「若者のビール離れ」はおじさんたちがいけない!?―ブルーバックス『カラー版 ビールの科学』編著者・渡淳二さん独占インタビュー

こんにちはブクログ通信です。

ブクログでは、科学新書レーベルでおなじみの講談社ブルーバックスと協力して毎月最新巻の献本企画をしていますが、今回は夏の特別編!
6月の献本企画で取り上げた『カラー版 ビールの科学 麦芽とホップが生み出す「旨さ」の秘密』の編著者、渡淳二さんのイベント「ビールの科学とロマンを語る」(2018年7月24日@教文館9階ウェンライトホール)に潜入!イベント前に独占インタビューを実施いたしました。

春の酒税法改正からビールの最新潮流、ビールの長い歴史。また「若者のビール離れ」の本当の理由とは?!猛暑が連日続きますが、こんな季節にもっとも相応しい「ビール」の魅力に迫ります。

取材・文/ブクログ通信 編集部 持田泰

編者:渡淳二(わたり・じゅんじ)さんについて

京都大学農学部農芸化学科を卒業後、1980年サッポロビール株式会社入社。途中、東京大学農学部研究生、フィンランド国立技術研究所(VTT)visiting scientistなどを経て、2005年から同社価値創造フロンティア研究所長を務めた。2008年3月より同社取締役執行役員、2014年3月よりサッポロホールディングス株式会社取締役。2017年同社常務取締役グループR&D本部長を退任、現在同社顧問、公益財団法人サッポロ生物科学振興財団理事長。ビールはもちろんのこと、あらゆるお酒に造詣が深く、お酒に合う料理の探求や酒類文化の啓蒙にも余念がない。博士(農学、東京大学)。

日本の酒税は高い?

イベント前に渡淳二さんにお話をお伺いしました!

―今回『カラー版 ビールの科学』は、2009年に出たものを大幅加筆にアップデートした改訂版ですね。2018年4月1日に酒税法改正(※)がありましたが、改訂版を出す契機にもなったのでしょうか。

もともと『ビールの科学』は、ありがたいことに毎年夏場に増刷されるロングセラーだったんです。ただこの10年の間に、ノンアルコールビールやクラフトビールの流行なんかがあって、その大きな動きについてはあまり書かれていなかったんですね。だからそれを加えた形で改訂してほしいというオーダーが、以前よりブルーバックス編集部から入っていた。酒税法改正については、近年話になって注視しており、依頼があってから国の資料とか丹念に読み込んで書いたんですけど、改訂のタイミングで酒税法改正が重なったのは偶然っちゃ偶然です。

―約10年来のアップデートで最新情報が豊富でしたから、簡単な改訂ではないなと思いました。いろいろ偶然が重なってちょうどよいタイミングになったんですね。しかも今年は梅雨明けも早く、とにかく猛暑ですから、本当にタイミングばっちりでしたね。

「ビールなのでやっぱり夏には間に合わせましょう」と言っていたんですが、更新しなくてはいけない情報も多くあったおかげで分厚くなりましたね(笑)。酒税法が変わる時って、具体的に何が変わり今後どうなるのか、その「解釈」は難しいんですよね。そういうところをわかりやすくどう書くのかという部分は苦労しました。

―なるほど。

ちょうどいろいろな意味で「ビール」というものが変わるタイミングであることも事実なんですよ。だいたい酒税法が変わる時には、大きな「お酒の変化」が起こるんです。今回の酒税法改正で、1908年以来110年ぶりに麦芽比率が変更されたので、また麦芽以外の使える副原料が大幅に増えたので、ビール類全体の流れが大きく変わるだろうと思います。

―本書でも触れられていましたが、日本の酒税というのは、世界的に見てもとにかく高いのですか?

税金に関しては、あまり迂闊なことも言えないのですけど(笑)。たとえば、ヨーロッパと比較すれば高いというのはあります。ただ日本並みの高い国もあるにはあるんですね。北欧だとかイギリスもやや高めだと思います。でも一般的にはやっぱり日本の酒税は高いっちゃ高いんですよね。

―今回の酒税法改正が完了してもなお高いですか?

