「あゆみちゃんって”理想の私”かも知れません」– 新井素子『新装・完全版 星へ行く船シリーズ』発売記念!独占インタビュー

現在サイン本のプレゼント企画を実施中の『新装・完全版 星へ行く船シリーズ』が本日9月16日刊行開始。ライトノベル作家の草分け的存在として知られている新井素子さんの方向性を決定づけた記念碑的作品にして、長らく再刊が待たれていたファン待望のシリーズが、書き下ろし短編4編に加えて、作者自ら「手入れ」をした形でついに完成版としてカムバックを果たしました。来年作家活動40年を迎える新井素子さんにメールインタビューをしました。

インタビュー協力/出版芸術社  編集部 

2冊同時発売の書影は「左があゆみちゃん、右が太一郎さん。2冊並ぶと、二人が見つめ合っている」

―まずは、『新装・完全版 星へ行く船シリーズ』発売おめでとうございます。

ありがとうございます。『星へ行く船』は、多分私の初期の代表作にあたると思うのですが、最初が文庫だった為、なかなか再刊ができず、今回、出版芸術社さんに出していただけて、本当に嬉しいです。

―「新装・完全版」ということで、装丁や書籍のサイズなどいろいろ変わりましたが、ご感想は?

『星へ行く船』『通りすがりのレイディ』を2冊同時発売することになって、みなさんがとっても考えてくれました。2冊が平積みで横に並んでいることを前提にして。左があゆみちゃん、右が太一郎さん。2冊並ぶと、二人が見つめ合っている。素敵だと思っております。(是非、書店さんで、2冊並んで平積みにしていただきたいものだと……。)

「2冊並ぶと、二人が見つめ合っている」同時発売の『星へ行く船』『通りすがりのレイディ』
「2冊並ぶと、二人が見つめ合っている」同時発売の『星へ行く船』『通りすがりのレイディ』
本屋さんで並んで平積みだったら嬉しい!

「完全版」はシリーズ書き下ろし短編収録の他「手をいれたっていう意味では、とっても手をいれました」

―「完全版」とは、何が、どう完全なのでしょうか?

んー、直す処はもうない、作者本人が文句ない、こういうんで”完全版”って言っちゃ……駄目? あと、コバルト版では別の本にはいっていた「αだより」(※1)と、水沢事務所のみなさんの書き下ろし短編が入ってます。

※1『星へ行く船』シリーズは集英社コバルト文庫全5巻が1981年から発行されました。短編「αだより」はシリーズ外作品に収録されておりました。

―今回、だいぶ手を入れられたことですが、どのようなところが変わっているのでしょうか?

えっと、手をいれたっていう意味では、とっても手をいれました。……けど……これ……どう説明したらいいんだか。やたら一杯手をいれましたので、結果として、すっごいくだらないところでも手をいれてます。たとえば、”スチュワーデス”さんを”キャビンアテンダントさん”にするとか。でも、これ、どうでもいい”直し”ですよね? もうちょっとちゃんとした”直し”も結構あるんですが、これはまあ、あんまり言わない方がいいかなあ。言わぬが華ということで。

35年ぶりに描いたキャラクター達「書いている私の気持としては、”書いている”んじゃなくて、”会っている”になります」

―コバルト文庫さんの『星へ行く船』の発売から35年経ちますが、今回新たに書き下ろしを書かれるにあたって、苦労されたことはありませんか?

いや、楽しかったです。すっごい久しぶりに水沢所長や熊さんに会えて(書いている私の気持としては、”書いている”んじゃなくて、”会っている”になります)、懐かしくって嬉しくって、楽しかったです。

―新井さんの中での35年という時間の流れは、このお話のキャラクターたちにどんな変化をもたらしていますか?

一番驚いたのは、私の体力が衰えていること。いやあ、35年前の私は、とても元気だ。読み返してみて、今の私は、とてもこいつらについてゆけない気分で一杯です。今だったら、絶対、こう書かない。というか、あり得ない(体力的に)。それを、昔の私が書いている。うん、あの時は、こう書くのが、体力的にあり得たんだろうなあ。凄いな、昔の私。ほんとに元気だ。

『星へ行く船』は執筆のきっかけは、池袋駅で太一郎さんの台詞が降ってきた?!

―もともと『星へ行く船』はいつ頃、どんなきっかけでできたお話でしょうか?

一番最初は、池袋駅でした。できたばかりの有楽町線の前を通った時、「あんたはほんとに運がいい。だって、俺とお知り合いになれたんだから」っていう、太一郎さんの台詞が、いきなり頭の中に浮かんでしまい……そして、このお話を、作りました。(そんでもって、にもかかわらず! この台詞は、『星へ行く船』には入らなかったんですよっ! いや、内容から言って、この台詞がはいっちゃまずい。その為、『雨の降る星 遠い夢』を書いて、結果、このお話は、シリーズになってしまったのでした。)

―『星へ行く船』『通りすがりのレイディ』『カレンダー・ガール』『逆恨みのネメシス』『そして、星へ行く船』とありますが、初めから構想は決まっていたのでしょうか?

