2018年本屋大賞発表式潜入!辻村深月さん『かがみの孤城』受賞スピーチ、部門賞紹介

「2018本屋大賞」発表式・授賞式 辻村深月さん受賞のことば・スピーチ

今年で15回目を迎える「2018年本屋大賞」の発表式と授賞が、4月10日に明治記念館にて行われました。多くの書店員さん、出版関係者たちが、その会場に集まっていました。そして、「いちばん!売りたい本」として全国書店員が選んだ大賞は、辻村深月さん『かがみの孤城』でした!

今回のブクログ通信で発表式の様子をお伝えし、辻村深月さんをはじめとした多くの方々のご挨拶をご紹介いたします。

2018本屋大賞オフィシャルページはこちらから

2018年本屋大賞発表式 前年度受賞者の恩田陸さんと辻村深月さん

受賞発表後、2017年本屋大賞受賞者である恩田陸さんが登場。花束と、お祝いの言葉が贈られました。「最高のタイミングで最高の文章を書いていただけるかってことは、とても難しいことだと思います。ですがこの両者がいいタイミングで出会うのは本当に幸せなこと」。

2018年本屋大賞受賞作『かがみの孤城』発表・授賞式 辻村深月さん、恩田陸さん
2018年本屋大賞受賞作『かがみの孤城』発表式 辻村深月さん、恩田陸さん

続いて辻村さんの『かがみの孤城』本屋大賞受賞スピーチがありました。要旨をお伝えします。

「本屋大賞2018」大賞作 辻村深月さん『かがみの孤城』(ポプラ社)
「本屋大賞2018」大賞作 辻村深月さん『かがみの孤城』

「みなさん本当にありがとうございます。もっと緊張するかなと思ったんですけど、顔見知りの書店員さんや読んでくださった皆さん、普段お仕事で関わっている皆さん―みんながこんな来てくれて、いますごく暖かいアットホームな気持ちでここに立つことができて、本当に嬉しいです」

2018年本屋大賞受賞作『かがみの孤城』発表・授賞式 辻村深月さん
2018年本屋大賞受賞作『かがみの孤城』発表式 辻村深月さん

辻村さんは『かがみの孤城』のストーリーを簡単に振り返りながら、タイトルの経緯を教えてくださいました。主人公の「こころ」は中学校であることがあって、学校に行けなくなってしまいます。そんな彼女が自宅の部屋の「かがみ」を通じて、向こう側のお城に辿りつく。

「『かがみの孤城』は、子供と、かつて子供だった全ての人に向けて書いた話です」

「この話を書き始めた時に、私が当初想定していたタイトルは『かがみの城』というものだったんですが、それに対して担当編集者が『「孤城」はどうですか?』って言ってくれました。耳慣れない言葉だったんですが、『孤城というのは敵に囲まれて身動きが取れなくなっている城。それが主人公の行き場所がなくなってしまった気持ちとすごく合うんではないか』というふうに言っていただいて、『かがみの孤城』が誕生しました」

「身動きが取れなくて、周りが敵だらけになった状態で、部屋にうずくまっている誰か―これは子供でも大人でもあることだと思うんです―そのうつむいている誰かに対して、『外に出て行くのが怖いならこちらから迎えに行く』という気持ちで、鏡を入り口に冒険に出かけてもらうことにしました。
 今回の本屋大賞の第1位というのを聞いたときに、私が一人で誰かに向けて手を伸ばしたものを、『その誰かを一緒に迎えにいきましょう』と全国の書店員さんたちが暖かく握り返してくださった結果なのだということを思いました。このスピーチを聞いてくださっているどなたかが、『居場所のない気持ちがあるのであれば、その誰かを救いたい』と思って投票してくださった結果が1位なんだというふうに思っています。
 それともう一つ、今回の本屋大賞をいただいた時に思ったのは、私の逃げ場のない気持ちでいたとき―私の部屋の鏡は光りませんでしたが―その代わりに私の傍らでいつも会ってくれたのが本の存在でした。その本が私のかばんの底とか、本棚の片隅で、扉になって私を色んな世界へ冒険に連れて行ってくれました。そういう扉になってくれた先輩の作家さんたちや、私が愛してきたミステリ―今回の話をミステリやSFとしても読んでいただけることにはすごく誇りを感じています―読んできた本に対しての恩返しのようなことができたら、とても嬉しいです」

辻村深月さんと書店員のみなさん
辻村深月さんと書店員のみなさん

そして辻村さんは、本屋大賞についての思いを語り始めました。

「今回、書店員さんたちが繋いでくださったこの本屋大賞は、バトンだと思っています。私が書いた『かがみの孤城』を、本屋大賞を渡していただいて、全国の書店から、本を手にとってくださる方にバトンとして渡せたんだと思っています。今はうつむいているその誰かが今回の『かがみの孤城』を読んで、次の誰かに向けて顔を上げて―その誰かを救いたいと思って私が書く側に来たように―、次の誰かがこの気持ちを繋げてくれたらとても嬉しいです」

「読んでくださった書店員さんのコメントの中には、『子供の時間は常に大人と繋がっているんだということを思いました』というふうに書いてくださっているものや、『読み終えて、子供を助けるのはやっぱり大人なのでないといけないな、と思いました。だって私たち、子供だったんだから』ってものがありました。この気持ちが別の誰かに届いて、私はこうやってバトンを繋げてみんなにもらって、今この場所に立たせてもらっているんだというふうに思います」

「本当に本屋大賞ありがとうございました!」

非常に感動的なスピーチでした!