高いですね。ただ一般論として「日本の酒税は高い!」といくら国に言っても「それはそうなってんだから」って話になってしまうので(笑)。酒造組合とか業界団体から「やっぱり消費を伸ばすためには、世界的な比較から見て少し高すぎやしませんか」と提案していかないといけないですね。国から見れば「わかりました安くしましょう」とそう簡単に言ってくれるかというと難しい話になるとは思います。

※2018年4月1日酒税法改正。麦芽比率50%以上であれば「ビール」表示可能に(改正前は麦芽比率約67%以上)。加えて、果実・香辛料・ハーブ・野菜・茶・かつお節なども原料として認められる(改正前は麦芽比率をクリアしていても認められた原料以外のものが入ると「発泡酒」扱い)。またビール系飲料(ビール、発泡酒、第三のビール)にかかる酒税を18年度から26年にかけて段階的に統一する。「ビール」は減税し「発泡酒」と「第三のビール」は増税となる。

「コク」と「キレ」をドイツ語でいうと?

―『カラー版 ビールの科学』は、その最新の酒税法も含めてですけれども、ビールというお酒の科学的な解説から、世界のさまざまなビールの紹介、また人類とビールの歴史までコンパクトにまとめて書かれていて、とてもわかりやすくて面白かったです。とくに、歴史の部分では食が文化であるのと同じようにお酒も文化そのものなんだとよく理解できました。驚いたのが、日本語でビールに使う「コク」「キレ」というのに対応する言葉がドイツ語にもきちんとあるんですね。

そうですね。もっとも「ニアリーイコール」ではあるんです。こういう官能評価の言葉って難しいところがあります。でも「フォルンディッヒカイト」「シュナイディッヒカイト」が、日本の「コク」「キレ」だというのは、だいたい当たってはいますね。「コク」はもともと日本酒の用語です。「ゴク味」という言葉があって、味が単調ではなくいろいろな味が豊富に潜んでいてそれらがバランスよく調和しているときに生じる濃厚さを指すような言葉です。「キレ」ももともと「切れ味」という日本酒の用語ですね。

―なるほどそうですか。もともと日本語にあった言葉なんですね。てっきり、ドイツ語に言葉があったのを日本のビールメーカーが現場的に訳した隠語なのかと思ってました。

ビール醸造の現場でも昔から使っているようなんですが、どういう経緯から使われ始めたかまではわかりません。その「コク」の「フォルンディッヒカイト」をまた英語になおすと微妙にズレが出てくるんですけども。

―英語だと“Full body”(フル・ボディ)だと書いてありましたね。

そう。でもそれはそもそもワインの表現なんですよね。その「ボディ」って「濃厚さ」のことを指すのかっていうと、そういう意味だけでもないんですね。またビールでも使う「ドライ」というのももともとワインの用語だと思います。

―ああなるほど。そうですよね。

白ワインの辛口を表現するのに「ドライ」という言葉を使いますが、今じゃビールの味の表現に使うこともあります。だからそういう言葉っていうのは、そのお酒だけの専門用語に収まらずに、他にもどんどん転用されるものなんですよね。わかりやすいということで。

―他にも “Drinkability”(ドリンカビリティ)という言葉も紹介されていましたね。「飲み続けられる」という意味だそうですが、はじめて聞いた言葉です。

「ドリンカビリティ」は比較的最近使われる表現ですね。これもドイツ語では“Weitertrinken”(ヴァイタートリンケン)っていうんですよ。“weiter”とは「さらに」とか「いっそうの」って意味ですね。それが英語だと“Drinkability”(ドリンカビリティ)になる。これもやっぱり「ニアリーイコール」なんですけどね。感覚に関わる言葉って、その国の文化や民族や言語の幅があって、簡単にイコールにならないんですよ。だからその「ニアリーイコール」であるという部分がとても大事です。

「飲み続けられる」ビールの不思議―「ドリンカビリティ」

―「ドリンカビリティ」は日本語の「のど越し」とも微妙に違うんですよね。

「のど越し」は、喉の感覚ですから「うどんののど越しがいい」という時、喉を「すっと通る」とか「つるっと通る」という意味合いですけども、「ドリンカビリティ」と言われているものは「もう1杯飲みたくなる」というか「あとに続く」っていうような意味になるんですね。昔、「何杯でも飲める」ということで「酒量」を指すことだと少し勘違いもしていたんですが、それだけではないんですよ。「1杯飲む。もう1杯飲む。さらにもう1杯飲みたくなる」ということなんです。経済学でいう限界効用の逓減しにくさということです。ビアホールで生ビールは1杯飲んですぐ「もう1杯飲みたい」となると思うんですが、これは香りや味や温度とか喉の感覚とかいろん要素が絡んでくるものなので、一言では説明しがたい。まだ「ドリンカビリティ」は完全には定義されていないんですよ。