まったく決まっておりませんでした。シリーズとしての全体構成を作ったのは、多分、『カレンダー・ガール』を書いたあとです。(いや、だって。もともと、『星へ行く船』の決め台詞が書けなかったので、『雨の降る星 遠い夢』を書いたんですね。この時点では、シリーズなんてまったく考えていない。ただ、この本が結構評判よかったので、『通りすがりのレイディ』が書けて、それでやっと、シリーズになったんです。)

「ほんとにキャラクターが勝手なことしやがって、この収拾を作者である私にどうつけろというんだ」

―35年前まで記憶を遡っていただきたいのですが。執筆中、楽しかったのはどんなシーンですか?

勝手に書いているシリーズでしたので、大抵の場面は、書いてて楽しかったです。ただ、笑ったって言えば……『カレンダー・ガール』の一シーンかなあ。セレスに行く宇宙船をスペースジャックして、「セレスに行くな」って言ったあと、「セレスに戻れ」って処。この瞬間、書いている私は、机につっぷして、「何やってんだよー!」って叫んで、のち、大笑いした記憶があります。(この辺、キャラクターがまったく勝手なことやってましたから。)ここまでキャラクターに勝手なことされると、もう、作者としては笑うしかなかったです。

―逆に、苦労されたシーンは?

ですので、一番苦労したのは『カレンダー・ガール』のそのあと。ほんとにキャラクターが勝手なことしやがって、この収拾を作者である私にどうつけろというんだ。どうやればこの収拾がつくんだ。

「今、読み返してみると、この子は本当に強い。なんか、今となって思ってみれば、あゆみちゃんって”理想の私”かも知れません」

―あゆみちゃんが家出をするところからお話が始まりますが、新井さんは家出のご経験は?

家出……。子供の頃は、夢みてました。一回は、やってみたいものだよなあ。んでもって、『十五少年漂流記』みたいなことをやるの。……現実的には、できる訳がないのであって、やってません。

―あゆみちゃん、麻子さん、レイディ……と多くの魅力的なキャラクターが出てきますが、新井さんが一番似ているのは誰ですか?もちろん男性キャラクターでも構いません。

ま、全員、私の一部ではあるんですが。基本、書いている時は、一人称小説ですので、あゆみ=私って気分でいました。ただ、私はこんなに純粋で(莫迦ともいう)、まっすぐで(場の空気が読めないとも言う)、強くはない。今、読み返してみると、この子は本当に強い。なんか、今となって思ってみれば、あゆみちゃんって”理想の私”かも知れません。

「今まで読んでいて下さった方、どうもありがとうございます。初めましての方、よろしくお願いします」

―新井さんにとって、『星へ行く船シリーズ』という本は?

とても大切なお話です。作家としての私が、多くの読者の方に受け入れてもらえた、そういう契機となったお話でもありますし、今、読み返してみても、ほんとに私の原点のようなお話だと思っております。

―シリーズ番外編(『星から来た船』)については、今後刊行のご予定はありますか?

……どうでしょうか……。このシリーズが、ある程度売れてくれると……うーん。

―最後になりますが、『星へ行く船シリーズ』のファンの方、そしてこれから初めて読まれる方に向けてメッセージお願いいたします。

今まで読んでいて下さった方、どうもありがとうございます。初めましての方、よろしくお願いします。気に入っていただけると、本当に私は嬉しいのですが。

公式ブクログ談話室公開!「新井素子さんにこの際聞きたいこと!」大募集中!

著者の新井素子さんへの質問をブクログ談話室で募集中です。みなさんからの質問は、新井素子さんに回答いただき、9月28日(水)に公開予定の記事で公開します。たくさんの質問をお待ちしています!

質問募集期間
9月20日(火)終日

ブクログ談話室はこちら

著者 新井素子さんについて

araimotoko

1960年東京都生まれ。立教大学ドイツ文学科卒業。 77年、高校在学中に「あたしの中の……」が第1回奇想天外SF新人賞佳作に入選し、デビュー。少女作家として注目を集める。「あたし」という女性一人称を用い、口語体で語る独特の文体で、以後多くのSFの傑作を世に送り出している。 81年「グリーン・レクイエム」で第12回星雲賞、82年「ネプチューン」で第13回星雲賞受賞。99年「チグリスとユーフラテス」で第20回日本SF大賞をそれぞれ受賞。「結婚物語」、「銀婚式物語」、「もいちどあなたにあいたいな」、「未来へ……」など著書多数。

新井素子さんの作品一覧