なお、『本の雑誌増刊 本屋大賞2018』にも、辻村さんの受賞の言葉が掲載されています。こちらはスピーチとはまた違った形で、感動的な言葉が綴られています。ぜひご一読くださいね。

著者:辻村深月(つじむら・みづき)さんについて

1980年山梨県生まれ。千葉大学教育学部卒業。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞を、『鍵のない夢を見る』で第147回直木賞を受賞。

辻村深月さんの作品一覧

2018年本屋大賞翻訳小説部門1位『カラヴァル 深紅色の少女』

本屋大賞は、他にも様々な部門があり、各部門授賞式も行われています。今年1年に日本で翻訳された小説(新訳も含む)の中から、諸店員さんが「これぞ!」という本を選び投票したものです。今回の1位は『カラヴァル 深紅色の少女』です。

2018年本屋大賞翻訳小説部門1位『カラヴァル 深紅色の少女』西本かおるさん
2018年本屋大賞翻訳小説部門1位『カラヴァル 深紅色の少女』西本かおるさん

翻訳者の西本かおるさんからご挨拶がありました。「幅広い年齢層に楽しんでもらえる内容なので、今回の受賞をきっかけに10代の人々に読んでほしい」と仰いました。続編『カラヴァル2』(仮)が6月に刊行予定で、さらにお話が盛り上がってきます、とのことでした。

2018年本屋大賞発掘部門『異人たちの館』

発掘部門は、書店員さんが2016年11月30日以前に刊行された作品の中から、ジャンル不問で「時代を超えて残る本」「今読み返しても面白いと思う本」を選ぶ部門です。その中から「これは!」という本が選ばれる部門です。今年の発掘部門は、『異人たちの館』でした。

本屋大賞発掘部門 勝木書店本店樋口麻衣さん
本屋大賞発掘部門 勝木書店本店樋口麻衣さん

推薦者は、福井を中心としたチェーン店「勝木書店」本店の樋口麻衣さん。売ったスリップを手にしながら、どれだけこの本を売りたかったか、売ってきたかということについてスピーチされていました。

2018年本屋大賞発掘部門受賞作『異人たちの館』折原一さん
2018年本屋大賞発掘部門受賞作『異人たちの館』折原一さん

また、著者の折原一さんからもスピーチが。ユーモアあふれる語り口で本の来歴を説明されていました。『異人たちの館』は代表作(第47回日本推理作家協会賞長編部門候補作、1993年「週刊文春ミステリーベスト10」4位)。さまざまな出版社から発売されてきたけれども、「出せば絶版、出せば絶版」ということで出版社を転々としてきたそうです。文庫本にしては高額になってしまったが、それは発行部数の少なさゆえのこと。「こういうこと(発掘部門)で選んでいただいて、恥ずかしいような……」と前置きしつつ、「本はすごく喜んでいると思うんです。全国の書店員さんに読んでいただいて、注文していただければ有り難いと思います」という言葉で挨拶を締めました。

各地域の書店賞紹介

近年、さまざまな地域で本に関する賞が設立されました。その地域の書店員さん同士が集まって連携し、人が本に出会うきっかけ作りをしたり、ご当地著者やご当地本を広めたり、本屋の面白さを伝えようとしています。本屋大賞は近年、この地域の賞を紹介しています。今回紹介されたのは、「静岡書店大賞」「広島本大賞」「神奈川本大賞」「京都本大賞」「日本ど真ん中書店大賞」「埼玉県の高校図書館司書が選んだイチオシ本」でした。会場ではそれぞれの受賞作も展示されていました。

静岡書店大賞『AX アックス』

広島本大賞 小説部門『崩れる脳を抱きしめて』

広島本大賞 ノンフィクション部門部門『カウンターの向こうの8月6日』『ちゃんと食べとる?』

神奈川本大賞 『明日の食卓』

明日の食卓

著者 : 椰月美智子

KADOKAWA/角川書店

発売日 : 2016年8月31日

ブクログでレビューを見る

Amazonで購入する

京都本大賞 『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』

日本ど真ん中書店大賞 小説部門1位 『か「」く「」し「」ご「」と「』

日本ど真ん中書店 大賞時代・歴史部門1位 『忍びの国』

日本ど真ん中書店 よりよい暮らし部門1位 『九十歳。何がめでたい』

埼玉県の高校図書館司書が選んだイチオシ本1位 『かがみの孤城』

本当に盛りだくさんの本屋大賞授賞式でした。大賞作『かがみの孤城』以外でも、ここで気になる本があったら是非手にとってみてくださいね。

本屋大賞(ほんやたいしょう)とは

「本屋大賞」(ほんやたいしょう)とは2004年に設立された、書店員有志で組織するNPO法人「本屋大賞実行委員会」が運営する文学賞。キャッチコピーは「全国書店員が選んだいちばん! 売りたい本」。一般の文学賞とは異なり作家・文学者は選考に加わらず、「新刊を扱う書店(オンライン書店を含む)の書店員」の投票によってノミネート作品および受賞作が決定される。過去一年の間、参加書店員が読み「面白かった」「お客様にも薦めたい」「自分の店で売りたい」と思った本を選び投票。また「本屋大賞」は発掘部門も設け、過去に出版された本のなかで、時代を超えて残る本や、今読み返しても面白いと書店員が思った本を選ぶ。
http://www.hontai.or.jp/about/index.html

関連リンク

2018年本屋大賞は、辻村深月さん『かがみの孤城』に決定![2018年4月10日]
ポプラ社『かがみの孤城』特設サイト