―本でも書かれていましたが、他のお酒と違ってビールの利尿作用効果もあって飲んだ量の1.5倍水分を排出すると。

それもありますね。水は飲めないですけど、ビールは1リットル飲める(笑)。だから、かえって水もきちんと飲まないといけないって言われていますから。ホップとアルコールに利尿作用があるので膀胱の回転が良くなるんです。

―たしかにビールをザルのように飲み続けられる人がいますよね。知人の体育会系の人なんてもうとんでもない量を一晩で飲みますね。

あんまり飲みすぎちゃいかんとは本には書いてますけども(笑)。でも一度に飲める量の多さでいうとビールが最大でしょうね。

―ビールほど飲める液体ってちょっと見つからないですよね。

やっぱり「ドリンカビリティ」高く飲める飲料はビール以外にあまりないんですよ。ビール以外であえていえば、炭酸飲料くらいでしょうか。

「若者のビール離れ」は大人たちがいけない?

―そんな「飲み続けられる」ビールですが、昨今は「若者のビール離れ」みたいな話もありますね。渡さんはそれをどう思いますか?

今の「若者のビール離れ」の一つに、子供の頃からいわゆる「ソフトドリンク」に慣れているので「苦い」のが嫌だということはあるかもしれない。生活がアメリカ化しているのでそうなっちゃいますよね。我々が子供の頃「ソフトドリンク」なんて飲まなかったですからね。でもこれも一部だろうとは思います。

―「ビールがあらゆる料理に合う」とも書かれていましたよね。その料理のお供としてお茶のように最適であると。

そうですね。今の日本で通常ビールといえばピルスナー系ビールですが、それはそれに近いでしょうね。だけど、たとえばクラフト系ビールなんかは事情が違いますね。エールビールとかベルギービールなどの上面発酵系ビールは「じっくり飲みたい」ビールなんですね。

―もっとビールをメインで楽しむようになれるものなんですかね。

そうですね。だから今「若者のビール離れ」って言ってもちょっと僕は違うなあと思っているんですけれど、クラフト系の店とか、クラフトビールのお祭りとか行くと、若い人ばっかりですよ。

―ああそうかもしれないですね。何度か行ったことありますが、たしかに若い子が来ている印象ありますね。

クラフトビール祭りでは、グラスを3,000円ぐらいで買っていろんなビールを楽しめるんですけど、若い子はみなそこで3,000円、5,000円払うんですよね。そこで、おいしい料理も皆でシェアしながら美味しいビールを飲む。そういうことをけっこう楽しんでます。そういうところにはおじさんはあまりいないですね。

―たしかにそうですね。

若い子たちはやっぱりそういう「楽しむ雰囲気」をとても大事にしているんだと思うんですよ。だから一般的に若い子からビールが避けられるようになった理由は「飲み方」なんじゃないかと思うんですね。これは大人である我々の世代も我々の先輩も悪いんですけども、「飲む作法」って言ったら変なんですけど、おじさんって飲むと「説教」とかするじゃないですか(笑)。

―ああ、なるほど(笑)。

そういう「昭和的な飲み方」が今の若い人は嫌なんですよ。

―それはそうですよねえ。

しかも仕事終わって、昔は上司が「今晩付き合え」っ言ったら若い子が断れない時代もありましたけれど、今は「用があるんで」って普通に断りますからね(笑)。だから、そういう意味で「考え方の違い」があるんですよ。だから彼らは「ビールが嫌い」なんじゃなくて、「そういう飲み方」とか、「そういう付き合い方」が嫌いなんですよ。自分は自分で楽しみたい。

「コミュニケーションのお酒」としてのビール

―ビールそのものじゃなくて、その「昭和ビール世代の付き合い方」のでせいで、ビールが悪い象徴になってしまっている。

悪い場合にはですね。たとえば、今はアルコールを強要するのはダメでしょう。瓶ビールだと飲むだけでなく誰かの空いているグラスに注ぎ足すこともセットじゃないですか。以前、学生主催の謝恩会に参加したんですが、缶ビールでやっていましたね。缶を持っていれば、人に強要されないから。空いたグラスを持ってるとすぐ「まあまあまあ」って注ぎ出すおじさんが出てくる。

―なるほど。頭いいですね。

飲めない人も強要されないし、飲む人も自分の好きなペースで飲める。皆それぞれ楽しめる。

―正しいとは思いますね。

でもコミュニケーション的に寂しい感じもしますでしょう(笑)。お酒は必ずコミュニケーションの問題が出てきますからね。ビールはとくに「コミュニケーションのお酒」なんですね。

―ああ、なるほど。

僕は家でそんなビールを飲まないんですよ。

―え!そうなんですか?

