本出そう」って言われて「はぁ…」みたいな感じで(笑)。

―タイトルも最初に決まっていたんですよね。

「仮だけど」っていとうさんは言ってましたけど。「何だ?そのタイトル?」と思いました(笑)。

―でも、本になった今、「まさにこのタイトル!」というものが出来上がっていますよね。

まさにですねえ。すごいなあと思いましたね、やっぱ。いとうさんって本当そういう「勘」がすごいんだなあって。

―「津久井やまゆり園」の件のような、社会全体に対する問題提起の側面も示唆に富みますが、この本の核になるのは、「星野概念さんの傾聴力」の部分だろうと思います。話に耳を傾けるだけでなく、その共感力というのか、「あなたのことを心配していますよ」という気持ちが星野さんのカウンセリングの軸になっていますよね。

そうですね、確かにそうなりましたね。

―いとうさんへのインタビューでも話題にのぼったんですが、ライトにポップにユルく進みながらも、星野さんの回答はバランス良く目配りが効いていながら、深い透視力があって、非常に勉強になりました。

いやいやいやいや、もう、はい。ありがとうございます。

―いとうさんの時も話しているんですけど、ちょうどこの本を読ませていただく直前に、僕は人と大喧嘩をしていましてですね。これ読んだらもうすーっと怒りが収まって。

本当ですか?それはすごい(笑)。

―本当なんですよ。この帯どおり「対話のカタチをした薬」は効きました(笑)。ここで逆に精神科医としての星野さんへの質問なんですけども、「人の療養」を横から眺めているだけで、人は何か、癒されたりするようなことって起きてくるもんですか?

あると思います。やっぱり、第三者として「対話」を眺めているだけなんですけど、自分と重なる部分を探しながら見ているわけですから、それは「小説」だって「映画」だってそうでしょう。だから見ているだけの人も、自分が話す番が回ってくるわけじゃなくても、参加してる気分になったりして当然で、その中で「あなたは大丈夫ですよ」みたいな話になると、自分も「ああ自分も大丈夫なんだ」みたいな気分になる人は大勢いますよ。ぼくも確かにそうだなあと思います。

精神科医は「分析」はあまりしない

―やはりそういうものなんですね。今日もお話を聞きながらつくづく思ったんですけども、星野さんはいわゆる「お医者さん」っぽくないのがとても印象的で。

ああ。そうでしょうね。

―バンドを組んで音楽活動もやられいてる星野さんだからなんだろうとは思うのですが、お話のされ方が、あまり分析的じゃないですよね。観察的じゃないといいますか。

そうなんですよ。でもそれは、世間のイメージと実際が違うという話で、心理職の人って精神科医もそうですし臨床心理士もそうですが、別にそんなに「分析」してないんですよ。

―そうなんですか。

はい。「精神分析」っていう、結構パンチ力のある言葉のせいもあるかとは思います。でも「精神分析」で「分析」をするのにしても、ものすごい時間をかけるんです。本にも書きましたけれど、「1時間を週4回で年単位」とか、長期にわたって続けて行うものなんですね。なので、心理職の人はそんなに簡単に「分析」はできないんですよ。少なくとも面談中で話している時はしないですね。

―なるほど。そこは、「星野さんのパーソナリティ」と言うよりは、精神科医の方はみなさんそういう対応をされるということなんでしょうか。

そうですね、ただ、診療で何をするかにもよるんですけど。カウンセリングの始めに、「どういうことがあったんですか?」とか「今までどんな感じだったんですか?」って話を漠然と聞く時は、「分析」では全然ないです。そこから治療が少し進んで「では、この問題を扱って、深めていきましょうよ」っていう時は、それも療法によるんですけど、「分析」をするかな……。いややっぱりいわゆる「分析」というものではないですね。その人がうまくいくように「ちょっと導く」質問をするやり方なんです。

―なるほど。

だからやっぱり「分析」からその人の心の奥まで見透かして回答を出す、とかでは全然ないですね。

―全然ないんですね。

はい。あるとすれば「一緒に見透かしていこうか」みたいな感じです。

「触媒」の位置から生まれる「傾聴力」

―そこが典型的な「傾聴力」って言えるものなのかとも思うんですが、いとうさんにもお話ししましたが、その「傾聴力」がよく表れていた部分がありましたね。いとうさんが、不意に疑問に思ったときに、「何なんだろうな?……」って言い淀んでいると、星野さんが「何だと思いますか?」とつなぐと、いとうさんがパーッと自分で話し始めていくという。