家で一人ではそんな飲めないんですよ。やっぱり、外で人と話していると、どんどん飲める。ビールって仕事終わった後は一番美味いはずなんですよ。だから一人でもちろん美味しく飲めるはずなんですけども、あまり飲む気にならない。私はそもそもビールが好きというより、人と話すのが好きなのかもしれません。だからあまり一人ではビール飲まないのかもしれない。そういう意味では「コミュニケーションが先にあってのお酒」なんですよね。歴史的にビールってそうなんですよ。みんなでパブや居酒屋に集まってみんなでワイワイ飲む。ということはコミュニケーションがうまく回ってないと、ビールって楽しく飲めないのかもしれない。

―とてもよくわかりますね…。

だからそういう意味で、今「若者のビール離れ」と言われている事態というのは、そういうコミュニケーションの問題で捉えるとわかりやすいかもしれません。

ビールを語れる人は「かっこいい」?!

―そう考えると、日本の「ビールを注ぐ」という文化を止めた方がいいのですかね。ビールの「泡」の大事さも本の中で書かれていたじゃないですか。みなさん「泡」がそこまで大事だと考えずにグラスに注いでますから、そもそもそういう行為自体を止めた方が…。

まあ、ケースバイケースですよね。パーティなんかで「注ぎ足しちゃいかん!」とそこで新たに「説教」してもしょうがないですから(笑)。アメリカの日本食レストランに行った時、現地の人が瓶ビール楽しそうにお互い注ぎながら楽しく飲んでいるのを見て、「よき日本文化」も海外に広まっていると嬉しくなりました。ただ、美味しいビールを飲んで「やっぱり美味しいなあ」としみじみと感じるということは、若い人もすごく共感できることだろうと思うので、そういう飲み方が広がっていけばいいなと思います。そうやって飲むとビールは本当に美味しくなります。ビアホールの生はなぜ美味いかっていうと、しっかり泡を作って、ビールを空気に触れさせない。そういうちょっとした作法を守るだけで、見違えるように美味くなるんです。

―実はまだまだ「ビール文化」の深い部分は日本に定着していないのかもしれませんね。そこがこの本をきっかけに少しずつ広がるといいですね。

そうですね。だから「ベルギービール」とかもっと広がるとおもしろいかもしれない。いわゆるピルスナー系ビール系で皆で「かんぱーい」ってガブガブ飲むんじゃなくて、すごくじっくりと、ワインのような飲み方に向いているものなので。

―読んでいて、飲んでみたくなりました。飲みながらビールの歴史を人に語りたくなりますね。

そっちの方がかっこいいですよ。珍しいから(笑)。ワインを語る人は山ほどいるんですよね。みんな勉強している。だけどビールを語れる人ってそうざらにいない。ベルギービールが何であるかとビールをきちんと個別に説明できる人ってあまりいないんです。

世界最古の食にまつわる法令はビールに関わることだった?!

―その意味でビールのウンチクを学ぶにも最適な本ですね。

ビールのおもしろい話、ビールにまつわる話とか山ほどありますからね。ビール好きで歴史好きだったらビールはもっと楽しいはずですよ。

―古代から続く長い歴史もいろいろわかりました。バビロニアからエジプトを経て、ガリア、現在のフランスでビールの製法が伝わって。そこからドイツの方に行って、ガリアの方はブドウ酒=ワインを造るようになって。

ガリアもワインよりずっとビールだったんですよ。ワインは地中海ですね。ガリアとか北の方はまだブドウはできなかったんです。タキトゥス『ゲルマニア』なんか読むとわかるんですけど、要するにガリア人なんて当時は野蛮な人種で、「なんかよくわからない麦で作ったとんでもない酒を飲んでる」とか書いてあるぐらいですから(笑)。でもガリアでブドウが栽培されていくようになっていくと、ビールはもっと北のゲルマニア、今のドイツで発展して、またブリタニア、今のイギリスに渡って発展してという流れですね。

―最初は宮廷とか寺院で造っていて、だんだん普及していったっていう話もありましたね。

技術的に深まったのは、中世の修道院ですね。もともとは、ビールっていっても簡単に言えば家庭で料理をしているようなものだったのですが、中世ドイツで宮廷は修道院で技術を高めるようになる。あと利権の問題がありますよね。独占利権とか。

―驚いたのが、最古の食にまつわる法令である「ビール純粋令」。あれが1516年ですね。

そう500年前。2年前がちょうど500周年だったですよ。

―それが今なお、続いているってことがすごいですよね。その翌年1517年がルターの宗教改革で。

ドイツの場合には基本的にそういう伝統を大事にしますね。その法令は何かといえば要するに原材料の厳しい規定なんですけど、簡単に言ったら「大麦(麦芽)とホップと水だけで造るものをビールとする」ということですね。これもいろいろ理由があってですね。大麦でビールというのは、小麦の方はパンを作らなきゃいけないので、小麦は使うなってことなんです。

―ああそういうことなんですか。

「ホップを使いなさい」っていうのは、そもそも古代エジプトの頃から「ホップ」の代わりに「グルート」とかいろいろなハーブを使っていたんですが、危ないハーブもあって、長い歴史の中で多くの人が体を壊したりしたんでしょうね。なので安全な「ホップ」のみに限定して、それを使うことを「ビール」ということにしたんです。16世紀辺りまでは混乱したんですけど、イギリスはその先の時代まで「グルート」を使ってたみたいですけどね。でもそこから何百年か経つうちに「ホップ」だけになった。あと「ホップ」はいろいろな効能があります。微生物汚染に強い。すっきり透明な液体になる。あとは苦味が非常に爽快であるとか。逆に言ったら「ホップ」はビール以外で役に立っているところをあまり見たことない(笑)。

―ああそうなんですか。

一部医薬品に使うぐらいなんですけど。ほとんどがビールのためだけのハーブですね。

ビールは最初にグローバル化したお酒?!

―「ホップ」でいうと、本にも書かれていたIPAでしたか。

イギリスのインディア・ペールエール(India Pale Ale)ですね。

―「ホップ」を強くして苦味が特徴のIPAは、そもそも船旅に耐えるためと。

そうですね。インディア・ペールエール(India Pale Ale)は「インドのペールエール」ということですから、イギリスからインドに輸出したビールなんですね。でも当時はスエズ運河がなかったんで、リバプールから出て、赤道を越えて、喜望峰を回っていくわけでしょう。インドにたどり着くまでにすっごい劣化しますよね。それに耐えうるようにホップを大量に使わないといけない。そういう「苦味の強いビール」も歴史の中で残ってきた。でも、今のIPAはそれと同じではありません。そのタイプをアメリカで今のイノベーション使って現代風にアレンジしているものが大半ですね。

―ビールのアメリカへの波及も移民たちがアメリカへ渡る船旅の行程で、ビールを飲料水として持ち運んだと。

はい。水も持ってったんでしょうけども、水は腐っちゃうので、それよりはビールは日持ちもするので安全だという話でたくさん持っていったんです。それでアメリカに入植してだいぶ早い段階でビール醸造に手をつけてますね。ドイツ系の移民も多かったというのもあるんですが、盛んになった。

―そう考えるとたしかにアメリカのビールはやっぱり「渇きを潤す」ようなイメージが強いですね。

今はアメリカもクラフトビールが多くなっていて一概に言えないですけど、基本的にはバドワイザー的なスカッと爽やかなものですね。

―暑い日にプシュッと開けてグッと飲んでというイメージですね。

軽いですよね。それも悪い意味じゃなくて。僕もアメリカでビールを飲む時はバドワイザーとかクアーズとかのライト系を飲みますが、やっぱりそれが美味いと思いますよ。気候的にも喉が渇くんですよ。

―そういうアメリカンビールの影響もあるんでしょうけど、お酒の中でもビールには何か特別に「自由の象徴」的なイメージもありますよね。出張の帰りに新幹線で開けるお酒はやっぱり缶ビールになっちゃうみたいな。プシュッと開けて「ああ自由だ!」みたいな(笑)。