そうそうそう、そうなんですよ。そういう…別に「あなたはこうこうこうです」とか「こういう過去があって、こうこうこうだから、あなたはこんな人ですよ」みたいな真似はしないんですよね。だから、診療が占いに似てるとか言う人もいるんですけど、占いは「示唆」を与えるじゃないですか。「あなたはこうです、だからこれに気をつけてくださいね」とか言うじゃないですか。精神科ではそういうことはしないんですよ。「今週はどうしましょう?何に気をつけていきましょうか?」と聞いていく感じなんですよ。

―なるほど。何事も決めつけないんですね。

そうですね。相手の話を聞きながら、「それ良いと思いますよ」とか、「それじゃなくてたとえばこういうのはどうですか?」みたいな提案をする感じです。「やれそうですか?」「じゃあやってみません?」みたいな感じなんですよ。主体はこっちにはないです。主体は相手側であってぼくは「触媒」のようなものですね。

―相手が変わる「きっかけ」もしくは、変わりやすくなる「環境」を用意してあげるんですね。

そうですね、はい。

―この本やイベントでの空気感も、「何も構える必要ないんだよ」っていうメッセージがありますよね。

そうなんですよ。

―本の中でも書かれていましたが、自分のかかりつけの歯科医がいるみたいに「自分のカウンセラーがいる」っていう感覚がもっと日本で普及するといいのかもしれませんね。

それがいいと思いますけどね。でも、なかなか難しいんでしょうけど。

―ちょっとした警戒心はぼくの中でもやっぱりありますね。なんか…

そりゃそうですよね(笑)。

―今回は現実の精神科医さんとクライアントの関係で、こんなあけすけにいろいろ喋られていて。

そうなんですよね。だからやっぱりこの本は、他にはないですね。普通この形はないですもんね。匿名的な症例報告ものはあったとしても、そのまんまこういう形の本っていうのはないですよね。

―そうですよね。よく実現されたと申しますか。

患者が、とにかく「言いたがり」だったっていう(笑)。みんなに「言いたがり」だったって、たまたま。その軌跡ですよね、この本は。

星野さんに「見抜かれて」から、いとうさんが「見抜いた」

―いとうさんが星野さんの診療を受けることになった、そもそものきっかけもすごく面白いですよね。いとうさんと組んでいるバンド「□□□(くちろろ)」のレコーディング中に、いとうさんが、ある「間違い」を犯して、それを見た星野さんが「日常生活の錯誤行為」だと指摘した。その後で、いとうさんが衣裳のサンタの格好のまま「ちょっと今度カウンセリングに行っていい?」と依頼してきたんですよね。

と言うよりも、いとうさんの「間違い」に対して僕が何気なく言った言葉をいとうさんが「これはフロイトが言うところの錯誤行為では?」と解釈したんですね。そう解釈されていたことは僕は知りませんでしたが。依頼を受けた時は、確かにお互いサンタでした(笑)。

―でも、星野さん自身はそのエピソードは憶えていらっしゃらないんですね。

はい。憶えてなかったです、でも、その一言をいとうさんは憶えていて、「こいつすごいなって思った」っておっしゃっていましたけども。

―星野さんに「見抜かれて」から、いとうさんがその星野さんの能力を「見抜いた」みたいな関係がとても面白いですね。「そうか、君は精神科医だったよね。ちょっと行くから」っていうその流れは、通常は起き得ないと思うので。

そうですねえ。なかなか(笑)。

―すごくユニークな形で始まって、こんなポップな本の形になってよかったと思います。でも、イベントでお話しされていましたけれども、いとうさん、初回は大変そうだったんですか。

そうですね。しばらくはかなり大変だったと思います。

―そうですね。そういう中で、こういう本を作ろうって企画したのはいとうさんなんですよね。なぜなのでしょうね。

何ですかねえ。何で対談本を作ろうっていう風に着想されたのかは、未だによくわからないですけど、ぼくも(笑)。

―イベントでもおっしゃってましたけれど、本の内容もやっぱり「診察室でもそのまんまですよ」って。会話のリズムでも、そのまま「地」が出てて、星野さんのことを知らない人が読んでも、すごく親密な気持ちになれるような気がしますね。優しさに満ちている本だなとつくづく思いました。

そこは確かに。「誰も傷つかない本を作ろう」みたいなことを最初にいとうさんがおっしゃってたような気がするんですよねえ。

―なるほどそうですか。こういう本の続編が今後刊行されていくと面白いなと個人的に思っています。「対話のカタチをしたクスリ」は、多分、いろんなタイプがあると、より処方しやすいですよね。「人の悩み」というのは個別的なものではないかなと。

そうですね。全く同じ悩みっていうのは、人って持ちえないと思うんですけど。さっきもお話ししたように、悩みの相似形っていうか、例えば人の悩みに、読者が勝手に自分を重ねるみたいな。だから、悩み相談で難しいのは、具体的な悩みには具体的に答えなきゃいけないんですけど……。

―……むしろ抽象的に答えた方がいい?

……いや。こういう個別的な悩み相談でも、ちゃんと「具体的に」答えてもいいですよね。その具体的な解決策を聞いて、全然関係ない違う悩みを持っている人が「なるほど、こうすればいいのか」って思うことあるかもしれないですね。

―そうですね。なるほど。

急に今思考がどっか行っちゃったんですけど(苦笑)。

―治療の現場でも決まったルートで上って行かずに、その場その場で臨機応変に行く道を変えていくっていう感じなんですかね。

そうですね。

「知っている」のと「知らない」のでは「救いの度合い」が違う

―「悩み相談」がなんで人類末永く続いているヒットコンテンツかと考えると、自分のものではない人の悩みを聞いてその対処法を知ることが、一種のカタルシスなんでしょうかね。「文春オンライン」で「星野概念さんに聞いてみた」で連載されてる内容も、どちらかといえばそういう印象があります。

それはあるかもしれないですね。後は、人が生活していく中で、こういう精神医学や心理学の知識があるのとないのとでは、「救いの度合い」が違うかなっていう風に思っていて、だからぼくとしてはちょっと「アウトリーチ」(※援助が必要であるにもかかわらず、自発的に申し出をしない人々に対して、公共機関などが積極的に働きかけて支援の実現をめざすこと。医療機関が、在宅の患者や要介護者を訪問して社会生活を支援する活動などを指す)に近いアプローチをしているのかもしれませんね。

精神医学や心理学のアウトリーチ活動みたいのを、この『ラブという薬』なんかまさに本で実施している。例えば、ストレスのモニタリングの仕方って、あれを知っているのと知らないのとで、混乱の仕方が全然違うんですよ。それはぼく自身が実感していて。だからそういうのを、こういう一般書とかで、わかりやすい形で伝えていくのが大事だなと思っていますし、やりたいなと思っていることなんです。

―なるほど。よく言われるストレスへの対処法として「何か悩みがあればそれを書いた方がいい」というのがありますよね。ただ「なかなか書いてくれる人は少ない」とイベントでおっしゃっていましたが(笑)。

そうなんですよ(笑)。

―でも、それを「知っている」ということは将来、本当に苦しいときに「星野さん、書いた方がいいって言っていたよなあ」と思い出して書きはじめることもあるかもしれない。知らないとそんなこと思いもよらないでしょうから。

そうそう。そういう将来的なチャンスをいろんなところに仕掛けておきたいんですよ。

―それと、この本がもっとがっちりとメンタルヘルス系の本だったら手に取りにくいかもしれないですね、このポップな見た目にひかれて手にとって見て対談本として読み始めたとしても、本の中にはきつい現実に直面した時にどうすればいいか、具体的な対処法がしっかり書いてあって、思いがけず精神科についての知見が深まっていくという。

そこも良かったなあと思って、結構しっかりと、図やシートもかなり気を使って作ったんですけど。

フレディ・マーキュリーになりたかった星野概念さん

―少し話は変わって、星野さんご自身へのご質問になりますが、精神科医のかたわら音楽活動やいろんな表現活動をされているじゃないですか。今回の本はその「アウトリーチ」という形で表現されたものだと思うんですけれど、これも一つの「表現」でもありますよね。でもお医者さんですから、日々診療でやられている行為は、傾聴の部分含めて、スタンスは基本的には裏方じゃないですか。

そうですね。

―この「表現者」として表に出ることと、裏方としての活動のスイッチングはバランスが取れているんですか?

結構難しくて、難しいっていうか……。ぼく、昔は自分でバンドやってたんですよ。その時は、本気でフレディ・マーキュリーになりたいと思ってたんです。

―何言ってんすか(笑)。

いやいやいや、ほんとにほんとに。タイツ履いたりとか、どぎついタンクトップ着たりとか、ダンススクールに通ったりとかして。その頃、ぼくはフロントマンで前に出る役割だったので、ライブで煽るみたいな、コール&レスポンスしたりしていたんですよ。でもバンドをやめてからは、自分の中のバランスが精神科医としての自分の方に傾いたので、それからは、自分を出すよりも、「受ける」方が性に合っているのか。普段やっているからそれがいいと思ってんるかもしれないんですけれど、今は完全に「受ける」方になってしまって。だから、今とか自分が前に出てやるライブとかは、何ていうか、パンチがもう全然ないんですね。アジテートとかもう全然できないんで。