そうなりますよね(笑)。バドワイザーとか、アメリカのコーラとかハーレーダビッドソンとかと同じで、昔のアメリカの象徴ですよね。昔はアメリカ=自由のイメージだったから。昨今のアメリカは自由かどうかわからないけれど(笑)。

―そういった意味でも、アルコールの中では何か特別な「意味合い」がくっついているお酒ですよね。先ほど指摘された「コミュニケーションのお酒」という部分も含めて、他のお酒とは違って、どこかユニークですよね。

一般的なビールは、ヨーロッパの場合でも、庶民が非常に手に取りやすい酒ですからね。原材料に関しても、ワインだったらブドウ畑の横にワイナリーがないと醸造が難しいんですけど、ビールの場合は原材料が麦なので運搬含めても自由度がある。そうすると小さい醸造施設から工場化されていき、18世紀、19世紀になってくると産業革命の影響で技術革新もあるので、その工場がどんどん大きくなりますよね。品質の安定したビールの大量生産にも耐えられる。近代の中でグローバル化が一気に進んだ最初のアルコール飲料でしょうね。

―ああなるほど。それで世界へあまねくビールが普及したと。

そうですね。でも、これからやっぱりそのグローバル化飲料としてだけではなく、新たなクラフトっていうんですか、手造り感のある少量多品目がどう広がっていくかが鍵ではないでしょうか。昨今のビジネス用語で言えば、ロングテール化への対応です。今は流通も含めて整備されてきますから、昔は手に入らなかったようなビールも今は手に入りやすいし、現地に行くことも比較的容易になりました。ですのでクラフト系ビールはどういう風に発展するかはとても楽しみですね。

―なるほど。イベント前に貴重なお話ありがとうございました。イベントの方も頑張ってください!楽しみにしております。

刊行記念イベント「ビールの科学とロマンを語る」に潜入!

2018年7月24日(火)15時30分から東京銀座教文館9階のウェンライトホールにて。
「ビールのおもしろい話、ビールにまるわる話」がたくさん飛び出します。

続けて刊行記念イベント「ビールの科学とロマンを語る」にも潜入しました!50名ほど収容できる会場は満席で大盛況。『カラー版 ビールの科学』を参考に、本では取り上げなかったビールにまつわる逸話からこぼれ話をさまざまに語ります。スライドでは渡さんの海外出張中の若い頃のお写真からサッポロビールの研究データまで多岐に渡り、ビールの「科学」や「歴史」から「ロマン」さらに「美味しい飲み方」まで、あっという間の1時間でした。「ビールは姿勢を正しく飲むともっと美味しくなる!」とのこと。ぜひ、みなさん試してみてください。

喉に直接ビールを当てるように飲むと美味しい?!姿勢が大事です!

懇親会では伝説の「ソラチエースエール」を試飲!

イベント後は会場から少し移動して銀座ライオンで懇親会です。紹介された各種ビールの飲み比べが行われました。その中でも今回の目玉は伝説のビール「ソラチエースエール」。

今や世界で大人気の「ソラチエースエール」が今回特別に会場でふるまわれました!

1984年サッポロビールが北海道空知郡で開発しながら「日本人には合わない」と判断され長い間忘却されていた伝説のホップ「ソラチエース」。そのホップが2007年、遠いアメリカの地でその価値を再び見出され、今や世界中で引く手あまたの人気ホップに!その「ソラチエース」を100%使用したビールが「ソラチエースエール」。今回特別に数樽だけ空輸された貴重なビールが、イベント参加者のみなさんに振る舞われました。そしてなんとブクログ通信取材班にも特別に振る舞っていただけました!

これは…たしかに…普通のビールとまったく違う!レモングラス、シトラス、ディルを思わせる香りが特徴的だと言われる「ソラチエース」ですが、不思議と良質なバターのようなコクが口の中に広がり、フルーティな香ばしさが鼻に抜ける。今までにない体感。たしかにこれは…じっくりと舐めるように味わい尽くしたいビールです。今回、こんな貴重なビールも取材班にも快く振る舞っていただきありがとうございました。皆さんもチャンスあればぜひ飲んでみてください。

本日の「テーマ」片手に挨拶をする渡さん

ビールの知識や歴史的背景、美味しい飲み方も知ってから飲むビールは、味も格別!このたびインタビューに回答いただいた渡淳二さん、他サッポロビールのみなさん、講談社ブルーバックス編集部のみなさん、そしてイベント参加者の皆さま、お疲れ様でした!かんぱーい!

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