―そうなんですか(笑)。

そうですね、「別に聴かなくてもいいけど、とりあえずやりますね」とかいって始めたりしっちゃって。ただ、「□□□(くちろろ)」もそうですし、昨日もthe band apartってバンドのボーカルの荒井君って人のサポートだったんですけど、サポートミュージシャンとかは割と性に合うんですよ。

―なるほど。

後は作るとかは、曲を作るとか、トラック作るとかは、いろんな人と話せば話すほど、自分の思考が多層的になるので、それは、音楽を作るとか歌詞を書くとかでも影響はし合ってると思うんですけど。ただパフォーマンスをする時に、「なるべくカリスマ性を消したい」と思うようになっちゃった。昔はフレディになりたかった男が、今はなんか、ジョン・ディーコンみたい…まあQUEENでばっかたとえてますけど。

(一同笑)

精神科医も音楽活動も含めた総体が「星野概念」

―それは、きっかけがあったんですか?それとも少しずつ精神科医の方へ自分の進路を定めてくことで、そちらのほうが楽しいと思うようになったってことですか?

たぶん、どっちかって言うと、今のほうが性に合ってるんですね。バンドやってた時はちょっと無理してたんですよ。ある意味、自己暗示かけて、変な格好して、謎のMCをするみたいな感じで。それはたぶんきつくなりすぎて、最後は全身タイツでPVを撮って、解散したんですけどね。もう酷い。

―でも、音楽もまだやめずに活動されていますよね。やっぱりそこが、全体のバランスとして、精神科医も音楽活動も含めた総体が星野さんっていうことですね。

今はそうです。昔は乖離していましたね。音楽やっているときだけ別人格になっていたっていうか。だから、変身して音楽やっているみたいな感じでした。でも変身しきれてなかったんですよね。もっと売れていたらもしかしたらぼくは相当ヤバいことになっていたかもしれない。

―激務のお仕事もされている中での、個人的なストレスに関しては、先ほどイベントでは「発酵」が好きとかお酒が好きとか、そういう形で解消されていているとのことでしたが、今安定されていますか?

安定してますね。なんか…、そうですね。趣味が…、何が趣味かは自分でもわからないんですけど、新しいことを知るのがたぶんぼくはすごい好きで、興味を持てるものがいくつかあるから、安定してるんだと思います。なんかもう、疲れたらそういう…『もやしもん』読み直そうとか(笑)。

―なるほど。その「発酵」の世界も精神医学の世界に何か通ずるものがあるんですか?

めちゃくちゃありますよ。やっぱり、心理臨床って、因果律では言い切れないんですよ。何かがあったから、必ずこうなったとかみたいな感じじゃなくて、もっと複雑なんです。複雑なことがあって、今の自分がいるし、なんかいろんな事情がたまたま重なって、こういう気分になっている。だから、全て因果律で改善しようとすると、できないことがたくさんあるんですよ。発酵も、システマティックな因果律にはなってはいるんですけど、全然意味わかんない菌がやってきたことで、たまたまこういう醸しになって、こういうのが生まれました、とか。あるお茶があるんですけど、そのお茶は、特殊な環境にある微生物が活動することで、その地方にしかない独自のものになるとか、そういう不思議なものばかりです。

―面白いですね。ちょうどブクログ通信でも発酵学の先生にインタビューも実施していたりしますのでわかります。「発酵」って奥が深いですよね。星野さんといとうさんとの対話が結果的にこういう形で本になって出るっていうのが、発酵的な感じもしますね。

なんかグレゴリー・ベイトソンって人が居て、その人もともと精神科医で「家族療法」を考えた人なんです。「人間関係は直線的じゃなくてもっと円環的に考えよう」みたいな、「いろんなものが作用しているぞ」みたいな。ベイトソンは、その後よくわかんない生物学とかもやっていて、ぼくはそういう人が好きなんだと思います。よくわかんないけど、興味が向くままにいろいろ突き詰めていって、最終段階になってもやっぱりよくわからない。けど言っていることはいちいち面白いみたいな。

―そうですね。確かに、星野さんはそういう方向が向いてそうで面白いですね。

思いつきで生きてるっていうだけかもしれませんけど(笑)。

―貴重なお話をありがとうございました!


いかがだったでしょうか?3週にわたって『ラブという薬』刊行記念インタビューを実施しました。いとうさん、星野さん、お二人の軽妙な対話の力もさることながら、トミヤマさん、加藤さんのお二人の編集力がかけ合わさって生まれた「本のカタチをした薬」。ぜひみなさんも手に取ってみてください!

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